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果たしてトマトジュースは水分補給となるのか。いや、僕の場合はならなかった。
しおりを挟むこの刺すような日差しを浴びると時々思い出す風景がある。
家から駅へ向かう途中に川がある。キラキラと反射した水面が目に眩しくて目を川から逸らした。
視線の先には学生服を着た中学生。川の土手にゆらゆらと立っていた。中学一年生くらいだろうか。ここら辺ではブレザーが多いので学ランは珍しいなと思って少し見ていたらその中学生がフラフラと歩き始め、ざぶざぶと止まることなく川に入っていった。
都会にしてはキレイな方だとは思うが、人が水遊びするような場所ではないし、中の方へ行くと結構深い。そのフラフラな少年が学生服を着たまま今から川ではしゃぐようにはとても見えず声をかけていた。
「どうした? 探し物か?」
少年がゆらりと振り向いた。
顔が真っ赤で、柔らかそうな髪の毛が額に張り付いていた。所々くるくるとカールしている。
それを見て、あぁ、やっぱり今日は暑すぎるななんて思った。
「す……、おみ……」
声が聞こえないので仕方なしに自分も川へと入っていった。
今日は大学の講義も午後からで、いったん家に帰っても間に合うだろうと彼のもとへと近づいた。
「聞こえなかった。何を探しているんだ?」
「すいません。お水がほしくて……」
「水? 喉が渇いているのか? とりあえず、ここの水は飲まないほうがいいよ。上がろう」
彼はもう動くこともできないのか足を踏み出すがよろめくので支えるために肩に触れるとかなり暑い。
熱中症かと驚いた。
てっきり。
そうてっきり自殺志願者かと思ったのだ。
夏休みが終わりに近づいて、どうしようもない不安に襲われる。
誰にでもある不安。でも誰にもどうしようもできない不安。そもそも不安という言葉があっているのかどうかすらわからない。そういった足元がぐらつくような気持ち。
だから、勝手に足が動いて頼りなさげな少年の傍に行ったのだ。
だから心底ほっとした。
日陰に連れて行って、お水お水と言うので持っていたペットボトルの水を出した。
普段は水なんて買わないのだが、姉が何かの懸賞で当たったどこかの何かの水みたいなのが段ボールで何箱も送られてきて、場所ももったいないので最近は飲むものは全てその水だ。
段ボールがシャレにならないくらい送られてきたので、姉が部屋に置いておけないと弟である自分の部屋にまで置くので減らすためには致し方がない。
しかもひと箱減ったなと思えば、新しい箱が置かれている。
本当に何箱あるのか恐ろしい。
料理に使うのもこれにしたらと提案してしまったくらいだ。
飽きたと言えば、こんな高級な水に飽きたって言えるなんて、贅沢ものめと詰られた。
そんなことを思い出すのだ。
水をあげた後の男の子がすごくいい顔で、キラキラしていて、ありがとうございましたとしゃんとして帰っていった。
あれはおかしかったなあと思い出すたびに少し楽しい気持ちになる。
友人の自宅へ向かう途中の道で暑すぎる日差しをよけようと日陰沿いを歩いていたら、公園のそばを通ることになって、そして茂みで見つけたのだ。
革靴がぽとり。
「……足?」
パチッと目が覚めた。
起きて思ったのは染み渡っているという感覚。
急いで頭を触るとひんやりと冷たい。
そしておいしい。
電気をつけていない部屋はカーテンから透ける光だけの明るさで、クーラーも効いている。畳の上に布団が敷かれていた。
だから、一瞬実家かと思った。
階段を誰かが上がってくる音がする。
「おかあさん?」
ふすまが開くとそこにいたのは。ちょっと笑った表情が隠せていない男性が一人お盆を持っていた。
「氷、新しいの持ってきたけど。まだいるか?」
よくわからないまま、とりあえず頂いておくことにした。
「はい、ありがとうございます」
そういうと男の人は爆笑した。
男の人の手元のかき氷が気になりながらも話を聞くと、朧げに思い出してきた。
社会人になって4年になる。助けられた人こと、僕は今年から配属が変わって営業へと行くことになった。
以前までは総務だったのだが、なんやかんやあって営業へと送り出されたのだ。
「レンタルみたいなものでね、ちょっとしたら戻ってきてもらうつもりだから」
などと上司は言っていたが、未来のことはわからない。でも総務は居心地がよかったので自分的にはどうにかならないかと訴えたけど無理だった。
上司も絶対戻すからと、同僚も早く戻ってきてね。そして無事をお祈りしますと言われた。
営業へ行くとまだよくわからないままとりあえず補佐につけと言われ、毎日営業の先輩について回った。営業は確かに勉強にはなるけれど、それはそれ。自分には合わないかもと思い始めていた。
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