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第二章
25 恨みの終わり ※お婆さん(占い師)side
しおりを挟む「そしてアグストゥは人に生まれ変わった竜王――ヴィントを苦しめる為に彼の《番》であるサヤを葬り続けた。
何度生まれ変わっても《竜気》は同じだ。アグストゥは二人を逃しはしなかった。
何度も復讐を遂げ……最後の今回はサヤを、クルスを失った嘆きで葬ろうとしたのさ。
《番》が他の男を失った嘆きで自らの命を落とす。
確かに、ヴィントには一番堪える《番》の死因だろうね」
「……狂ってる……」
ロウがそう言って包帯の巻かれた胸を押さえた。
「身体が痛むかい?すまないねえロウ」
「いや、平気。俺は頑丈だし」
「そうですよ風の巫女様。
打ち身だけだし、ロウは慣れていますから」
そう言ってメイが笑えばロウも笑った。
「でももうクルスの相手はしたくないけどね」
私は家を見た。
「……クルスは?」
「全身、怪我してますし、腕の骨は折れていますけど。
命に別状はありません。腕はしばらく不自由でしょうが、明日には動けるでしょう」
「そうかい」
「はい」と頷くメイの横で、ロウは神妙な顔になった。
「……なあ婆さん。聞いてもいいかな」
「何だい?」
「あのさ。あの時、クルスは叫んだよね。
《35人のサヤ》って。あれはどういうこと?
クルスは今世までのサヤ全員を知っているの?」
「……ああ。そうだよ。私が教えていたからね。
サヤはともかく、ヴィントはいつもここからそう遠くない場所に生まれた。
偶然か。元が竜王だったからか。それはわからないけれどね。
ヴィントの《竜気》は毎回辿れたんだ。ヴィントさえ見つかれば――」
「――ヴィントが必ず《番》であるサヤを見つける。
それでクルスは知っていたのか。35人の――いや。
最初のサヤも、今のサヤもだから、37人全てのサヤを」
「そういうことさ」
「……助けられなかったの……?どこかで。もっと早くに……」
「ロウ!」
メイは怒ったようだが、私は首を振った。
「いいんだよ、メイ。
そうだね。サヤの死因を《竜の嘆きのせい》だと思い込まず、疑うべきだった。
ずっと見守っていてやるべきだったんだろう」
「……いや。ごめん。わかってるんだ。
風の巫女様とその護衛が一人の人間をずっと見守っているなんてできたはずないし。
《番であるヴィントと番えなかったから嘆き、サヤは命を落とした》。
俺だってきっと、何度見ても絶対そうとしか思わない。
竜にとって《番と番えない》というのはそのくらいのことだから。
仕方がなかったとわかってる。……ただ……」
ロウはガジガジと頭をかいた。
「ヴィントはもちろんだけどクルスも……たまらなかっただろうな、って……」
メイはそんなロウの肩にそっと手をやると、私を見た。
「サヤさんには……言うんですか?本当のことを」
「それはわからない。クルス次第だ。
サヤが、何があったのかはクルスの口から聞きたいと言っていてね。
クルスが言ったことを信じるし、クルスが言いたくないと言うのなら聞かないそうだ」
「そうですか。―――ロウ?」
見れば、ロウはしゃがみ込み、寒さをこらえるように両腕を抱いていた。
「ロウ。やっぱり身体が痛むのかい?」
「いや。そうじゃなくて……。―――俺。自分が怖い」
「え?」
「アグストゥのしたことは逆恨みもいいところの、狂った行為だと思う。
……けど。俺はあいつの気持ちもわかる。
わかる自分が嫌になるけど。
でも、もし俺も同じようにメイを失ったら。
俺もあいつのようになるかもしれない―――いでっ」
メイがロウの頭を小突いた。
驚いたようにロウはメイを見上げている。
「馬鹿ね」とメイは言った。
「馬鹿ね。貴方はあんなふうにはならないわよ。
貴方なら物理攻撃でしょ。相手をボコボコにして終わり。
アグストゥみたいな執念深さも、卑怯な手を思いつくはずもないわ。単純だもの」
「……そうかな」
「そうよ」
「そんな気がしてきた」
私は吹き出した。
「単純だね」
メイがどこか誇らしげに言った。
「ええ、単純なんですよ」
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