【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜

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第1部 - 第2章 勤労令嬢と魔法学院

第21話 魔法戦術実習

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「まさか、初日にこの授業を入れてくるだなんてな」

 隣に立つアレンのぼやきには、思わずジリアンも頷いた。
 ここでも実力至上主義の学院の意向が垣間見えるわけだが、ほとんどの生徒は不安でいっぱいだろう。

「魔法戦術実習をはじめる!」

 王立魔法学院の敷地内には、巨大な競技場がある。そこで行われるのが、この授業だ。1学年を半分にした人数で行われるので、約60名の生徒が運動着姿で集まっている。

「木剣は全員持っているな?」

 ジリアンは競技場に入る際に配られた木剣ぼっけんを見た。かしの木でできた訓練用の剣だ。

「ルールは特にない。敵チームのキングの首をとったら勝ちだ」

 とてつもなく厳つい顔で、とんでもないことを言い放ったのは担当教員のキース・チェンバース教授。チェンバース公爵家の当主であり、戦時中は魔法騎士団を率いていた人。今年度から魔法戦術学の教授として学院にせきを置いている。
 魔法戦術を教えるのに適任者と言えるかもしれないが、のっけから教育者としてあるまじき発言だ。

「ゴホン」

 その隣で咳払いをしたのは、ジャネット・リブー医師。魔大陸から来た、治癒師ヒーラーだ。校医を務めるかたわらで『魔法医療学』の研究にも携わっている。

「……敵チームの大将の『まと』を壊せば勝ちだ」

 チェンバース教授が言い直す。これを聞いて、青い顔をしていた生徒たちも息を吐いた。

「また、大将以外も『的』を壊された場合は死んだものとみなす。速やかに場外へ出るように」
「『的』以外への攻撃は厳禁です。事故もあるでしょうが、 故意こいに『的』以外を狙った場合には停学や退学の対象になりますので。そのつもりで」

 リブー医師が釘を刺す。
 『的』とは、生徒が首からぶら下げている木の板のことだ。手のひらよりも少しばかり大きなそれは、ちょうど心臓を保護する位置にくる。硬化魔法がかけられているらしいが、正直心もとない。

「それでは、チーム分けを行う。今日は初日なので2チームに分かれて行う、単純な模擬もぎ戦闘だ」

 初めての授業だというのに、早速実践に入るらしい。

(まずは生徒の実力を把握したいってところかしら?)

 チェンバース教授がしかめ面で生徒の集団の、左の方を指差した。

「ここからこっちがAチーム。そっちがBチームだ」

 ジリアンとアレンはBチームに含まれることになるが……。

「教授……」

 Bチームに指名された一人が、恐る恐る挙手をした。

「なんだ」
「あの……、人数がかたよりすぎではありませんか?」

 彼の言うとおり。Aチームは約45名、Bチームは15名といったところか。倍以上も差がある。

「Bチームには、ジリアン・マクリーンがいる」

 生徒たちが、一斉にジリアンの方を見た。

「まさか、新しい魔法使えない、というわけでもあるまい?」

 これは嫌味だ。
 古い家門の後継者でありながら、旧来の伝統的な攻撃魔法を使わず、新しい魔法ばかりを使っているジリアンへの。

「これでもまだ戦力が均等きんとうになったとは言い難いな。Bチームに、十席までの生徒は他にいるか?」

 その問いかけに、二人手を挙げた。

「二人共、Aチームに移動だ」

 Bチームの人数は更に減って13名。Bチームの生徒たちの顔が、さらに青くなった。

「これでちゃんと試合になるんですか?」

 リブー医師が問うと、チェンバース教授がニヤリと笑った。

「これでようやく、まともな試合になるであろう。……なあ、ジリアン・マクリーン」

(キース・チェンバース前公爵なんていう大物が、どうして学院の教壇に立つことになったのか疑問だったけど……)

「まさか学院でやるのかよ。『チェンバース対マクリーン』を」

 アレンが面白そうに笑っている。当事者であるジリアンにとっては、全く笑い事ではない。

 チェンバース公爵家はマクリーン侯爵家と同じく、伝統のある大規模な魔法騎士団を抱えている。国内では、この2つの騎士団が常にトップを競ってきた。
 つまるところ、この2つの家門は古くからのライバル関係なのだ。『チェンバース対マクリーン』は、魔法騎士団同士で行われる模擬訓練でも『伝統の一戦』と呼ばれている。

「そういや、今年はチェンバースの家門から何人か入学してたな。Aチームあっちにいるみたいだ」

 アレンが顎で指した先では、数人の生徒がジリアンの方をにらみつけていた。敵対心を隠そうともしていないので、ある意味では気持ちが良い。

「初日の授業で、ジリアンに恥をかかせようってところか?」
「そこまでやるかしら?」
「チェンバースなら、やるだろ。前公爵は、クリフォード・マクリーンには一度も勝てなかったことで有名だ」

