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第1部 - 第2章 勤労令嬢と魔法学院
第22話 最強の魔法騎士
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──魔法騎士。
文字通り、剣と魔法を使って戦う者を指す。
その最初の使い手と言われているのが、シェリンガム王家だ。初代シェリンガム王がその技術を4つの家門に授けたのが、魔法騎士団の始まりと言い伝えられている。
「本当に教わりたいのか、ジリアン」
「はい、お父様」
ジリアンが10歳のときのことだ。
剣と魔法を教えて欲しいと、マクリーン侯爵に懇願した。
「扱えるに越したことはないが、扱えなかったとしても何も問題はない」
「私はお父様の後継者を目指します。当主になれば、いずれは魔法騎士団を率いることなりますよね?」
「そのとおりだが……」
戦争が終わったとはいえ、魔法騎士団がなくなるわけではない。規模を縮小しながらも存在し続けるはずだ。後継者を目指すならば、それを率いる魔法騎士にならなければならない。
しかし、侯爵は渋い顔だった。
「君は女の子だ」
「始祖のドーラ・マクリーンも女性でしょう?」
「今のままでも、十分魔法を使えている」
「新しい魔法は、攻撃魔法には向いていません」
新しい魔法とは、すなわち逆算の魔法。そこから生み出される結果は、自分の発想の域を超えることができない。自然現象の持つ神秘性が失われ、人智を超えた力を生み出すことは出来ないのだ。
「覚悟はあるのか?」
「覚悟?」
「戦う力を持つ、人を傷つける力を持つということは、君自身が傷つく可能性があるということだ」
「構いません。やらせてください!」
「……そうか」
ジリアンの決意が固いことがわかったのだろう。それ以上、侯爵がジリアンを止めることはなかった。
それ以降、侯爵が休暇に入る度に剣と魔法を教わった。
そして13歳になる頃には、『十分だろう』と侯爵のお墨付きをもらうことになったのだった。
* * *
「30分経過した。これより、模擬戦を開始する! はじめ!」
合図と同時に、まずAチームが動いた。予想通り、Aチームの王は炎魔法を得意とするアーロン・タッチェル。守備には土魔法を得意とするイライアス・ラトリッジを含む10名。
それ以外の生徒が、一斉にBチームに向かってきた。
「もう少し、もう少し……」
マークがAチームの動きを見ながら指示を出す。十分に引きつけてから、作戦を開始するのだ。
「今だ!」
「はい!」
合図で、風魔法が得意と言っていた女子生徒が魔法を発動。すると、Bチームのメンバーの身体が浮き上がった。
ジリアンを除いた全員が、だ。
「よろしくおねがいします!」
「こっちはこっちで頑張りますけど、急ぎで!」
「待ってます!」
口々にジリアンに声をかけたメンバーたちは、風に乗ってAチームの集団を飛び越えていった。さらに、その内の一人が土魔法を発動する。ジリアンも手伝って、土の壁を築き上げる。
結果、Bチームの王であるジリアン一人が、土の壁の中でAチームに囲まれることになった。
「すぐに負けることになっても、知らないんだから」
ジリアンが土壁の中で敵の多くを相手取っている間に、他のメンバーでAチームの王を攻めるという作戦だ。これなら、Aチームの王をめぐる攻防については、ほぼ同じ戦力同士の戦いとなる。
ただし、この作戦は『この状況でもジリアンが負けない』ということが大前提となっている。しかも、Bチームはこちらを片付けたジリアンが、Aチームの王攻めに合流することを期待しているのだ。
「まあ、やってみましょう」
剣を構える。
『構えと同時に、素早く敵の情報を把握しろ』
侯爵の指導は、いつも実践的だった。魔法を巧みに使うことよりも、勝つこと、負けないことを考えて戦うことを教えられたのだ。
(確かに、負ける気がしないわね)
敵の人数は49名。右手から炎魔法の気配。正面には、剣術の手練がいる。左手には風魔法の使い手がいるらしい。
(連携するつもりはなさそうね)
ならば、話は早い。
『敵が集団なら、手練から倒せ。素早さが命だ』
(まずは、中央の剣術の人!)
足に力をこめると同時に、風魔法を発動。ジリアンの身体の後ろで破裂した空気が、その身体を一気に押し出した。
──バキッ!
その生徒が反応する間もなかった。ジリアンの木剣が、彼の『的』を割る。
「はやっ……!」
(剣術の手練は潰した。次は右の炎魔法の人!)
