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「今はいいですが、このまま何もなく薬の効果が持続できるかなと」

「え……っ!? 何それ、まさか効果に期限があるの!?」

「いいえ、効果は半永久的に持続します。ただ、最初は良くてもだんだん気に病んでくる方が多いんですよ。薬で心を手に入れただけで、本当にその人が自分を好きになったわけではないのだと」

 魔術師は真面目な顔でそう説明する。

 しかし、効果が切れるわけではないと聞き、私はすっかり安心してしまった。


「そんなことなら大丈夫よ。クロヴィス様に好かれていないのは初めからわかっていたことだもの。薬の効果でも何でも私を好きでいてくれるだけで十分よ」

「そうですか? フルール様がいいのならいいんですけど」

 魔術師はそう言うものの、まだ複雑な顔をしていた。

 本当に私は惚れ薬の効果でも何でも、彼がこちらを見てくれるだけで十分なのだ。もともと私がお父様にお願いして、無理矢理結んだ婚約だし。

 今さら強引なやり口が加わったって何とも思わない。


「フルール様、もしこの先薬のことで悩むようなことがあったら、僕の店まで来てください。相談くらいは乗りますから」

 魔術師はそう言うと、籠製のバックから紙とペンを取り出して、さっと店の住所を書いて渡してくれた。

「ご親切にありがとう。悩む心配はないと思うけれど一応受け取っておくわ」

「まぁ、悩まないのが一番ですがね。一時間につき銀貨三枚で相談に乗りますよ」

「あら、お金を取るのね」

 私たちがそんなことを話していると、突然後ろからドタバタと焦ったような足音が聞こえてきた。


「フルール!!」

 何事かと思った途端、右腕を強く掴まれ、振り向くとそこには硬い表情をしたクロヴィス様がいた。

「クロヴィス様、どうなさったんですか?」

「どうなさったじゃない。この男はなんだ? 俺以外の奴と二人きりで話すなんて……!」

 クロヴィス様はそう言って後ろからぎゅっと私を抱きしめる。

 ああ、クロヴィス様が焼きもちを……! しかも抱きしめられている!!

 私があまりの幸せに恍惚としていると、その様子を見ていた魔術師が、ちょっと引いた顔で言った。

「いえ、ちょっと商売の話をしていただけですから。心配なさらないでください」

「商売? フルールにおかしな話をしていたわけではないだろうな」

「いいえ、とんでもない。あなたのような騎士様がついているご令嬢に、おかしなものを売りつけるなんて怖くて出来ませんよ」

 魔術師は肩をすくめて言う。



「大した用がないのなら立ち去れ。フルールの笑顔を見て良いのは俺だけだ」

「ふぐ……っ、承知しました」

 クロヴィス様に不機嫌そうに命じられた魔術師は、なぜか口元を押さえて笑いをこらえるような仕草をした後、神妙な顔でうなずいた。

 彼はくるりと背を向けて去って行く。

 魔術師が行ってしまうと、クロヴィス様は私の顔を覗き込み、甘い甘い声で言った。


「フルール、さっきは怒ってごめん。俺が騎士団の先輩達に連れて行かれて寂しかったよな。もう一人にしないから、ほかの男と二人になるのはやめて欲しいんだ」

「はい……! もう二度とクロヴィス様以外の男性と二人になりませんわ!」

 私は感動して何度もうなずく。クロヴィス様の顔がほっとしたように緩んだ。

 ああ、本当に最高だわ。

 クロヴィス様のこんな甘えるような顔が見られるなんて。

 惚れ薬を売ってくれただけでなく、クロヴィス様に焼きもちまで焼かせてくれた魔術師には感謝してもし足りないくらいだった。
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