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十話
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「あはっ♡」
その様子をヒットボックス全開で……というかもはやほぼ真横まで近付いて来ているレアへと見せ付けるかのように……シセルの事を強く抱き締めるルーナ。『私の方がシセルと仲がいい』とでも言いたいのか……興奮しながらこちらを見ているレアに対して、再度視線を送る。
「る、ルーナ……ぐはッ! ……ち、力が強いぃ」
しかし、レアはシセルに対して……親友以上の気持ちを抱いていないのでダメージはなく、主に多大な被害を受けているのはシセルの方であった。
「ル、ルーナ……ちょ、ちょっとまっ! ぐおっ! メキメキ鳴っとる! メキメキ鳴っとるぅッ!」
シセルが身体を離そうとする度、更に倒れるようにして身体を押し込み……どうやっても離そうとしないルーナ。そして、そんなシセルの目をじっくりと見つめながら──昨日母親に言われた事を思い出す。
「そうよ、す、すきすきちゅっちゅ……流石に恥ずかしいわねコレ……すきすきちゅっちゅは普通なら友達とじゃなくて、恋人とするのよ?」
『すきすきちゅっちゅ』という単語を、顔を赤くしながら口に出すルーナ母。
「そうなんだ~!」
「ルーナはその『すきすきちゅっちゅ』をした男の子と恋人になりたいと思う気持ちはある?」
「え? ……いっぱいあって、どれがこいびとになりたいきもちか……わかんない」
(──すきすきちゅっちゅはすごいよかったし、あしたもするってやくそくしたけど……しせるとはなれるのはさみしいよ)
「そうねぇ……その男の子が他の子とすきすきちゅっちゅしてたらルーナはどう思う?」
「えっ……や、やだッ!」
母が言った通りの事を想像してみると……胸の部分に”凄く嫌な気持ち”が広がり、勢い良く顔を振り上げながらそう叫ぶルーナ。
「ふふ、それはルーナがその男の子を独り占めしたい気持ち……立派な恋心よ!」
「こい、ごころ……?」
「キャーーッ! うちの娘、この歳でもう恋しちゃうなんて……流石私の娘だわッ! そうと決まれば、さっそく始めるわよ!」
何故かルーナとは比べ物にならない程に興奮しているルーナ母。
「な、なにをはじめるの?」
「男を絶対に堕とす為の修行……を始めるわよ~♪」
(──お母さんといっぱい勉強した、全部頭に入ってる。絶対にシセルを堕とすッ!)
昨日のルーナ母と同じくらい興奮した息遣いをしながら、シセルの身体をガッチリと地面に押さえ込んで口付けを始めるレーナ。
「……っぷはッ! レア……んべぁ……くっ、レア!」
シセルは、ルーナのキスが止むその一瞬を使ってレアの事を呼んでみるが。
「はぁ~、すごぉ~えぇ~!!」
(クソッ! 聞こえてねぇッ!)
どうやら自分の世界に入っていて、シセルの声が届いていない様だ。そんなレアを見たシセルは……ルーナが呼吸の為に唇を離すタイミングで先程よりも大きな声を出す為に、勢い良く鼻呼吸をして肺に空気を入れる。
「……ぷはぁっ! 止めてくれッ! 親友ッ!」
「……ハッ!? 分かりましたッ!」
彼の幼い身体から発した渾身の叫びが漸く届いたのか……レアは急いでシセルの身体からルーナを引き剥がす。
「……はぁ、はぁ……やっと、離れた!」
「ご無事ですかッ! シセル様ッ!」
「……ははっ、おせーけど大丈夫だ……ありがとな。お前こそ、話し方戻ってるけど……大丈夫か?」
「申し訳ございません。シセル様を守る事が役目なのにも関わらず、飛んだ失態を犯してしまいました」
「バカお前、俺が離れてろつったんだからしょうがないだろ……アレ、お前離れてたか? ……いやいや! ミスくらい許すのが友達ってもんだろ。そもそも今のはお前じゃなくて俺のミス……だよな?」
”俺のミス”と言った辺りから、先程見たばかりの……レアのだらしない顔面が脳裏にチラついてしまったシセルは──。
(男ならあんなの見て興奮しない訳ないもんな、そこまで頭が回ってなかった俺が悪いな。うん)
──そう無理やり結論付けて、考えることを辞めた。
「というか敬語をやめろ……って、もう遅いか」
表情が見えないが、ルーナには全て聞かれている。今更止めたところで意味は無いだろう。
「……どうして」
「ん?」
「……どうして止めるの?」
レアに引き剥がされ、尻餅をついたルーナは……地面に肘をつけた状態で俯きながら、震える声でシセルにそう問いかける。
「守る為って……どういう事? 私の事、警戒してたの?」
(あぁ~マズイっすねこれ、非常にマズイっす。色々な勘違いが重なって、相当エグい事になってるんじゃないっすかねぇコレッ!)
