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第二章 過去から現代へ向かって ~過去二年半前
15 密談 前半
しおりを挟む舞台は変わりここはルガート王国王都クロムの中でも老舗の高級宿屋。
王宮のある中心部よりやや南に位置し、宿の周囲はぐるりと木々が外界を断ち切る様に生い茂り、だが決してその木々は放置等されてはいない。
どの木々も一本一本丁寧に手入れがなされている。
ただ外界と断ち切る為に意図的に管理されていると言ってもいい。
そうあらゆる意味でこの宿屋は高級なのである。
建物から始まり小さな調度品に至るまで全てが一流。
また一元の客を安易に寄せ付けない雰囲気のある宿屋。
だからして人目を避けるのにはちょうどいいのかもしれない。
ほら、そう言っている間にも宿屋の二階より男性達の声が聞こえてきた。
「――――でアーロン殿下は息災にされているのかな?最近殿下のお噂を耳にしないものでね」
「ふ、貴方様らしくないですね。常に裏で色々とお動きになられているのでしょう。そんな貴方が私の様な若輩者に声を掛けて頂いたとして、私は何と答えて宜しいものかと……」
「いやいやこの国で君程優秀な人材はいないだろう・あぁそう言えば一人いたね。カータレット伯爵の所のゴードウィン卿……彼も逸材だね。それにブレーメンタール公爵のアントワーヌ卿も確か……そう君と確か同じ学年だったかな侯爵?」
少し銀色交じりの焦げ茶色の髪と瞳を持つちょい悪オヤジ風なのに何処か紳士然とした男性的な魅力溢れるダンディーな男性は、ゆったりとしたソファーに身を沈ませつつ優雅な仕草で葉巻を嗜んでいた。
また彼特有の柔らかくも甘みのある色香を纏ったバリトン・リリコの様な声音で対面の侯爵と呼ぶ男性へ、幾分揶揄いを含めて話し掛けていた。
侯爵である青年は鮮やかな緑色の髪と漆黒の瞳を持つ見るからに神経質そうな印象を纏うイケメンは、ソファーに腰を下ろしさも面白くないといった顔つきで目の前の男性を一瞥している。
「ふふ君は昔から彼らと比べられると何時も嫌そうな顔つきになるね。いや実に揶揄いがいがあるな」
「あいつらとは一緒にして頂きたくはないですね。少なくともゴードウィンは騎士でありながら戦う事をせず医学の道へ進んだのです。私は武官ではありませんが文官として我が国の為に毎日骨身を惜しんで尽くしていますからね」
「君、それって表の顔ででしょう?」
「な、何を……!?」
「ふふ今更隠さなくてもいいよ。私はアーロン殿下とも色々親しくさせて頂いているからね。以前より君の事もよく話しには出ていたさ」
「――――ったくあの御方は!!」
悪態を吐き苛立つ気持ちを抑え込む様に公爵は自身の銀縁の眼鏡のフレームをくいっと持ちあげる。
「それで殿下のお願いの進行状況はどうなのかな?」
「はぁ予定通りとは申せませんね。流石に万年平和惚けのライアーンとは違い我が陛下の御元ですからね。幾ら離宮で忘れられた様に扱われていようともです。一応姫君は現時点で我が国の王妃ですのでそれなりの警護が付いております。何度も間者を送り込んではおりますが離宮内の敬語は表よりも厳重で、実に情けないくらい失敗していますよ。まぁ私自身その姫君の御尊顔も存じ上げないのでどの様な御方なのかは知りません。ですがアーロン様はかなり彼の姫君へご執着されておいでですね」
侯爵は内情を知られているのならば構わないと思ったのだろう。
真の主君と通じているならば最早隠し立てしても詮無き事と言う具合に、目の前の男性へやや呆れた口調で説明した。
一方その男性は実に興味深く侯爵の話へ耳を傾けていた。
「アーロン様は姫君に固執されておられますがそれよりも今はシャロンの復興にもっと身を入れなければいけないのです。本来ならば新興国であるこの国に滅ぼされる等あってはならないのです。抑々このルガートは元を正せばシャロンの一部に過ぎなかった。なのにルガートはシャロンへ恩義どころか牙を剥く等断じて許されません!!」
「……だね」
「機会があれば私はラファエル陛下を弑逆する心算です。現在御子のおられない陛下には後を継ぐ者はおりません。そうシャロンとルガートは元を正せば一つの王家です。今のルガートは全盛期のシャロンまでとは参りませんがそれに次ぐ勢いと領土を保有しています。ラファエル陛下の首一つでアーロン殿下は王となる事が可能なのです。そうでしょうミドルトン公爵」
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