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「フルール、パーティーとは人が多くて嫌なものだな。美しく着飾った君を見て男が言い寄ってこないか気が気ではなくて落ち着かない」

「まぁクロヴィス様……! そんな心配なさらないでくださいませ! 誰が声をかけてこようとも、私が見ているのはクロヴィス様だけですわ!」

「フルール……! 俺もだよ! 俺も君以外誰も目に入らない!パーティーが終わったらすぐにうちの屋敷に戻って、二人でゆっくり過ごそうな」

 パーティー会場で私たちは、人目もはばからずそんな会話をしていた。

 会場にいる参加者たちは、私たちをまるで見てはいけないものでも見るかのように眺めている。

 会話の内容に呆れている可能性もあるが、おそらく以前の私たちを知っているのだろう。

 公の場では婚約者として扱ってくれるとはいえ、クロヴィス様が私を疎んじているのは有名だったから。

 私は戸惑いと困惑の混じった周りの人たちの視線すら心地よく、幸せな気持ちでクロヴィス様にもたれかかる。


 しかし、そんな幸せを打ち消すように、向こうから男性の集団がやって来た。この前と同じシチュエーション。どうやらクロヴィス様の知り合いが彼を見つけてきたらしい。

「ああ、面倒な奴らに見つかったな……」

 クロヴィス様は彼らを横目で見ながら、いまいましそうに呟く。

「ごめんな、少し待っててくれ」

 クロヴィス様は眉根を寄せてそう言った。

 もしかしたらご友人達に紹介してもらえるかもと期待した私は、少しだけへこんでしまう。

 どうやら惚れ薬を使っても、結局は置いて行かれる運命にあるようだ。しかし、今回のクロヴィス様は、彼らの方に行く前に「すぐに戻るから」と耳打ちしてくれた。

 その声があんまり甘やかなので、私はクロヴィス様と離れる寂しさも忘れ、ご機嫌で廊下へ出た。


***


「楽しそうですね、フルール様」

「あら、魔術師さん」

 うっとりした気分のまま廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。

 振り返ると、そこには以前会ったときと同様怪しげなローブに身を包んだ魔術師がいた。彼は口の端を上げて、おもしろそうにこちらを見ている。


「ええ、すっごく楽しいわ! 最高よ!」

「それはよかったです。しかし、クロヴィス様もすっかり変わりましたねぇ」

 魔術師は感心した様子で言う

 あれ、婚約者の名前を彼に教えたかしらと少し疑問に思う。そう言えばさっきも普通に私の名前を呼んでいたけれど、この前名乗っただろうか。

 少し疑問に思ったが、公爵令嬢とその婚約者である騎士団のエリートの名前なんて知っていても不思議ではないかと思い直す。

 なんにしろ、この人は私の恩人なのだ。小さなことで訝しむ必要はない。


「ええ、本当よ。クロヴィス様、今までが嘘のように私に優しくしてくれるの。何度も私に可愛いとか愛してるなんて言ってくれて」

「ひゃー、あのクロヴィス様が。びっくりです」

「金貨五枚であんないい薬を譲ってもらって申し訳ないくらいだわ」

 私が言うと、魔術師は得意げな顔になる。それからふいに真面目な顔になった。

「フルール様に喜んでいただけて嬉しいのですが、ちょっと心配事があるんですよね」

「心配事?」

 気になる言葉に、少し不安になりながら彼を見る。
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