まるでルーナの事を最初から危険人物と扱っていたかの様な状況となり、その通りの勘違いを起こしてしまっている様子のルーナ。一刻も早くその勘違いを正さなければ、最悪……絶交となりかねない。
「いや、それは……」
しかし現在、勘違いを正す為の弁明よりも先にやるべき事があった。
「話し方も、その子との方が距離が近そうだった。仲良さそうだったッ!」
それは、レアとシセルとの間にある信頼関係のような物を眼前で見せ付けられてしまった事により、嫉妬心を剥き出しにして爆発しまったルーナを鎮静化させること。何せシセルを堕とす為に一夜漬けでここまで変わる程の労力を費やしたのにも関わらず、その相手は自分よりも仲がいいなどと明言された人物と目の前でイチャイチャしている。困惑や怒りの感情が昂|《たかぶ》ってしまうのも仕方のない事だろう。
(……ふぅ。なるほどな。こういう時は、変に隠さない方が良いと相場が決まっている。勘違いを解消する為にも、相手に伝える為にも……これ以上、ルーナを絶対に傷付けない為にも。俺が始めた事だ、当たり前だが……自分の身を守る為なんかで、友達二人を傷付ける訳にはいかない)
「ルーナ、こっちを向いてくれ……そして、『俺』の目を見てくれ」
「っ……?」
──自分を偽るのはもう辞めだ。シセルはそう決心する。
転生した人間である……という事までは話せないが、シセルがルーナに対して『すきすきちゅっちゅ』をした理由、そして自身の身分などは全て話す……と。もちろん、素のシセル──鳴海がどんな人間なのかも。
「ルーナ、俺は今から話さないといけない事を全て話す。ルーナなら分かると思うが、それは全て本当の事だ、一切嘘はない。……聞いてくれるか?」
「……うん」
シセルの目を見て、今は自分の事だけを真っ直ぐ見ていると理解したのか、ルーナは……しっかりと頷く。
「ありがとう。実は俺……」
「……」
「生涯の伴侶。恋人が欲しいんだッッ!」
「「……??」」
突然そんな事を言い出したこの男を見て、ルーナだけでなくレアまでもが……頭にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げた。
──違う、そうじゃない。シセルよ、お前が伝えるべきはそんな事ではないだろう。
その様子をヒットボックス全開で……というかもはやほぼ真横まで近付いて来ているレアへと見せ付けるかのように……シセルの事を強く抱き締めるルーナ。『私の方がシセルと仲がいい』とでも言いたいのか……興奮しながらこちらを見ているレアに対して、再度視線を送る。
「る、ルーナ……ぐはッ! ……ち、力が強いぃ」
しかし、レアはシセルに対して……親友以上の気持ちを抱いていないのでダメージはなく、主に多大な被害を受けているのはシセルの方であった。
「ル、ルーナ……ちょ、ちょっとまっ! ぐおっ! メキメキ鳴っとる! メキメキ鳴っとるぅッ!」
シセルが身体を離そうとする度、更に倒れるようにして身体を押し込み……どうやっても離そうとしないルーナ。そして、そんなシセルの目をじっくりと見つめながら──昨日母親に言われた事を思い出す。
「そうよ、す、すきすきちゅっちゅ……流石に恥ずかしいわねコレ……すきすきちゅっちゅは普通なら友達とじゃなくて、恋人とするのよ?」
『すきすきちゅっちゅ』という単語を、顔を赤くしながら口に出すルーナ母。
「そうなんだ~!」
「ルーナはその『すきすきちゅっちゅ』をした男の子と恋人になりたいと思う気持ちはある?」
「え? ……いっぱいあって、どれがこいびとになりたいきもちか……わかんない」
(──すきすきちゅっちゅはすごいよかったし、あしたもするってやくそくしたけど……しせるとはなれるのはさみしいよ)
「そうねぇ……その男の子が他の子とすきすきちゅっちゅしてたらルーナはどう思う?」
「えっ……や、やだッ!」
母が言った通りの事を想像してみると……胸の部分に”凄く嫌な気持ち”が広がり、勢い良く顔を振り上げながらそう叫ぶルーナ。
「ふふ、それはルーナがその男の子を独り占めしたい気持ち……立派な恋心よ!」
「こい、ごころ……?」
「キャーーッ! うちの娘、この歳でもう恋しちゃうなんて……流石私の娘だわッ! そうと決まれば、さっそく始めるわよ!」
何故かルーナとは比べ物にならない程に興奮しているルーナ母。
「な、なにをはじめるの?」
「男を絶対に堕とす為の修行……を始めるわよ~♪」
(──お母さんといっぱい勉強した、全部頭に入ってる。絶対にシセルを堕とすッ!)
