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番外編
ムルダー王太子 22
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不気味なダグラスの目から、あわてて視線をそらしたぼくに、父上が厳しい声のまま言った。
「ムルダーよ。1年半、おまえが、お飾りの王太子をつとめ、無事、ロバートに王太子の座を譲ることができたなら、あとのことは何も心配しなくてよい。その後のおまえのために、ダグラスがおまえの居場所を整えてくれることになった。ダグラスに感謝しろ」
「ええっ! なんで、ダグラスが…!?」
もう、嫌な予感しかない…。内容なんて聞かなくてもわかる。
ダグラスが、ぼくのことを嫌っているのは間違いないのに…。
「父上! ダグラスの世話になるなんて、絶対に嫌です! それに、ぼくはお飾りの王太子なんて、やるとは言っていないっ! ロバートが王太子になることも、絶対に認めない! ぼくが王太子だ!」
「ムルダー!」
父上が怒鳴った。
怒りのこもった目でぼくを見る父上。
なんで、そんな目でぼくを見る!
怒るのは、ぼくのほうだ!
ぼくの味方をしてくれそうなのは…
「母上! 父上をとめてくださいっ!」
と、頼んだ。
なのに、母上は、ぼくの声が聞こえていないかのように、やっぱり、ぼくを見ない…。
「母上! ぼくは、母上のたった一人の息子でしょう?! 大事じゃないんですか?!」
そう叫んだのに、母上は、まるで、ぼくがいないかのように無視している。
ふと、ぼくを優しく見つめる紫色の澄んだ瞳が思い出された。
ああ、クリスティーヌ…。クリスティーヌがいてくれたら…。
ぼくを心から愛してくれたのは、クリスティーヌだけだったんだ…。
「勘違いするな、ムルダー。おまえが認めなかろうが関係ない。お願いしているのではないからな。処罰だと言っただろう。つまり、命令だ。おまえに、なにひとつ拒否する権利などない! それでも聞けないというのなら、毒杯しかあるまい。おまえが死んだとて、クリスティーヌに償うことはできんがな」
父上の冷たい声が響いた。
「え…、毒杯…?!」
「まあまあ、物騒なことをおっしゃらずに、落ち着かれてください、国王陛下。ムルダー様も、ご自分の知らないところで決められたため、不安になられて、混乱されているのでしょう。私から簡単に説明させていただきます。聞けば、安心されるでしょうから」
口調だけは優し気なダグラス。
が、ダグラスの声を聞くと、安心するどころか、どんどん不安が大きくなっていく。
「そうしてくれ、ダグラス」
疲れきった顔で父上が言った。
ダグラスが、ぼくのほうに向きなおったので、すぐに、ぼくは目をそらした。
なのに、ダグラスは構わず話し始めた。
「1年半後、お役目を終えられたムルダー様には、うちの領地の中でも、王都から離れ、まわりの喧騒にわずらわされることなく、のんびりと暮らしていただける静かな場所をご用意します。もちろん、領地経営なども不要。それは、全てロンバルディア公爵家が行います。ムルダー様は、何もしなくて結構です」
「何から何まで悪いな、ダグラス。ムルダー、おまえは、王太子の座を降りたあとは、名ばかりの公爵となる」
「名ばかりの公爵…?」
「ああ、そうだ。仮に、おまえの子どもが生まれたとしても、その子どもに王位継承権はない。もちろん、おまえもない。公爵としての仕事をする必要もない。名ばかりの公爵として、そのお飾りにしようとした女と共に、田舎でゆっくり暮らせ」
と、父上が言い放った。
「ええ、そうですよ、ムルダー様。お飾りの公爵として、何も心配することなく、どうぞ、わが領地で、のんびりとお暮らしください」
ダグラスが楽しそうな声で言った。
は…? 父上たちは何を言っている。
名ばかり…、お飾り…。
ずっと王太子だった、このぼくが?
あまりのことに、ぼくの思考がとまった。
※読みづらいところも多々あると思いますが、読んでくださった方、本当にありがとうございます!
お気に入り登録、エール、ご感想も本当にありがとうございます!
