お代わりもかき氷でいいか?

パチェル

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親切な人の友人も、親切な人だっただけ

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「あ、すいません。お名前をお伺いしてもいいですか」

 慌てた典理に相手ははにかみながら答えた。


「水郷泉だ。それよりまだ寝転んでおいた方がいい。申し訳ないが勝手に鞄を開けさせてもらった。今、君のかかりつけ医を呼んだから。車で来ると言っていたし、君の会社の方からも連絡が来たから保護している旨を伝えたら、今日はそのまま直帰でいいと言っていたよ」


 見れば枕元に充電器がささったスマホが置かれていた。
 かかりつけ医の連絡先はきっと手帳かスマホにでかでかと書いてある「もし、私が倒れているか何かしたらこの医者にも連絡を」という文言を見て連絡してくれたのだろう。


 気づけば意識を失ってから2時間ほどたっていた。
 夏なのでまだまだ明るいが、結構なお時間を拘束してしまっていた。




「何から何まで……はっ!」


 典理は自然と頭にスプーンでかき氷を運んできた水郷の手を掴んだ。



「え、もしかして、ずっとこれを?」
「あぁ、君に経口補水液を飲ませた後も、うわごとのように繰り返すから」
「えぇ!?」



 どうやら親切な人、水郷は親切すぎた。


 そもそも頭に氷を載せてくれなんて言う人に律儀に載せ続けるなどおかしい。顔色が一気に青くなった典理は縋るように水郷の腕に自分の腕を絡ませ、涙目で問う。



「待って、これ僕、何杯目!?」 
「えっと、これで3杯目だなっ!」


 水郷もその勢いに押されて元気よく答えた。おいしいと言ってくれるなら別にかまわないと思ったからだ。
 が、その後典理から繰り出されたワードにすぐに追いつけなくなった。


「あ、やばい。水郷さん、僕、どうしよう。えろがっぱになっちゃう」

 目がとろんとしてきているのを水郷は見て、これは熱中症の症状かと慌てた。


「はぁ? 君、汗がすごくないか? 話はあとだ、もう少し冷やそう」
「だめっ!!」


 頭に急いでかき氷をドバっとかけた水郷は悪くない。



 普通は頭にかき氷をぶっかけるなんてことはしない。
 水分は体内から取った方が効率がいいし、体を冷やすなら氷嚢などもある。


 しかし、水郷には思い出があるのだ。
 大学生だったあの夏の日。


 川に入っていった少年は水郷から水をもらうと、笑顔で頭から水をぶっかけて濡れてキラキラした髪をぶんぶん振り回し、そしてありがとうと言った。
 そして背筋を伸ばしてシャンとして、おいしいお水と鼻歌を歌いながら歩いて行ったのだ。




「あぁん、だめぇ」


 だから、典理がやけにエロい声を出して水郷を離さなかったのも、水郷がどこからか漂ってきた甘い香りにからめとられるように典理を離せなかったのも、典理がえろがっぱといった言葉が文字通りだったのも、だれの責任でもないと言えばだれの責任でもないのだ。





 ただ、親切な人、水郷の友人宅でする事ではない。


 友人である半夏は、兄である医者に連絡して熱中症患者の注意すべき点やどの時点で病院へ連絡すればいいか聞き取った後、買い出しに出た。


 このまま、氷を使ってもいいのだが、あれは結構なお値段がするし、買おうと思っていつでも買えるものでもないのだ。

 そのため凍っている氷嚢や、氷をたんまりと購入してきて戻ってきて、家の二階へ上がり、ぎょっとした。



「あ、あん、あっ」

 とリズミカルに聞こえる声、それと同じようなリズムで聞こえる肌を打つ音。


 階段の手摺を掴んでちょっとの間、フリーズする。




 男と男しかいないが、聞こえる音は交わりの音で。

 むしろ、半夏にとっては馴染みのものだが、まさか友人も同じだったとは知らなかった。

 しかも、道で拾った病人に突然に盛ってしまうとは。




 そんな奴じゃないとは思うのだけど。



 とか一瞬でいろいろなことが頭に入ってきて、で、結論。




 ふすまをパーンっと開けて、覆いかぶさって獣のように腰を振っていた水郷を引きはがした。


 どう見てもさっき見た病人が襲うよりかは、友人の方が襲ったのだろうと結論付けた。
 友人の内面を知っていても、あの体格差からそう考えてしまったのだ。



 だから友人である半夏だって悪くない。親切な人こと水郷の友人、半夏もまた親切だっただけだ。



 友人が悪いことをしているなら止めてやりたいし、一緒に反省してやりたいし、話を聞いてやりたいとは思うくらいには大切な友人なのだ。



「ごらぁぁぁ、おまえなにや、……とん、じゃ? 水郷?」
「はな、せ……、まだたりない」




 目がこちらを見ようとしない。ずっと半夏の後ろの彼に視線を向けている。
 薬物中毒者みたいな目をしていた。仕事柄そういう人はよく見るから、ぞっとした。




 そして半夏の手を握るのは。
 連れてこられた病人、典理。


「ねぇ、僕、汗かいちゃったんだ。汗、はやくふいてよ。ね?」


 赤らんだ顔で、はだけたままのシャツの胸元をつつっと伝い垂れた汗を握った半夏の手で拭って、そのまま口に含んで舐る。



 そして半夏の鼻にふわりと香った匂いに何も考えられなくなった。





 
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