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第二章
26 ストール ※お婆さん(占い師)side
しおりを挟む「ともかく。これで毒――《竜殺し》の件は一応解決だね。
あとは婆さんに、ヴィントの持つサヤのストールから香る《妖花の竜気》をなんとかしてもらうだけだ」
ロウはすくっと立ち上がると明るく言った。
大きなため息が出た。
気持ちの切り替えの早さはいいとして、できもしないことを簡単に言ってくれる。
サヤのストールはサヤの記憶を編んだものだ。サヤの《複製》のようなもの。
当然サヤの《妖花の竜気》も《複製》されている。
《妖花の竜気》だけをなくすことなどできない。
あのストールを持っていると竜に絡まれ危険だというのなら、ヴィントから取り上げるしかないのだが。
……あのストールを取り上げるということは、ヴィントから《番》を奪うようなものだ。
ヴィントは嘆き不幸を呼び、命を落とすかもしれない。
過去のヴィントがずっとそうだったように……。
―――いっそ今のまま――ヴィントには《水の竜》の巫女ルゥの結界の中にいてもらった方が……。
一瞬浮かんだ考えをすぐに打ち消す。
それではヴィントを閉じ込めておくだけだ。
ヴィントも、そしてヴィントを案じるサヤも幸せになれない。
《番》とひとつになりたい。
だから《番》を食いたい。
そんな呪いのような想いを抱いた者と抱かれた《番》。
その運命から逃げきって欲しいのに。
「俺としては今のまま、ヴィントがルゥといてくれたら嬉しいんだけどねー」
まるで私の心を読んだようにロウが言ってどきりとした。
同時に、そういえば《水の竜》の巫女ルゥがヴィントに懐いたと聞いていたことを思い出す。
他者とあまり関わろうとしないルゥがヴィントのことは喜んで受け入れ、しかもついて離れずにいると。
…………何故だろう。
たいした理由などないのかもしれないが。なにか…………。
「巫女様」
メイに呼ばれて意識を戻した。
「ストールからサヤさんの《竜気》をなくすことはできないんですよね?」
真剣な面持ちで聞くメイに私は頷いた。
「ああ。そうなんだ」
「ストールの、サヤさんの《竜気》はなくせない。
ならばサヤさんの《竜気》が《妖花》ではなくなればいいんですよね?」
「……そうだけど。
それはサヤとヴィントが番わない限り不可能だ。
《妖花の竜気》は《番》と番わない限り普通の《竜気》にはならないからね」
「わかっています。サヤさんとヴィントさんが番うことは無理だと。
―――ならば他の方法を試してみませんか?」
「他の方法?」
メイは一気に言った。
「サヤさんとヴィントさん。
お互いの血を飲ませるとか、肉を埋め込むというのはどうですか?」
「…………あんた恐ろしい娘だったんだね。メイ」
いや。いかにも医師らしい考えというべきか。
「うゎ。何言いだすの、メイ」
ロウは心底嫌そうな顔をした。
私も呆れたが、はっとした。
「そうか。それは良いかもしれない」
「げっ。婆さんまで!
まさか血肉のやり取りで強制的にヴィントとサヤを番わせることができると思ってる?
試そうとしてる?
そうしたらサヤの《竜気》は《妖花》じゃなくなるかもって?
いやいやっ!無理でしょ!」
ぶんぶんと首を振ったロウに、私はにやりと笑った。
「違うよ。番わせるのはサヤじゃない。《サヤのストール》なんだよ」
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