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おかわりもかき氷でいいか?
しおりを挟む一番成績がいい先輩らしいけど、なぜか誰も補佐につかないのでよそ者の僕がわけもわからぬままついている。拒否しようにもできない。結構体育会系と言えばいいのか、体育は嫌いじゃないんだけど、このノリは合わないなと度々思うことがあった。
本日は本当ならその補佐の仕事は入っていなかった。
だから、データ入力の仕事をしていた。なのに、いきなり先輩に腕をとられて「営業行くぞ」と連れ出された僕はいつもの準備を怠った。
鞄に財布も入っていないし、いつも常備している水筒も忘れた。
スマホも充電不足。手元でふっと画面が消えた瞬間、泣きそうになった。
それらに気付いた時には散々歩きまわされてこき使われた後だった。
それなのに先輩は今からお得意先についていくという。そして自分は邪魔だから先に帰れと言われた。
「ここ、どこなんだよ……」
土地勘もない場所でうろうろと会社まで歩いて帰り始めて早一時間。
手元には生ぬるいトマトジュースが一缶あるけど飲む気にもなれない。
というか飲んでも意味がないから飲まない。日差しがギラギラしていてすごく憎たらしい。
太陽……ちょっとは休もうとか思わないんだろうか。
「あぁ、おみず……」
そして、少しでも体を休めるために公園の日陰に入って、そこから記憶がなかった。
どうやらそこを救ってくれたのがこの人だったらしい。
「あの、ありがとうございました。僕、日陰典理と言います。ここは?」
「思い出した? それならよかったよ。ここは俺の知り合いの家」
なんでそんなところにと首を傾げれば、あちらも傾げる。
「そこは思い出していないのか。君が言ったんだ」
日陰の茂みで倒れ込んでいた典理を見つけた親切な人は救急車を呼ぼうとした。
すると、典理が「お願い。そとのいしゃはよばないで」などと不穏なことを言う。
なんか危ない系の人なのか、と思うが見た目はどう見てもちょっとひ弱な部類に入るサラリーマンで手元にはトマトジュースの缶。
どう見ても熱中症だと思うのだがと思えばお水があればいいんでと小さい声でつぶやく。
急いで水道の水のところまで連れていくが飲もうとしない。
「これじゃあ、だめ、おみず、おいしいおみず」
と言うではないか。
こんな時に飲まず嫌いをする奴があるかとは思ったが、そこでふと思ったのが、今から向かうところ。
あそこにはちょうどよくおいしいお水というものがある。
歩いて2,3分。行くかと肩に担ぐとシャツの背中がすごく濡れた。
友人の自宅へチャイムを鳴らして、はいよーとインターフォン越しにいう友人に開口一番。
「おい、うまい水をくれっ」
と伝えた。インターフォンからはあいよーと返事が返ってきた。
玄関に倒れ込むように典理を寝転がした親切な人のもとに片手に器を持った友人が驚いてやってきた。
「なになに、どしたん? なにそれ? 病人か?」
と聞く友人から器ごとひったくる。そして典理に声をかけた。
「これでもいいか?」
うっすら目柄を開けた典理がお水と言うので、親切な人はこう返した。
「かき氷で我慢しろ」
典理はおとなしくはいと言って頭を差し出してきた。
親切な人が口にかき氷を運ぼうとしたが、口を開かず頭を差し出してくるので、内心慌てている親切な人はスプーンで掬ったかき氷を頭に乗せた。
「あうっ」
典理は小さく身動ぎをする、そしてもっとというので急いで器に入っていた氷を頭にぶっかけた。
「あっ、ん、はぁ」
冷たいのがしみたのかぎゅっと身を縮こまらせ、一言。
「おいしい……」
真っ赤だった顔が少しずつ落ち浮いた色合いになって、典理はぱたりと動かなくなった。
汗で張り付いていたくるくるとカールした髪の毛をかき分けて額に触れる。
「おい、これ飲めそうだったら飲ませておけ」
親切な人の友人もまた親切に、経口補水液をわたしてくれて、今現在。
典理は深々と頭を下げた。
「本当に、意味不明なことを……、助かりました。ありがとうございます」
「それでお代わりのかき氷を持ってきたんだが……、頭と口どっちがいい?」
親切な人は冗談でそんなことを言ったのだが、典理は即答した。
やはりまだ、無理がたたっているのだろうか。
少しづつ頭がぼんやりしてきたことに典理は気付かなかった。
「あ、頭に載っけてください」
「……、お、おう。わかった」
頭にスプーンで一匙、かき氷を載せればとろけたような顔でぼんやりとする典理は、はっとした。
何おいしい水を堪能しているのだ自分は。ここはまず真っ先に聞かないといけないことがあるだろう。
自分は少しばかり特殊な体質なのだから、これだからあの年下の男の子に「おい、のりみち! またぼんやりしてるぞ」「そんなので大都会でやっていけるのか俺はほとほと不安だ」とか言われるのだ。
「あ、すいません。お名前をお伺いしてもいいですか」
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