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第二章
24 恨みの理由 ※お婆さん(占い師)side
しおりを挟むサヤとヴィントの、最初の生の時だ。
ヴィントは竜王で。《番》であるサヤを見つけ王宮に入れた。
だが竜王は《番》のサヤに会おうとしなかった。
サヤを傷つけない為にだが、皆は「結びつきが弱い《番》なんだ」とみたようだね。
それだけなら問題にはならなかった。
だが――サヤは《妖花の竜気》持ちだ。
王宮の男性たちの中には、サヤの《妖花の竜気》に惑う者が出た。
薬師の一人がそうだった。
だがサヤは竜王の《番》で、竜王の臣下だったクルスが護衛についていたから薬師が近づけたわけではない。
それでも薬師の《番》の踊り子は面白くなかった。
それはそうだろう。自分の《番》が《妖花》に惑わされたのだから。
踊り子はサヤが許せなかった。
だが護衛のクルスが恐ろしくてサヤには近づけない。
そこで踊り子は竜王に近づいた。
サヤの《妖花の竜気》に惑わされた薬師――自分の《番》への当てつけでもあっただろうし、自分の《番》を惑わせたサヤへの復讐でもあっただろう。
竜王を惑わせてやろうとしたんだ。
そしてそれは成功したかに見えた。
側にいることを《番》には許さない竜王が、踊り子には許していたのだから。
踊り子は竜王を虜にできたのだとほくそ笑んだ。
とどめとばかりに、自分と竜王の仲睦まじい姿をサヤに見せつけることにした。
一人の侍女に「竜王が《番様》を呼んでいる」と嘘をつき、サヤを連れてこさせてね。
踊り子はサヤに勝ったと思っただろう。
だがその後の展開は踊り子が思っていたようにはならなかった。
踊り子は企みに気づいた竜王に激怒された。
王宮を出て行けと言い渡された。
◆◇◆◇◆◇◆
「え、それだけ?」
「そうらしいよ」
私の話を聞き終えたロウとメイは顔を見合わせた。
ロウの黒い服からのぞく白い包帯が痛々しい。
アグストゥを風の王宮からの使者へと引き渡したところだ。
そのまま庭にいた私のところに、怪我の手当てを終えたロウとメイがやってきた。
私は二人にアグストゥを捕まえるのに協力してくれた礼を言い、クルスがロウに怪我をさせてしまったことを詫びて。
そしてアグストゥから聞き出したことを話している。
夕刻だが、まだ風は温かい。
傷ついたクルスについているサヤに聞かれないよう話すのに都合が良かった。
「アグストゥが言うんだ。本当にヴィントがしたのはそれだけなんだろう。
だが当時のヴィントは竜王だ。
周りの反応は大きい。
《番様を蔑ろにして竜王を怒らせた》踊り子への風当たりはきつかった。
王宮中から罵声を浴び、仲間の踊り子たちからは恥晒しだと言われる始末だったらしい。
当然だね。
……それで踊り子がただ去れば何事もなかったんだけど」
「何したの。踊り子は」
「――サヤを手にかけたんだよ」
「え……っ」
「竜王を虜にできたと思ったのが、一変して職も住む場所も失った。
自分がこんな目に遭った元凶はサヤだと憎み殺したんだ。
護衛のクルスが近づけない入浴中を襲ってね。
同時にサヤに付き添っていた女性も殺めた。とんでもない女だったんだね」
「……逆恨みもいいところだ」
ロウは頭をかいた。
メイが少し考えてから言った。
「同族を殺せば問答無用で処刑される。踊り子は処刑された。
そして残された踊り子の《番》――薬師の男がアグストゥということですか?」
「いいや。違うんだよ」
「違う?」
「薬師の男は《番》――踊り子を失った上に、その原因となったのは自分がサヤの《妖花の竜気》に惹かれてしまったからだと絶望し、自死しようとした。
王宮にしかない毒――《竜殺し》を持ち出してね。
しかしそれより先にサヤに付き添っていて、巻き添えで踊り子に殺された女性の《番》に殺された。
《竜殺し》を飲む前に死んでしまったんだ」
「なるほど」とロウが言った。
「……《番》を殺された者たちによる連鎖か。
で。その薬師が持ち出した《竜殺し》がアグストゥの手に渡った、ってこと?」
「ああ。亡くなった薬師の懐に入っていたのを見つけたらしい。
アグストゥは薬師の兄だそうだ」
「兄?え?
でもアグストゥは竜王の――ヴィントのせいで《番》を失った、って」
「アグストゥは踊り子に嘘をつかれ、竜王の前にサヤを連れて行った侍女の《番》だったんだよ」
「侍女の《番》?」
「侍女は一度は踊り子の仲間だと疑われたものの、無実だとお咎めなしになったんだが。
竜王の《番》サヤと、サヤに付き添っていた女性が踊り子に殺された。
そして踊り子の《番》がサヤに付き添っていた女性の《番》に―――と。
とんでもない惨事に発展した。
しかもその後しばらくして、竜王までも亡くなった。
無実とはいえ、一連の惨事の関係者だ。
好奇の目は向けられる、本当は踊り子の仲間じゃないのかと疑われる。
耐えられなかったのか責任を感じたのか……自死したそうだ」
「とばっちりだね。気の毒に」
「……兄弟ばかりか、《番》まで失った。
アグストゥは、竜王が《妖花の竜気》を持つ《番》サヤさんを放っておき、踊り子を侍らせたせいだ、と恨んだということですか」
メイの言葉に私は頷いた。
「そのようだね」
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