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朝の応酬
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ミライザさんを自宅に招いた休日が明け、いつも通りにラミレスさんがレグランを迎えに来た。
「おはようございます」
「おはようございますラミレスさん」
あの祝賀パーティーで私に対する敵意を剥き出しにしたラミレスさんだったが、あれ以降はそれまでと変わらない態度に戻っていた。
………そう、一見友好的に見えるがしっかりとマウントを取ってくるいつもの彼女に。
「あら、まだ顔色がお悪いんじゃないですか?無理して起きて来られなくても、室長には私がおりますから大丈夫ですよ?」
確かにミライザさんとの食事が楽しくて少々食べ過ぎて朝から少し胸焼けがしている。
それが顔色にも出ているようで、ラミレスさんがそう言った。
これが善意からくる発言ならどれだけ良かっただろう。
でも彼女が私をレグランの妻として認めていないのはあの祝賀パーティーでハッキリとわかった。
私の体調を気遣うフリして邪魔者扱いをするラミレスさんに私は笑顔で答えた。
「少し胃がムカムカしているだけですのでお気遣いなく。愛する夫のためならこれくらいなんともありませんわ」
「……でも体調が悪いのは確かなんですよね?どうです、なんなら暫くご実家に戻られて静養されては」
なんとまぁ……実家に帰れ発言まで飛び出してきたわ。
これも気遣う体を装って、あからさまに私をレグランから遠ざけようとしている。
断固として負けるもんか!
彼女には絶対負けないと決めたんだから!
絶っっ対、レグランからは離れないわ!
妻は私ではなくラミレスさんの方がよかったのでは?なんて二度と思わない!!
私は毅然とした態度でラミレスさんに言った。
「いいえ。ご心配には及びません。それに私が側に居ないと夫が寂しがりますから」
「………」
言ってやった!言ってやったわ!
今まで私はレグランにとって見合いで押し付けられた上官の娘だけにすぎないと思っていたから口が裂けてもそんな事言えなかったけど、ミライザさんの発言でレグラン自身が強く私との結婚を望んでくれたと知ったんだもの。
このくらい言ってやってもいいわよね!
だけどやはりラミレスさんはこのくらいで怯む事はない。
「でも、一日の内わずかな時間しか一緒にいられないのでは?それで室長が寂さを感じるとは思えないのですが」
まっ!なんたる言い方!
しかも痛いとこ突いてくるあたりが悔しいわ。
確かに平日は睡眠時間を除いて私がレグランの側にいられる時間は朝と夜のわずかな時間しかないもの。
自分の方が共にいられる時間が長いと暗に匂わせるラミレスさんになんて言い返してやろうかと考えていたその時、涼やかで凛とした声が聞こえた。
「メリッサ・ラミレス補佐官、キミはいつもグライユル夫人に対しそんな口の利き方をしているのか?」
休日の間、お願いして我が家に宿泊して貰っていたミライザさんが客室から出て来て、ラミレスさんにそう言った。
「っ!?リ、リッテル地方副局長っ……?な、なぜここにっ?」
突然現れた、ラミレスさんにとってはレグランと同等に魔法省の上官であるミライザさんを見て彼女は目を大きく見開いて驚いた。
「本省に出張中でね。同期であり友人であるグライユル夫妻のご好意に甘えて滞在させて貰っているんだよ。それよりラミレス補佐官、先程の発言はどういう事だ?なぜ一介の副官にすぎないキミが夫婦の事に口出しをしている?」
「そ、それはですねっ……グライユル室長の副官として心配をして……」
「上官夫人に実家に帰れだとか上官の心情を憶測で口にするのは明らかに副官としての職務とは関係の無い事。常軌を逸しているとは思わないのか?」
「そんな事はっ……」
「思わないというのであれば、キミは補佐官としては有能とは言えないな。私の記憶ではキミはかなり優秀な職員であったはずなのだが……どうやら認識を改めねばならないようだ」
「っ…リッテル地方副局長っ……」
あら、なんだかざまぁあそばせ的な展開になったわね。
さすがはミライザさん。
魔法省きっての才媛と呼ばれるだけの事はある。
そんな彼女に理詰めの正論でこられては、ラミレスさんも返す言葉が見つからずタジタジなご様子だわ。
ムカムカしていた気持ちが幾分かスッキリして二人のやり取りを見ていたら、支度を終えたレグランが寝室から出て来た。
「リオナ、今晩は早く帰れそうだよ……ん?どうした?」
私に話しかけてきたレグランがミライザさんとラミレスさんの間に流れる不穏な空気を感じ、神妙な面持ちになった。
そんなレグランにミライザさんが告げる。
「グライユル。キミに打診された件、可及的速やかに対応するよ」
「何か問題でも起きたのか?」
「大問題だよ」
「っ……!」
レグラン、ミライザさん、ラミレスさんのやり取りを私は黙って見守った。
魔法省の人事に関わる案件。
私が言える事は何もない。
それから三人は定刻通りに我が家を後にした。
今朝はもちろん、レグランとラミレスさんが乗る馬車にミライザさんも同乗する。
「行ってらっしゃい」
私は笑顔で三人を見送った。
「おはようございます」
「おはようございますラミレスさん」
あの祝賀パーティーで私に対する敵意を剥き出しにしたラミレスさんだったが、あれ以降はそれまでと変わらない態度に戻っていた。
………そう、一見友好的に見えるがしっかりとマウントを取ってくるいつもの彼女に。
「あら、まだ顔色がお悪いんじゃないですか?無理して起きて来られなくても、室長には私がおりますから大丈夫ですよ?」
確かにミライザさんとの食事が楽しくて少々食べ過ぎて朝から少し胸焼けがしている。
それが顔色にも出ているようで、ラミレスさんがそう言った。
これが善意からくる発言ならどれだけ良かっただろう。
でも彼女が私をレグランの妻として認めていないのはあの祝賀パーティーでハッキリとわかった。
私の体調を気遣うフリして邪魔者扱いをするラミレスさんに私は笑顔で答えた。
「少し胃がムカムカしているだけですのでお気遣いなく。愛する夫のためならこれくらいなんともありませんわ」
「……でも体調が悪いのは確かなんですよね?どうです、なんなら暫くご実家に戻られて静養されては」
なんとまぁ……実家に帰れ発言まで飛び出してきたわ。
これも気遣う体を装って、あからさまに私をレグランから遠ざけようとしている。
断固として負けるもんか!