右手には、今まさに炎魔法を発動しようとしている女子生徒がいた。ダイアナ・チェンバース嬢。チェンバース教授の直系の孫にあたる令嬢で、第四席。
──ジュワッ!
彼女の攻撃が放たれるよりも早く、ジリアンが水魔法を発動した。彼女の頭上に水の塊が発生する。
「はじけろ!」
ジリアンの声を合図に、それが弾け飛んだ。
「キャー!」
ダイアナ嬢の身体に大量の水がかかって、発動しかけていた炎が消える。同時に弾け飛んだ水滴が弾丸の速さで生徒たちを襲って、三人の『的』が壊れた。
しかし、ダイアナ嬢は怯まず、再び剣を構えた。
(さすがチェンバースの直系。面構えが違う)
「『炎の嵐』!」
──ゴォ!
炎が渦を巻きながらジリアンに襲いかかるが、彼女自身の身体が濡れてていたために発動が遅れた。その隙にジリアンは再び水を発生させて、木剣に纏わせている。
──ザシュッ!
水を纏った剣で、襲ってきた炎を切り裂く。そのまま彼女の方へ一気に走り抜けて。
──バキッ!
通り抜けざまに『的』を割った。
──ボッ、ボッ、ボボッ、ボッ!
その勢いのまま、周囲の生徒5人の『的』に『火球』を叩き込む。
(次は左の風魔法の人!)
「ちょこまかと!」
ここで割って入ってきたのは、モニカ嬢だった。
「『氷壁』!」
ジリアンの行く手に氷の壁が立ちふさがる。なかなかの魔法だったが、ジリアンにとっては障害物にもならない。
──ボォ!!
素早く発生させた炎で、あっという間に溶かしてしまった。
「もお! なんなのよ!」
叫びながら、モニカ嬢がジリアンに斬りかかってきた。拙い動きだ。簡単に避けることもできたが、侯爵の教え通りに受けた。
──ボコン!
二人の木剣が、間抜けな音を立てる。そのまま弾こうとしたが、それはできなかった。モニカ嬢が、ジリアンを睨みつけたから。
オニール男爵とそっくりな、あの瞳で。
「いっつもいっつも、あんたばっかり!」
──ジジッ。
一瞬、青い瞳に黒い陰が見えた。
(なに?)
──ブワッ!
その瞬間、背後から襲ってきた風魔法の気配に、はっと意識が戻った。中級の風魔法『疾風』だ。
ジリアンは、それを風魔法で相殺して。
──パンッ!
モニカ嬢の木剣を弾いて懐に飛び込む。
「え!?」
──バキッ!
驚くモニカ嬢を尻目に、手刀で『的』を割った。そのまま地面を蹴って、風魔法の使い手に向かっていく。
(彼女にかまっている暇なんかないわ)
Bチームがジリアンを待っているのだから。
(それにしても……)
ジリアンは、一つ息を吐いた。
(こういうことね)
ここに至るまで、ジリアンに攻撃を当てられた生徒はいない。何人かの生徒が攻撃してきたが、その全てがジリアンの風魔法で吹き飛ばされている。
(この程度の風魔法で飛ばせてしまえる程度の魔法しかないのね)
ジリアンは、ようやくアレンたちの言っていたことがわかった。
(ぜんぜん、レベルが違う)
『攻撃は避けるな。迂闊に動かされれば敵に狙われる。受けるか、弾き飛ばすかの二択だ』
侯爵の凄まじい攻撃を思い出す。彼の攻撃は、もっと重いし疾い。攻撃の属性を見極め、それに対応した魔法を繰り出さなければならない。単純な風魔法だけで弾き飛ばせたことなど、一度もなかった。
ジリアンは記憶の片隅に思いを馳せている間にも、『火球』で7人の『的』を壊して、3人の『的』を木剣で割った。
(私のお父様は、やっぱり最強なんだわ……!)
そして、その最強の魔法使いに認められた後継者こそが、ジリアンなのだ。
模擬戦闘は、約5分で決着がついた。
ジリアンが襲ってきたAチームのメンバーを全員倒すのにかかったのが4分。彼女がAチームの王攻めに加わってから決着までが約1分。
もちろん、勝ったのはBチームだった。
終了後のチェンバース教授の講評は、たったの一言だった。
「……次回から、ジリアン・マクリーンは見学だ」
これには、他の生徒も苦笑いするしかなかったのだった。
たった一人、モニカ・オニール嬢を除いて。
(あの陰は、何だったのかしら……?)