(そういえば、そうだったわね)

「だけど、これで戦力が均等だって言われれば、その通りかもな」

 アレンが苦笑いを浮かべた。それだけジリアンの実力を買っているという解釈もできる。

「作戦検討は30分。30分後ちょうどに、試合を開始する!」

 その宣言を合図に、それぞれのチームメイトが集合した。
 もちろんBチームも集合したわけだが、雰囲気は既に最悪だ。

「こわい……」

 青い顔で肩を震わせながら言ったのは、背の低い女子生徒だ。

「大丈夫よ。リブー医師は優秀だから『身体が蒸発して消える』なんてことにならない限り、治してもらえるはずよ」

 ジリアンがその肩を叩いて告げると、その顔色はさらに青くなった。

「脅すなよ」
「脅してないわ」
「人体を蒸発させるような、高度な魔法を使える学生がいるかよ」
「そうなの?」
「……まさか、お前できるの?」
「……」
「黙るな」
「……作戦を考えましょう」
「それは賛成」

 ジリアンとアレンが作戦検討用に準備されていた携帯用の黒板に向き直ると、二人の男子生徒が集まってきた。

「マーク、ジェフリー、よろしくね」

 ジリアンが声をかけると、二人の頬が上気した。

「俺たちの名前を?」
「もちろんよ」
「嬉しいです」
「全力を尽くします」

 その様子を見たアレンが呆れている。

「お前、今夜は説教を覚悟したほうがいいぞ?」
「どうして?」
「お目付け役がいないからって、自由すぎるだろ」
「お目付け役って、ノアのこと?」

 この授業では護衛の立ち入りが禁止されているため、今は競技場の外で見守っているはずだ。

「侯爵も、気苦労が絶えないな」
「本当よね。家門の因縁を、学院にまで持ち込むだなんて」
「……そうだな」

 ジリアンの明後日の方向の言葉に、とりあえずといった様子で頷いたアレンだった。

「あっちの大将は、おそらく第六席のアーロン・タッチェルね」
「タッチェル家といえば、炎魔法の名家だな」
「他には?」
「第十席のイライアス・ラトリッジがいます。序列決めランク・オーダーで土魔法を使っていましたね」
「防御に回られたら厄介ね」
「第八席のモニカ・オニール嬢は、氷を扱えるはず」

 ジリアンたちが真剣に作戦を検討し始めたので、青い顔をしているだけだった生徒たちも徐々に集まってきた。

「確認ですけど、ジリアン嬢は攻撃系の魔法も剣も使えるんですよね?」
「ある程度は。でも、あんまり得意じゃないのよね」

 男子生徒の問いに、ジリアンは控えめに答えた。

「お前、誰と比べてるんだよ」

 それには思わず、アレンが口を挟んだ。

「お父様よ」
「ば……! お前、馬鹿だろ!」
「馬鹿とは何よ!」
「自分の父親が何者なのか、忘れてるんじゃないだろうな?」
「まさか」
「正直に答えろ。クリフォード・マクリーンは、お前の剣と魔法のことをなんて言ってるんだ?」

 そこの問いには、ジリアンも少しばかり考え込んだ。

「十分だ、って」

 ジリアンの返事に、その場が静まり返った。

「……勝ったな」

 沈黙を破ったのはアレン。

「はい。こちらの勝ちですね」
「そういうことなら、大胆にいきましょう」

 続いたのはマークとジェフリーだ。

「どうせ、あっちは人数に物言わせた物量作戦だ」
「大将の守備に数人残して、後は全員で攻めてくるだろ」
「風魔法が得意な人は?」
「あ、私できます」
「人を飛ばせる?」
精密せいみつなコントロールは無理ですけど」
「大雑把でいいよ。あとは、土魔法が使える人は?」
「はい」
「一人か。それじゃあ、そっちはジリアン嬢にも手伝ってもらって……」

 と、ジリアンが口を挟む間もなく作戦が決まっていく。

「ねえ、この作戦、本当に大丈夫?」
「お前、たぶん驚くよ」
「え?」

 首を傾げるジリアンに、他の生徒たちが苦笑いを浮かべている。

「お前に剣と魔法を教えたのは、マクリーン侯爵だろ?」
「うん」
「他の魔法使いとは、訓練なんてさせてもらえなかっただろ?」
「そうだけど」
「他の魔法使いがどんなもんなのか、お前は知らないんだよ」
「どういうこと?」

「クリフォード・マクリーンが、正真正銘の最強だってことだよ」
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