彼女には絶対負けないと決めたんだから!
絶っっ対、レグランからは離れないわ!
妻は私ではなくラミレスさんの方がよかったのでは?なんて二度と思わない!!
私は毅然とした態度でラミレスさんに言った。
「いいえ。ご心配には及びません。それに私が側に居ないと夫が寂しがりますから」
「………」
言ってやった!言ってやったわ!
今まで私はレグランにとって見合いで押し付けられた上官の娘だけにすぎないと思っていたから口が裂けてもそんな事言えなかったけど、ミライザさんの発言でレグラン自身が強く私との結婚を望んでくれたと知ったんだもの。
このくらい言ってやってもいいわよね!
だけどやはりラミレスさんはこのくらいで怯む事はない。
「でも、一日の内わずかな時間しか一緒にいられないのでは?それで室長が寂さを感じるとは思えないのですが」
まっ!なんたる言い方!
しかも痛いとこ突いてくるあたりが悔しいわ。
確かに平日は睡眠時間を除いて私がレグランの側にいられる時間は朝と夜のわずかな時間しかないもの。
自分の方が共にいられる時間が長いと暗に匂わせるラミレスさんになんて言い返してやろうかと考えていたその時、涼やかで凛とした声が聞こえた。
「メリッサ・ラミレス補佐官、キミはいつもグライユル夫人に対しそんな口の利き方をしているのか?」
休日の間、お願いして我が家に宿泊して貰っていたミライザさんが客室から出て来て、ラミレスさんにそう言った。
「っ!?リ、リッテル地方副局長っ……?な、なぜここにっ?」
突然現れた、ラミレスさんにとってはレグランと同等に魔法省の上官であるミライザさんを見て彼女は目を大きく見開いて驚いた。
「本省に出張中でね。同期であり友人であるグライユル夫妻のご好意に甘えて滞在させて貰っているんだよ。それよりラミレス補佐官、先程の発言はどういう事だ?なぜ一介の副官にすぎないキミが夫婦の事に口出しをしている?」
「そ、それはですねっ……グライユル室長の副官として心配をして……」
「上官夫人に実家に帰れだとか上官の心情を憶測で口にするのは明らかに副官としての職務とは関係の無い事。常軌を逸しているとは思わないのか?」
「そんな事はっ……」
「思わないというのであれば、キミは補佐官としては有能とは言えないな。私の記憶ではキミはかなり優秀な職員であったはずなのだが……どうやら認識を改めねばならないようだ」
「っ…リッテル地方副局長っ……」
あら、なんだかざまぁあそばせ的な展開になったわね。
さすがはミライザさん。
魔法省きっての才媛と呼ばれるだけの事はある。
そんな彼女に理詰めの正論でこられては、ラミレスさんも返す言葉が見つからずタジタジなご様子だわ。
ムカムカしていた気持ちが幾分かスッキリして二人のやり取りを見ていたら、支度を終えたレグランが寝室から出て来た。
「リオナ、今晩は早く帰れそうだよ……ん?どうした?」
私に話しかけてきたレグランがミライザさんとラミレスさんの間に流れる不穏な空気を感じ、神妙な面持ちになった。
そんなレグランにミライザさんが告げる。
「グライユル。キミに打診された件、可及的速やかに対応するよ」
「何か問題でも起きたのか?」
「大問題だよ」
「っ……!」
レグラン、ミライザさん、ラミレスさんのやり取りを私は黙って見守った。
魔法省の人事に関わる案件。
私が言える事は何もない。
それから三人は定刻通りに我が家を後にした。
今朝はもちろん、レグランとラミレスさんが乗る馬車にミライザさんも同乗する。
「行ってらっしゃい」
私は笑顔で三人を見送った。
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