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ここはひとつ、強かに(ミライザ視点)
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グライユルの馬車で登省してすぐに、私とグライユルは人事部長にアポを取った。
幸い同じく登省してすぐの人事部長を捕まえる事が出来、時間を貰える事となった。
本省の人事部長は壮年の恰幅の良い好人物である。
まずはグライユルが自身の補佐官であるメリッサ・ラミレスの転属を改めて願い出た。
前々からグライユルが人事部にその旨を申請していたので話は部長にもすんなりと通ったが、人事部長はグライユルに訊ねた。
「しかし急にどうしたんだ?長年側に置いていた副官を手放そうなんて」
「急ではありません。結婚が決まってすぐに人事に希望を出しましたが、ラミレスの次の補佐官となる職員が見つからないと保留の状態でした」
グライユルがこう答えると人事部長は腕を組んで小さく唸り声を上げた。
「ラミレス補佐官は優秀な職員だと私の耳にも届くほどだからなぁ」
「その優秀な職員をいつまでも補佐官止まりにしておくのは魔法省全体の損失になると考えました」
「なるほどなぁ……」
「というのは建前で、妻を娶った上でこれ以上“仕事上の妻”と揶揄される人物を側に置いておく事は出来ないと判断したのが主な理由です」
「ああ、なるほどなぁ……」
腕を組んだまま深く頷く人事部長に、私はその真意を訊ねてみた。
「やけに神妙なお顔をされますね。何か思うところがお有りですか?」
「うーん……妻がな、新年祝賀パーティーでラミレス補佐官に苦言を呈したそうなんだ。副官といえど夫婦の事に首を突っ込むなと。しかしラミレス補佐官はその時、妻の話を適当に受け流してグライユル君の後を追ったそうなんだよ」
「なるほど」
今度は私がそう言うとグライユルと人事部長、二人が声を揃えてこう言った。
「「なるほど、とは?」」
やれやれ。これだから男は。
「普段ラミレス補佐官が仕事上で見せている顔と、彼女の本質が見せる顔はかけ離れているという事です。いや、良心的な言葉の中で相手を追い詰め、そしてそれを他者には気取られずに行う。なるほど確かに彼女は高いスキルを持っているようだ。褒められたスキルではないが」
「気取られぬように相手を追い詰める?それはどういう意味だ?」
「……………」
「リッテル?」
私はグライユルに今朝の事を話そうとしてふと考えた。
今朝のリオナとラミレス補佐官の様子を見て、日常的に二人があのようなやり取りをしていると、すぐに女の勘が察知した。
明らかにメリッサ・ラミレスはレグラン・グライユルに懸想し、妻であるリオナを疎んじている。
そしてそれをグライユルには分からないように、言葉による嫌がらせを影でこっそりとやっているのだ。
どうせリオナが夫であるグライユルや父であるトレア部長に告げ口をしないように上手く釘も刺してあるのだろう。
よくも私の可愛いリオナに。
そしてそんな狡猾なラミレスの事だ。
上からの転属の辞令には嫌々でも従うとしてもこのまますんなりと引き下がるとは思えない。
追い詰められたラミレスが何か行動に出るか……?
それならばこのままこの状況を利用して、ラミレスがどう出るか見極めるのも手ではないだろうか。
素直に辞令に従えば良し、そうでない場合は問題のある職員としてリストに載る。
事によっては処断されるだろう。
今ここでグライユルにラミレスとリオナの事を話せばリオナが可愛くて仕方ないグライユルの事だ、ラミレスに高圧的に真意を問い質し、ブリザードを吹雪かせながらさっさとラミレスを追い出すだろう。
だけどそれでは遺恨が残り、ラミレスが逆恨みしないとも限らない。
そしてその矛先は必ずリオナに向かうに違いない。
まぁグライユルがそれを許すとは思えないが。
ここは一つ、強かに慎重に……網を張ってラミレスの出方をみるか。
そう考えた私は結局、詳しい事は話さずにメリッサ・ラミレスの新しい配属先としてウチの地方局で引き取る旨を示し、人事部長とグライユルとで話を進めた。
そしてその場で人事部長の認可と下知をゲットした。
正式な辞令は後日となるが、その決定を私が本省にいる内にした方が良いとグライユルに進言し、二人ですぐさまラミレスに転属の事を伝えた。
「え………そ、そんなっ……わ、私、その話はご辞退申し上げたじゃないですかっ……」
案の定、ラミレスはすんなりとは受け入れなかった。
グライユルがラミレスに告げる。
「正式な発令日は後日となるが、これは既に決まった事だ。新年度からはここにいるリッテルがキミの直属の上官となる」
「よろしく。グライユルの補佐官だった経験を活かし、更なる活躍と良い働きを期待しているよ」
「でも、あ、あのっ……」
それでも難色を示すラミレスに私は毅然として告げる。
「魔法省に勤める限り、異動や転属があるのは当たり前の事だとキミも理解しているはずだ。そしてそれを余程の事でもない個人的な理由では辞退出来ないのも理解しているだろう?」
「……はい」
「ではこの話はここまでだ。……キミさえよければ新年度とは言わず準備が整い次第、すぐにでもウチに来てくれて構わないよ?」
「……いえ、残り二ヶ月強、精一杯グライユル室長の補佐を務めたいと思っております」
「そう。殊勝な心掛けだね。でもくれぐれも職務を超えた言動は控えるように」
「………はい」
私とラミレスのそのやり取りを、グライユルは黙って聞いていた。
……………怖……
───────────────────────
最終話までラストスパート!