大変、励みにさせていただいています!
「ムルダーよ。1年半、おまえが、お飾りの王太子をつとめ、無事、ロバートに王太子の座を譲ることができたなら、あとのことは何も心配しなくてよい。その後のおまえのために、ダグラスがおまえの居場所を整えてくれることになった。ダグラスに感謝しろ」
「ええっ! なんで、ダグラスが…!?」
もう、嫌な予感しかない…。内容なんて聞かなくてもわかる。
ダグラスが、ぼくのことを嫌っているのは間違いないのに…。
「父上! ダグラスの世話になるなんて、絶対に嫌です! それに、ぼくはお飾りの王太子なんて、やるとは言っていないっ! ロバートが王太子になることも、絶対に認めない! ぼくが王太子だ!」
「ムルダー!」
父上が怒鳴った。
怒りのこもった目でぼくを見る父上。
なんで、そんな目でぼくを見る!
怒るのは、ぼくのほうだ!
ぼくの味方をしてくれそうなのは…
「母上! 父上をとめてくださいっ!」
と、頼んだ。
なのに、母上は、ぼくの声が聞こえていないかのように、やっぱり、ぼくを見ない…。
「母上! ぼくは、母上のたった一人の息子でしょう?! 大事じゃないんですか?!」
そう叫んだのに、母上は、まるで、ぼくがいないかのように無視している。
ふと、ぼくを優しく見つめる紫色の澄んだ瞳が思い出された。
ああ、クリスティーヌ…。クリスティーヌがいてくれたら…。
ぼくを心から愛してくれたのは、クリスティーヌだけだったんだ…。
「勘違いするな、ムルダー。おまえが認めなかろうが関係ない。お願いしているのではないからな。処罰だと言っただろう。つまり、命令だ。おまえに、なにひとつ拒否する権利などない! それでも聞けないというのなら、毒杯しかあるまい。おまえが死んだとて、クリスティーヌに償うことはできんがな」
父上の冷たい声が響いた。
「え…、毒杯…?!」
「まあまあ、物騒なことをおっしゃらずに、落ち着かれてください、国王陛下。ムルダー様も、ご自分の知らないところで決められたため、不安になられて、混乱されているのでしょう。私から簡単に説明させていただきます。聞けば、安心されるでしょうから」
口調だけは優し気なダグラス。
が、ダグラスの声を聞くと、安心するどころか、どんどん不安が大きくなっていく。
「そうしてくれ、ダグラス」
疲れきった顔で父上が言った。
ダグラスが、ぼくのほうに向きなおったので、すぐに、ぼくは目をそらした。
なのに、ダグラスは構わず話し始めた。
「1年半後、お役目を終えられたムルダー様には、うちの領地の中でも、王都から離れ、まわりの喧騒にわずらわされることなく、のんびりと暮らしていただける静かな場所をご用意します。もちろん、領地経営なども不要。それは、全てロンバルディア公爵家が行います。ムルダー様は、何もしなくて結構です」
「何から何まで悪いな、ダグラス。ムルダー、おまえは、王太子の座を降りたあとは、名ばかりの公爵となる」
「名ばかりの公爵…?」
「ああ、そうだ。仮に、おまえの子どもが生まれたとしても、その子どもに王位継承権はない。もちろん、おまえもない。公爵としての仕事をする必要もない。名ばかりの公爵として、そのお飾りにしようとした女と共に、田舎でゆっくり暮らせ」
と、父上が言い放った。
「ええ、そうですよ、ムルダー様。お飾りの公爵として、何も心配することなく、どうぞ、わが領地で、のんびりとお暮らしください」
ダグラスが楽しそうな声で言った。
は…? 父上たちは何を言っている。
名ばかり…、お飾り…。
ずっと王太子だった、このぼくが?
あまりのことに、ぼくの思考がとまった。
※読みづらいところも多々あると思いますが、読んでくださった方、本当にありがとうございます!
お気に入り登録、エール、ご感想も本当にありがとうございます!
大変、励みにさせていただいています!
応援ありがとうございます!
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