昨日のルーナ母と同じくらい興奮した息遣いをしながら、シセルの身体をガッチリと地面に押さえ込んで口付けを始めるレーナ。
「……っぷはッ! レア……んべぁ……くっ、レア!」
シセルは、ルーナのキスが止むその一瞬を使ってレアの事を呼んでみるが。
「はぁ~、すごぉ~えぇ~!!」
(クソッ! 聞こえてねぇッ!)
どうやら自分の世界に入っていて、シセルの声が届いていない様だ。そんなレアを見たシセルは……ルーナが呼吸の為に唇を離すタイミングで先程よりも大きな声を出す為に、勢い良く鼻呼吸をして肺に空気を入れる。
「……ぷはぁっ! 止めてくれッ! 親友ッ!」
「……ハッ!? 分かりましたッ!」
彼の幼い身体から発した渾身の叫びが漸く届いたのか……レアは急いでシセルの身体からルーナを引き剥がす。
「……はぁ、はぁ……やっと、離れた!」
「ご無事ですかッ! シセル様ッ!」
「……ははっ、おせーけど大丈夫だ……ありがとな。お前こそ、話し方戻ってるけど……大丈夫か?」
「申し訳ございません。シセル様を守る事が役目なのにも関わらず、飛んだ失態を犯してしまいました」
「バカお前、俺が離れてろつったんだからしょうがないだろ……アレ、お前離れてたか? ……いやいや! ミスくらい許すのが友達ってもんだろ。そもそも今のはお前じゃなくて俺のミス……だよな?」
”俺のミス”と言った辺りから、先程見たばかりの……レアのだらしない顔面が脳裏にチラついてしまったシセルは──。
(男ならあんなの見て興奮しない訳ないもんな、そこまで頭が回ってなかった俺が悪いな。うん)
──そう無理やり結論付けて、考えることを辞めた。
「というか敬語をやめろ……って、もう遅いか」
表情が見えないが、ルーナには全て聞かれている。今更止めたところで意味は無いだろう。
「……どうして」
「ん?」
「……どうして止めるの?」
レアに引き剥がされ、尻餅をついたルーナは……地面に肘をつけた状態で俯きながら、震える声でシセルにそう問いかける。
「守る為って……どういう事? 私の事、警戒してたの?」
(あぁ~マズイっすねこれ、非常にマズイっす。色々な勘違いが重なって、相当エグい事になってるんじゃないっすかねぇコレッ!)
まるでルーナの事を最初から危険人物と扱っていたかの様な状況となり、その通りの勘違いを起こしてしまっている様子のルーナ。一刻も早くその勘違いを正さなければ、最悪……絶交となりかねない。
「いや、それは……」
しかし現在、勘違いを正す為の弁明よりも先にやるべき事があった。
「話し方も、その子との方が距離が近そうだった。仲良さそうだったッ!」
それは、レアとシセルとの間にある信頼関係のような物を眼前で見せ付けられてしまった事により、嫉妬心を剥き出しにして爆発しまったルーナを鎮静化させること。何せシセルを堕とす為に一夜漬けでここまで変わる程の労力を費やしたのにも関わらず、その相手は自分よりも仲がいいなどと明言された人物と目の前でイチャイチャしている。困惑や怒りの感情が昂|《たかぶ》ってしまうのも仕方のない事だろう。
(……ふぅ。なるほどな。こういう時は、変に隠さない方が良いと相場が決まっている。勘違いを解消する為にも、相手に伝える為にも……これ以上、ルーナを絶対に傷付けない為にも。俺が始めた事だ、当たり前だが……自分の身を守る為なんかで、友達二人を傷付ける訳にはいかない)
「ルーナ、こっちを向いてくれ……そして、『俺』の目を見てくれ」
「っ……?」
──自分を偽るのはもう辞めだ。シセルはそう決心する。
転生した人間である……という事までは話せないが、シセルがルーナに対して『すきすきちゅっちゅ』をした理由、そして自身の身分などは全て話す……と。もちろん、素のシセル──鳴海がどんな人間なのかも。
「ルーナ、俺は今から話さないといけない事を全て話す。ルーナなら分かると思うが、それは全て本当の事だ、一切嘘はない。……聞いてくれるか?」
「……うん」
シセルの目を見て、今は自分の事だけを真っ直ぐ見ていると理解したのか、ルーナは……しっかりと頷く。
「ありがとう。実は俺……」
「……」
「生涯の伴侶。恋人が欲しいんだッッ!」
「「……??」」
突然そんな事を言い出したこの男を見て、ルーナだけでなくレアまでもが……頭にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げた。
──違う、そうじゃない。シセルよ、お前が伝えるべきはそんな事ではないだろう。
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