文字通り、剣と魔法を使って戦う者を指す。
その最初の使い手と言われているのが、シェリンガム王家だ。初代シェリンガム王がその技術を4つの家門に授けたのが、魔法騎士団の始まりと言い伝えられている。
「本当に教わりたいのか、ジリアン」
「はい、お父様」
ジリアンが10歳のときのことだ。
剣と魔法を教えて欲しいと、マクリーン侯爵に懇願した。
「扱えるに越したことはないが、扱えなかったとしても何も問題はない」
「私はお父様の後継者を目指します。当主になれば、いずれは魔法騎士団を率いることなりますよね?」
「そのとおりだが……」
戦争が終わったとはいえ、魔法騎士団がなくなるわけではない。規模を縮小しながらも存在し続けるはずだ。後継者を目指すならば、それを率いる魔法騎士にならなければならない。
しかし、侯爵は渋い顔だった。
「君は女の子だ」
「始祖のドーラ・マクリーンも女性でしょう?」
「今のままでも、十分魔法を使えている」
「新しい魔法は、攻撃魔法には向いていません」
新しい魔法とは、すなわち逆算の魔法。そこから生み出される結果は、自分の発想の域を超えることができない。自然現象の持つ神秘性が失われ、人智を超えた力を生み出すことは出来ないのだ。
「覚悟はあるのか?」
「覚悟?」
「戦う力を持つ、人を傷つける力を持つということは、君自身が傷つく可能性があるということだ」
「構いません。やらせてください!」
「……そうか」
ジリアンの決意が固いことがわかったのだろう。それ以上、侯爵がジリアンを止めることはなかった。
それ以降、侯爵が休暇に入る度に剣と魔法を教わった。
そして13歳になる頃には、『十分だろう』と侯爵のお墨付きをもらうことになったのだった。
* * *
「30分経過した。これより、模擬戦を開始する! はじめ!」
合図と同時に、まずAチームが動いた。予想通り、Aチームの王は炎魔法を得意とするアーロン・タッチェル。守備には土魔法を得意とするイライアス・ラトリッジを含む10名。
それ以外の生徒が、一斉にBチームに向かってきた。
「もう少し、もう少し……」
マークがAチームの動きを見ながら指示を出す。十分に引きつけてから、作戦を開始するのだ。
「今だ!」
「はい!」
合図で、風魔法が得意と言っていた女子生徒が魔法を発動。すると、Bチームのメンバーの身体が浮き上がった。
ジリアンを除いた全員が、だ。
「よろしくおねがいします!」
「こっちはこっちで頑張りますけど、急ぎで!」
「待ってます!」
口々にジリアンに声をかけたメンバーたちは、風に乗ってAチームの集団を飛び越えていった。さらに、その内の一人が土魔法を発動する。ジリアンも手伝って、土の壁を築き上げる。
結果、Bチームの王であるジリアン一人が、土の壁の中でAチームに囲まれることになった。
「すぐに負けることになっても、知らないんだから」
ジリアンが土壁の中で敵の多くを相手取っている間に、他のメンバーでAチームの王を攻めるという作戦だ。これなら、Aチームの王をめぐる攻防については、ほぼ同じ戦力同士の戦いとなる。
ただし、この作戦は『この状況でもジリアンが負けない』ということが大前提となっている。しかも、Bチームはこちらを片付けたジリアンが、Aチームの王攻めに合流することを期待しているのだ。
「まあ、やってみましょう」
剣を構える。
『構えと同時に、素早く敵の情報を把握しろ』
侯爵の指導は、いつも実践的だった。魔法を巧みに使うことよりも、勝つこと、負けないことを考えて戦うことを教えられたのだ。
(確かに、負ける気がしないわね)
敵の人数は49名。右手から炎魔法の気配。正面には、剣術の手練がいる。左手には風魔法の使い手がいるらしい。
(連携するつもりはなさそうね)
ならば、話は早い。
『敵が集団なら、手練から倒せ。素早さが命だ』
(まずは、中央の剣術の人!)
足に力をこめると同時に、風魔法を発動。ジリアンの身体の後ろで破裂した空気が、その身体を一気に押し出した。
──バキッ!
その生徒が反応する間もなかった。ジリアンの木剣が、彼の『的』を割る。
「はやっ……!」
(剣術の手練は潰した。次は右の炎魔法の人!)
