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第二部  第二章  泡沫の夢と隠された真実

閑話 ローザとメルチェーデの出会い編  メルチェーデSide Ⅲ

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 目の前には生まれたてのふわふわで小さな雛鳥は、傍にいる親鳥の許可を貰っただろうローザの掌で安心しきった様子で寛いでいる。

 ほんの少し力を入れれば直ぐにでも死んでしまうくらいの脆弱過ぎる生き物。
 
 恐らく私の吐息一つできっと焼き鳥ならぬ焦げ鳥の出来上がり――――は多分に大袈裟ではないと思う。


 なのにだっ。

 ローザは朗らかな笑顔と共にその脆弱過ぎるだろう雛鳥を私の掌へ、……と私にしてみればこれ以上ないくらいの無理難題を事も無げに吹っ掛けてきたのだ⁉

 流石に親鳥もこれには怒るだろうと思いきや、何故か親鳥はローザの言葉に従い、荒ぶる女神である筈の私が雛鳥へ触れても問題ないと言う様に落ち着いている。


 今までならば決してあり得ない事。
 また絶対にあってはならなかった事がローザと共にいるだけで、全てが当たり前の世界へと姿を変えていく。

 孤高で孤独だった心が何時の間にか凪いだ海の様に、それは何も動物に限ってだけの事ではない。

 常に恐れられ、敬遠され続けられていた人間達にまで気が付けば私は普通に受け入れられていた。


 勿論全てが――――と言う訳ではない。


 ローザの御力を用いてでも全てが思う様になる訳ではないのは同じ神だから分かるもの。

 そう神は何時の世も万能ではない。

 第一万能なる者の存在こそがなのだ。


 そうしてゆるゆると幸せな時間はゆっくりとでも確実に流れていく。
 また同時にローザの存在を以てしても堕落したバルディーニが元の姿へ戻る事もなかった。

 私はと言えばローザと行動を共にする事が多いと言うのか寧ろ自ら進んで彼女の傍にいた。

 まあこんな私を受け入れてくれるのは世界中を探してもきっとローザしかいなかったと言うのもあるのだが、その彼女はと言えば表向きではあるが最高神サヴァーノの妻神と言う地位にある。

 だがローザ自身はこの世に誕生して以来夫神であるサヴァーノをずっと避け続けていた。

 まあ最初は浮気三昧と乱交し放題のマザコン野郎故なのだろうと単純に思っていた。


 うんそれはあながち間違ってはいない。

 でも真実はローザ自身の心の奥深くに秘められた切ない想い。

 ローザの思う相手がガイオだったと言う事実に不思議と私は驚かなかった。

 ただサヴァーノとガイオと言う兄弟神の関係を知り過ぎている私からすれば、これは余りよくはないだろう事はわかる。
 

 優秀過ぎる兄神と山程のコンプレックスを抱えた弟神。


 ついこの間まで、ローザの優しさに触れる前の私自身それなりに色々とコンプレックスを抱えていたのだ。

 まあはっきり言えば私はそのコンプレックスの塊より生み出されたのだからな。

 多少のコンプレックスくらい抱えていたとしても何ら可笑しくはないだろう。

 それにいけ好かない父神だが、サヴァーノの気持ちもわからなくはない。


 だが理解は出来ても賛同はしないしする心算はない!!


 私にとっての唯一はローザなのだ。
 彼女が傍にいるだけで私の心は温かいものとなり灰色の世界が美しく色づいていくのだ。
 そしてこれまでに得られなかった幸せと言うものをちゃんと感じる事が出来る喜び。


 そうローザが幸せになれるのであれば私は、私の持つ全ての力を、生命エネルギーを使い果たしても決して後悔はしないだろう。


 心が温かな幸せに満たされる。
 

 単純だがとても大切な事を他の誰でもない、ローザが初めて私に教えそして与えてくれたのだ。

 だから私はローザに何か変事があるとするならば、全力を以って彼女を護る。

 ただ私以上に強いローザが危機に見舞われる事の方が確率的には低い。

 護られる事があっても護る側になる可能性は低いのだと、私は漠然とそう思っていた。

 いや思い込んでいたと言う方が正しい。


 そう新たな混沌の母となる可能性の高いローザに、よもやおぞまし過ぎる危機が押し寄せる等到底考えられようもなかったのだ。


 優しくも強く、気高い……私はローザに対しへ母親を慕う幼子の様な想いを抱いていたのだろう。

 全てを包み込む母親の様な彼女がまさかあの様な事となってしまうなんて、掛け替えのない者を失ってしまった後悔と悲しみは何千年経った今でも決して忘れられない。

 あの時あの瞬間に私はローザを護れなかった後悔の念に耐え切れなかった。

 私は彼女のこれより先背負わされるだろう呪いを共に受けるべく自身の御力の全てを使い果たした事により、彼女の何処までも深く堕ちていくだろう魂へ幾重にも鎖を掛けていく。


 ローザ貴女は何も覚えてはいないだろうが私達は何時までも共に生きて行こう。

 譬えこれより先も何度地獄の様な思いを繰り返そうともだ。

 いっそ魂そのものが消滅した方がましだと思う時でさえ、たった一人では決して耐えられなくともだ。

 二人一緒ならば何処迄も耐えてみせよう。


 そして今度こそ私は何があってもローザ、貴女を全力で護ってみせる!!
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