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番外編
挿話 あの後のこと 2 (ダグラス視点)
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※ダグラスが、王宮から、ルリを連れだした後のことになります。ダグラス視点です。
2週間ぶりくらいに、この屋敷にきた。
異世界からきた女、ルリを留め置いている屋敷だ。
「ダグラスさん!」
部屋に入るなり、私に、駆け寄ってきたルリ。
以前より太ったものの、元気そうではある。
さすが、私の使い魔は優秀だ。食事も衛生面も世話にぬかりはないようだ。
うっかり、病になって、ころっと死なれても困る。
「ちょっと、ダグラスさん! いつまで待たせるの? まだ、伯爵様は病気なの?」
と声を荒げたルリ。
ああ、病気……。そういう設定だったな。
あの伯爵なら死神も逃げるだろうが。
「いえ、もう、良くなられました」
「それなら、いつ、伯爵様のお屋敷に出発できるの?」
「準備が整い次第、すぐに……。が、その前に、どうしても確認したいことがありまして、ルリ嬢に会いにきたのですよ。…おや、今着られているドレス、もしかして、また、伯爵からの贈りものですか?」
「うん、そう! 招くのが遅くなったお詫びにって、伯爵様が贈ってくれたの! 今度のドレスも、どれも豪華で、すっごくきれいなんだ! それに、私にぴったり。ダグラスさんも、そう思うでしょ?」
「ええ。とってもお似合いです」
と、答えながら、ルリの着ているドレスを見た。
色褪せたドレスの形は流行おくれで、安物の生地。
もちろん、伯爵からの贈り物ではなく、私が従者に指示して購入した古着のドレスだ。
というのも、使い魔から、ルリが太って、ドレスが着づらそうだという報告があった。
それならばと、前回以上に古いドレスを購入して、前回同様に、「望むものが見える」という術をかけた。
それを伯爵からのお詫びの品だと言って届けるよう指示をだした私。
何故、そんなことをしたかというと、変化を知りたかった。
あれ以来、この部屋で、一人で、ずっと過ごしているルリ。
何もすることがない日々なら、否が応でも自分を見つめなおすだろうと思ったからだ。
もし、物事の本質を見ようとすれば、この術はたちまち解ける。
見た目だけを望む物として見せる、簡単な術だからだ。
あえて、前回以上に古いドレスを用意したが、術は解けなかった。
しかも、解ける気配すらなく、こんなに喜ぶほど術が効いているとは、驚きしかない。
魔術師としては、いろいろな術を試してみたくなるタイプの人間だ。
「では、ルリ嬢、どうぞ、座ってください」
私は、ルリに椅子をすすめた。
ちなみに、私は立ったまま。
自分で指示して購入したものの、派手なだけの家具が、どうもルリと重なって見え、出来る限り触れたくないからだ。
「それで、ダグラスさん。確認したいことってなに?」
と、媚びるように聞いてきたルリ。
私はルリの瞳をじっと見つめた。ルリは嬉しそうに、体をよせてくる。
思わず、のけぞりそうになったが、なんとか耐えて、その瞳に術をかけた。
「本心をしゃべる術」
ちょっと、魅了に似ている術で、ここへ連れてくる馬車の中でもルリにかけて、クリスティーヌ嬢のことなどを聞いた。
今回も、ルリは、すぐにかかった。瞳がトロンとして、やけに嬉しそうだ。
まあ、術にかけなくても、口を割らせられるが、それもまた面倒だ。
その点、この術は簡単で、かかりやすい人間には効果が抜群。
かけられた本人も心地よくしゃべってすっきりするだけで、後遺症も残らない。
私は、術に完全にかかったルリにゆっくりと問いかけた。
「ひとつ、気になったことがあるのです。それを確認しにきました。ルリ嬢は、異世界からやってこられた。その生まれ育った世界なのですが……」
と、ここまで言った時、術にかかって上機嫌のルリが、へらへら笑いながら答えた。
「生まれ育った世界……? あ、日本のこと?」
へえ、ルリのいた異世界は、ニホンというのか……。
「ええ、そうです。ニホンですよ……。私が気になったのは、ルリ嬢は、この世界に来てから、帰りたいと言われたことがないのでは? 先日、王宮に行った時、ルリ嬢の近くにいた者たちにも聞いてみました。すると、「帰りたい」などと言っているルリ嬢を、誰も見たことも聞いたこともないと……。しかし、本当はどうなのです? 帰りたいですか? それとも帰りたくない? あるいは、帰ることをあきらめ、口にださないようにしているとか?」
私の質問に、ルリが、おもしろそうに笑った。
※ 読みづらいところも多いと思いますが、読んでくださった方、ありがとうございます!