幸い同じく登省してすぐの人事部長を捕まえる事が出来、時間を貰える事となった。
本省の人事部長は壮年の恰幅の良い好人物である。
まずはグライユルが自身の補佐官であるメリッサ・ラミレスの転属を改めて願い出た。
前々からグライユルが人事部にその旨を申請していたので話は部長にもすんなりと通ったが、人事部長はグライユルに訊ねた。
「しかし急にどうしたんだ?長年側に置いていた副官を手放そうなんて」
「急ではありません。結婚が決まってすぐに人事に希望を出しましたが、ラミレスの次の補佐官となる職員が見つからないと保留の状態でした」
グライユルがこう答えると人事部長は腕を組んで小さく唸り声を上げた。
「ラミレス補佐官は優秀な職員だと私の耳にも届くほどだからなぁ」
「その優秀な職員をいつまでも補佐官止まりにしておくのは魔法省全体の損失になると考えました」
「なるほどなぁ……」
「というのは建前で、妻を娶った上でこれ以上“仕事上の妻”と揶揄される人物を側に置いておく事は出来ないと判断したのが主な理由です」
「ああ、なるほどなぁ……」
腕を組んだまま深く頷く人事部長に、私はその真意を訊ねてみた。
「やけに神妙なお顔をされますね。何か思うところがお有りですか?」
「うーん……妻がな、新年祝賀パーティーでラミレス補佐官に苦言を呈したそうなんだ。副官といえど夫婦の事に首を突っ込むなと。しかしラミレス補佐官はその時、妻の話を適当に受け流してグライユル君の後を追ったそうなんだよ」
「なるほど」
今度は私がそう言うとグライユルと人事部長、二人が声を揃えてこう言った。
「「なるほど、とは?」」
やれやれ。これだから男は。
「普段ラミレス補佐官が仕事上で見せている顔と、彼女の本質が見せる顔はかけ離れているという事です。いや、良心的な言葉の中で相手を追い詰め、そしてそれを他者には気取られずに行う。なるほど確かに彼女は高いスキルを持っているようだ。褒められたスキルではないが」
「気取られぬように相手を追い詰める?それはどういう意味だ?」
「……………」
「リッテル?」
私はグライユルに今朝の事を話そうとしてふと考えた。
今朝のリオナとラミレス補佐官の様子を見て、日常的に二人があのようなやり取りをしていると、すぐに女の勘が察知した。
明らかにメリッサ・ラミレスはレグラン・グライユルに懸想し、妻であるリオナを疎んじている。
そしてそれをグライユルには分からないように、言葉による嫌がらせを影でこっそりとやっているのだ。
どうせリオナが夫であるグライユルや父であるトレア部長に告げ口をしないように上手く釘も刺してあるのだろう。
よくも私の可愛いリオナに。
そしてそんな狡猾なラミレスの事だ。
上からの転属の辞令には嫌々でも従うとしてもこのまますんなりと引き下がるとは思えない。
追い詰められたラミレスが何か行動に出るか……?
それならばこのままこの状況を利用して、ラミレスがどう出るか見極めるのも手ではないだろうか。
素直に辞令に従えば良し、そうでない場合は問題のある職員としてリストに載る。
事によっては処断されるだろう。
今ここでグライユルにラミレスとリオナの事を話せばリオナが可愛くて仕方ないグライユルの事だ、ラミレスに高圧的に真意を問い質し、ブリザードを吹雪かせながらさっさとラミレスを追い出すだろう。
だけどそれでは遺恨が残り、ラミレスが逆恨みしないとも限らない。
そしてその矛先は必ずリオナに向かうに違いない。
まぁグライユルがそれを許すとは思えないが。
ここは一つ、強かに慎重に……網を張ってラミレスの出方をみるか。
そう考えた私は結局、詳しい事は話さずにメリッサ・ラミレスの新しい配属先としてウチの地方局で引き取る旨を示し、人事部長とグライユルとで話を進めた。
そしてその場で人事部長の認可と下知をゲットした。
正式な辞令は後日となるが、その決定を私が本省にいる内にした方が良いとグライユルに進言し、二人ですぐさまラミレスに転属の事を伝えた。
「え………そ、そんなっ……わ、私、その話はご辞退申し上げたじゃないですかっ……」
案の定、ラミレスはすんなりとは受け入れなかった。
グライユルがラミレスに告げる。
「正式な発令日は後日となるが、これは既に決まった事だ。新年度からはここにいるリッテルがキミの直属の上官となる」
「よろしく。グライユルの補佐官だった経験を活かし、更なる活躍と良い働きを期待しているよ」
「でも、あ、あのっ……」
それでも難色を示すラミレスに私は毅然として告げる。
「魔法省に勤める限り、異動や転属があるのは当たり前の事だとキミも理解しているはずだ。そしてそれを余程の事でもない個人的な理由では辞退出来ないのも理解しているだろう?」
「……はい」
「ではこの話はここまでだ。……キミさえよければ新年度とは言わず準備が整い次第、すぐにでもウチに来てくれて構わないよ?」
「……いえ、残り二ヶ月強、精一杯グライユル室長の補佐を務めたいと思っております」
「そう。殊勝な心掛けだね。でもくれぐれも職務を超えた言動は控えるように」
「………はい」
私とラミレスのそのやり取りを、グライユルは黙って聞いていた。
……………怖……
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最終話までラストスパート!
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