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第二部  第三章  それぞれの真実と闇

12  コーヒーブレイク的な?

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「本当に待ち草臥れたわ」

「……悪かった、と思う」

 ややばつの悪そうな表情のエレウテリオ。

「悪かったと思うですって⁉」

 明らかに不機嫌な様子を一切隠す事のないアルテ-ア。

 そう二人はあれよりまた数度の転生を経てこうして神代の記憶を取り戻せば、今生での二人の関係は仲の良い友人としてカフェで優雅にお茶を嗜んでいた。

 だが決してまったりとしたものではない。

 今生では子爵家の嫡男であるエレウテリオ。

 優雅にお茶の一つでも楽しみたいと、そこは過去の神であった頃にはない貴族令息として紳士然としていたのである。

 一方アルテ-アは伯爵家の令嬢。

 前世の頃と変わらずいや美しさは尚増せば、より一層魅力的な女性へと成長を遂げていた。

 だが二人にしてみれば上っ面な、それこそ彼らにとって見かけだけの肉体なんてものはどうでもいい。

 それよりも何よりも彼らの気がかり且つ重大事は――――。


「何故っ、どうしてこれ程探してもガイオとローザは見つからないのっ!!」
「テア、声が大きい。ここは屋敷ではなく外のカフェなのだのよ」

 感情の高ぶるアルテ-アを必死に宥めるエレウテリオ。

 エレウテリオ自身何時から自分はアルテ-アの癇癪を宥める側へとなったのだろうかと思う。

 以前の、神代の頃の彼ならば決して他人の感情を気にするどころか、周囲の状況を見極めればだ。

 こうして癇癪を起すアルテ-アを宥めるだなんて事は天と地が引っ繰り返っても行わなかっただけでなく考えもしなかったであろう。

 それどころか逆切れの果てに目につく物へしっかりと当たっていたな……と断言出来る。


 なのにである。
 今では思い通りにならないアルテ-アの機嫌を取るのに必死な自分へ、呆れを通り越し思わず笑ってしまうのだ。

「あら、何が可笑しいのかしら」
「いや、何でもない。ただ――――」

 そうエレウテリオは思ったのだ。

 神であった頃には決して思わないし考えてもみなかった。

 何故なら神の肉体は不老不死。

 老いる事もなければ死を迎える事のない完璧な身体。
 

 それに比べ脆弱な器と期限付きの生を持つ人間だからこそなのだろう。

 富のある者、力ある者が手に入れらる事の出来ない不老不死を願うのは……。

 そして期限のある肉体だからこそ、その終わりを迎える最期の光を失うその瞬間までに後悔をせぬよう必死に生きているのだろう。


 まあ全てがそれに値するとはエレウテリオ自身思いはしない。


 何故なら神であれ人間であれどもイレギュラー的な者は何処にでも存在するのだ。

 だからこそ完璧な肉体と高い知性、そして優れたる御力を持つ神であった自分達にも終わりがあった様に……。


「時の流れが魂を成長……若しくは熟成させるのでしょうかね」

「はい? その何て言うのかしら。まるで珈琲か何かみたいに魂をたとえるだなんてエレウテリオ、貴方私を迎えに来る途中で何処か頭でもぶつけたの? それとももしかしなくても早々にこの人生を終わらせようとでもしているのかしら」

「……テア、人を勝手に殺さないで貰いたい」

「あら殺して等いないわ。ただ貴方が随分とジジ臭い事を話す様になったのねって忠告して差し上げているのよ」

 まだ20歳の若者の癖に……とアルテ-アは思った。

「年齢は関係ありませんよ!!」

 即座に言い返すエレウテリオ。

「あら、聞こえていた?」

 ふふふと嫣然とアルテ-アは微笑んでみせる。


「とは言え一体お二人はどうして見つからないのかしら。他の主だったガイオ様の配下達の行方は掴めていると言うのに……」

「ああそうだね。ただあの瞬間僕は霞がかった意識の中でローザを追うメルチェーデと御力を解放したガイオが暴走させるほんの一瞬だけれどね。彼は御力の一部の様なものをメルチェーデへ、そして共にローザを追う様に向かわせたのを見たのだと思う」

 それはエレウテリオが彼自身の本来の意識を取り戻したのと、ガイオの御力を暴走させるほんの僅かな瞬間だった。

 そう瞬きをする時間もないくらいの事だった故にエレウテリオははっきりとは断言が出来ない。

「ではメルチェーデはローザと共にいると、その可能性は高いのね」

「ああガイオは兎も角、メルチェーデは神代の頃でもローザを母や姉の様に慕っていただろう。実際メルチェーデはローザ以外の者へ完全に心を許してはいない。そのメルチェーデがローザを追わないなんて筈がない」

 アルテ-アはこくんと一口紅茶を飲み――――。

「考えられるとすれば呪いを受け魂を穢されていくローザにメルチェーデは、そうして多分ガイオも何らかの形でローザの魂へ介入しているとすればきっと……」

「……呪いの連鎖に引き摺り込まれている可能性が高い!?」


 どん――――と、力一杯にエレウテリオは拳で机を思いっ切り叩いていた。


「お、俺の所為だ!! 俺が神殺しの剣なんてものを作り出さなければっ、ダーリアを失った悲しみに心が支配されなければ俺は――――っ!!」
「貴方の所為なんかではないわエレウテリオ。あれは貴方の心を手玉に取り、そう仕向けたサヴァーノとインノチェンツァの謀だったのよ!! 貴方はまんまとあいつらに騙されただけだわ」
「でもっ、でも俺はその所為で取り返しのつかない事を〰〰〰〰!!」

 エレウテリオは過去の記憶を思い出せば、転生を繰り返す中で尚一層己自身の過去に犯した罪を今も現在進行形で悔いている。


「私達はまだ全てが終わった訳ではないわ。それに誰しも過ちは犯すものよ。でも大切なのはエレウテリオ……それを悔い改めるか、悔いる事無く愚かにも罪を更に重ね続けるか――――なのよ。私達はやがて来るだろう時の為に出来るだけ早く二人を、メルチェーデを入れて三人を見つけ出しましょう。全ては三人と再会してからなのだから……」

「ああ、そうだな。悪いアルテ-ア、俺はどうしても過去に囚われがちになってしまう」
「ふふ、それは今に始まった事じゃあないわ。さあ、皆と協力して三人を探しましょう」


 そして何れ起こりえるだろう最悪の未来を何としても回避する為に!!


 こうして二人は冥界でガイオに仕えていた仲間と共にローザ達の行方を捜すのであった。
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