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2週間ぶりくらいに、この屋敷にきた。
異世界からきた女、ルリを留め置いている屋敷だ。
「ダグラスさん!」
部屋に入るなり、私に、駆け寄ってきたルリ。
以前より太ったものの、元気そうではある。
さすが、私の使い魔は優秀だ。食事も衛生面も世話にぬかりはないようだ。
うっかり、病になって、ころっと死なれても困る。
「ちょっと、ダグラスさん! いつまで待たせるの? まだ、伯爵様は病気なの?」
と声を荒げたルリ。
ああ、病気……。そういう設定だったな。
あの伯爵なら死神も逃げるだろうが。
「いえ、もう、良くなられました」
「それなら、いつ、伯爵様のお屋敷に出発できるの?」
「準備が整い次第、すぐに……。が、その前に、どうしても確認したいことがありまして、ルリ嬢に会いにきたのですよ。…おや、今着られているドレス、もしかして、また、伯爵からの贈りものですか?」
「うん、そう! 招くのが遅くなったお詫びにって、伯爵様が贈ってくれたの! 今度のドレスも、どれも豪華で、すっごくきれいなんだ! それに、私にぴったり。ダグラスさんも、そう思うでしょ?」
「ええ。とってもお似合いです」
と、答えながら、ルリの着ているドレスを見た。
色褪せたドレスの形は流行おくれで、安物の生地。
もちろん、伯爵からの贈り物ではなく、私が従者に指示して購入した古着のドレスだ。
というのも、使い魔から、ルリが太って、ドレスが着づらそうだという報告があった。
それならばと、前回以上に古いドレスを購入して、前回同様に、「望むものが見える」という術をかけた。
それを伯爵からのお詫びの品だと言って届けるよう指示をだした私。
何故、そんなことをしたかというと、変化を知りたかった。
あれ以来、この部屋で、一人で、ずっと過ごしているルリ。
何もすることがない日々なら、否が応でも自分を見つめなおすだろうと思ったからだ。
もし、物事の本質を見ようとすれば、この術はたちまち解ける。
見た目だけを望む物として見せる、簡単な術だからだ。
あえて、前回以上に古いドレスを用意したが、術は解けなかった。
しかも、解ける気配すらなく、こんなに喜ぶほど術が効いているとは、驚きしかない。
魔術師としては、いろいろな術を試してみたくなるタイプの人間だ。
「では、ルリ嬢、どうぞ、座ってください」
私は、ルリに椅子をすすめた。
ちなみに、私は立ったまま。
自分で指示して購入したものの、派手なだけの家具が、どうもルリと重なって見え、出来る限り触れたくないからだ。
「それで、ダグラスさん。確認したいことってなに?」
と、媚びるように聞いてきたルリ。
私はルリの瞳をじっと見つめた。ルリは嬉しそうに、体をよせてくる。
思わず、のけぞりそうになったが、なんとか耐えて、その瞳に術をかけた。
「本心をしゃべる術」
ちょっと、魅了に似ている術で、ここへ連れてくる馬車の中でもルリにかけて、クリスティーヌ嬢のことなどを聞いた。
今回も、ルリは、すぐにかかった。瞳がトロンとして、やけに嬉しそうだ。
まあ、術にかけなくても、口を割らせられるが、それもまた面倒だ。
その点、この術は簡単で、かかりやすい人間には効果が抜群。
かけられた本人も心地よくしゃべってすっきりするだけで、後遺症も残らない。
私は、術に完全にかかったルリにゆっくりと問いかけた。
「ひとつ、気になったことがあるのです。それを確認しにきました。ルリ嬢は、異世界からやってこられた。その生まれ育った世界なのですが……」
と、ここまで言った時、術にかかって上機嫌のルリが、へらへら笑いながら答えた。
「生まれ育った世界……? あ、日本のこと?」
へえ、ルリのいた異世界は、ニホンというのか……。
「ええ、そうです。ニホンですよ……。私が気になったのは、ルリ嬢は、この世界に来てから、帰りたいと言われたことがないのでは? 先日、王宮に行った時、ルリ嬢の近くにいた者たちにも聞いてみました。すると、「帰りたい」などと言っているルリ嬢を、誰も見たことも聞いたこともないと……。しかし、本当はどうなのです? 帰りたいですか? それとも帰りたくない? あるいは、帰ることをあきらめ、口にださないようにしているとか?」
私の質問に、ルリが、おもしろそうに笑った。
※ 読みづらいところも多いと思いますが、読んでくださった方、ありがとうございます!
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