右手には、今まさに炎魔法を発動しようとしている女子生徒がいた。ダイアナ・チェンバース嬢。チェンバース教授の直系の孫にあたる令嬢で、第四席。
──ジュワッ!
彼女の攻撃が放たれるよりも早く、ジリアンが水魔法を発動した。彼女の頭上に水の塊が発生する。
「はじけろ!」
ジリアンの声を合図に、それが弾け飛んだ。
「キャー!」
ダイアナ嬢の身体に大量の水がかかって、発動しかけていた炎が消える。同時に弾け飛んだ水滴が弾丸の速さで生徒たちを襲って、三人の『的』が壊れた。
しかし、ダイアナ嬢は怯まず、再び剣を構えた。
(さすがチェンバースの直系。面構えが違う)
「『炎の嵐』!」
──ゴォ!
炎が渦を巻きながらジリアンに襲いかかるが、彼女自身の身体が濡れてていたために発動が遅れた。その隙にジリアンは再び水を発生させて、木剣に纏わせている。
──ザシュッ!
水を纏った剣で、襲ってきた炎を切り裂く。そのまま彼女の方へ一気に走り抜けて。
──バキッ!
通り抜けざまに『的』を割った。
──ボッ、ボッ、ボボッ、ボッ!
その勢いのまま、周囲の生徒5人の『的』に『火球』を叩き込む。
(次は左の風魔法の人!)
「ちょこまかと!」
ここで割って入ってきたのは、モニカ嬢だった。
「『氷壁』!」
ジリアンの行く手に氷の壁が立ちふさがる。なかなかの魔法だったが、ジリアンにとっては障害物にもならない。
──ボォ!!
素早く発生させた炎で、あっという間に溶かしてしまった。
「もお! なんなのよ!」
叫びながら、モニカ嬢がジリアンに斬りかかってきた。拙い動きだ。簡単に避けることもできたが、侯爵の教え通りに受けた。
──ボコン!
二人の木剣が、間抜けな音を立てる。そのまま弾こうとしたが、それはできなかった。モニカ嬢が、ジリアンを睨みつけたから。
オニール男爵とそっくりな、あの瞳で。
「いっつもいっつも、あんたばっかり!」
──ジジッ。
一瞬、青い瞳に黒い陰が見えた。
(なに?)
──ブワッ!
その瞬間、背後から襲ってきた風魔法の気配に、はっと意識が戻った。中級の風魔法『疾風』だ。
ジリアンは、それを風魔法で相殺して。
──パンッ!
モニカ嬢の木剣を弾いて懐に飛び込む。
「え!?」
──バキッ!
驚くモニカ嬢を尻目に、手刀で『的』を割った。そのまま地面を蹴って、風魔法の使い手に向かっていく。
(彼女にかまっている暇なんかないわ)
Bチームがジリアンを待っているのだから。
(それにしても……)
ジリアンは、一つ息を吐いた。
(こういうことね)
ここに至るまで、ジリアンに攻撃を当てられた生徒はいない。何人かの生徒が攻撃してきたが、その全てがジリアンの風魔法で吹き飛ばされている。
(この程度の風魔法で飛ばせてしまえる程度の魔法しかないのね)
ジリアンは、ようやくアレンたちの言っていたことがわかった。
(ぜんぜん、レベルが違う)
『攻撃は避けるな。迂闊に動かされれば敵に狙われる。受けるか、弾き飛ばすかの二択だ』
侯爵の凄まじい攻撃を思い出す。彼の攻撃は、もっと重いし疾い。攻撃の属性を見極め、それに対応した魔法を繰り出さなければならない。単純な風魔法だけで弾き飛ばせたことなど、一度もなかった。
ジリアンは記憶の片隅に思いを馳せている間にも、『火球』で7人の『的』を壊して、3人の『的』を木剣で割った。
(私のお父様は、やっぱり最強なんだわ……!)
そして、その最強の魔法使いに認められた後継者こそが、ジリアンなのだ。
模擬戦闘は、約5分で決着がついた。
ジリアンが襲ってきたAチームのメンバーを全員倒すのにかかったのが4分。彼女がAチームの王攻めに加わってから決着までが約1分。
もちろん、勝ったのはBチームだった。
終了後のチェンバース教授の講評は、たったの一言だった。
「……次回から、ジリアン・マクリーンは見学だ」
これには、他の生徒も苦笑いするしかなかったのだった。
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