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第27部 仇敵
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小倉の街並みは、すっかり表情を変えてしまっていた。平日ですら、賑わっていた旦過市場やアーケード街には、もはや人の声など聴こえてこないだろう。響いてくる獣声は、彼岸と此岸の境に落とされた者達の、死ぬに死にきれない慚愧の念のようにすら感じられた。
運転席に座る達也が、ちらとドアガラスを一瞥すれば、リバーウォークと呼ばれる建物が見え、ようやく小倉に到着した実感が湧き、短く吐息をつく。小倉城へ続く鴎外橋を遠目で認め、紫川に掛かる勝山橋を越えた所で車を停め、助手席の浩太に尋ねる。
「左に曲がって高架下を通る道と、突き進んで駅前で曲がる道、どちらに行ったほうが良いと思う?」
小倉駅の光景はよく覚えている。
基地を脱出したあと、下関に向かう途中、歩行者デッキから多数の死者が降りてきた。中間のショッパーズモールの人数には及ばないかもしれないが、やはり危険は避けるべきだろう。
浩太は後部座席にいる祐介に言った。
「祐介、場所はどの辺りになるんだ?」
淀むことなく、祐介が返す。
「西日本展示場は分かりますよね。そのすぐ側に大きなホテル、ありますよね?」
「ビジネスホテルか?」
「いえ、歩行者デッキから直接いけます。そのホテルと隣接してる建物がそうです」
顎を抱えたあとで、浩太は合点がいったと短い声をあげる。
「ああ、確かにあったな。分かった、達也、ここを左に曲がって行こう」
手短に操作を済ませ、達也はアクセルを踏んだ。
右手に舟頭町の一画を覗くと、多くの死者が闊歩し、こちらを睨めば、両腕を突きだして歩み寄ってくる。糜爛した肉体から垂れ、路面で弾けた臓器は、潰瘍を連想させた。
さすがに、何度見ても慣れないとばかりに祐介が目を外す。
「植物だけだよ......こんな世界でも平和に暮らしているのは......踏みつけられても、そこから頑張って這い上がってきてる......」
不意に聴こえた阿里沙の低語に反応を返したのは、隣に座っていた祐介だ。当の本人は窓から外を眺めているままなので、無意識のうちに口に出しているのかもしれない。皹割れたリアガラスから入る隙間風が一層、寒く感じてしまうほど、冷たい口調だった。膝の上に座っていた加奈子も、きょとんとした表情で阿里沙を見上げていた。
車が高架下に入り、先の交差点を右に曲がれば、見えてきたのは小倉駅裏口のタクシー乗り場だ。やや入り組んだ道路ではあるが、車内の全員か目撃した景色は、想像を遥かに越えていた。
運転席に座る達也が、ちらとドアガラスを一瞥すれば、リバーウォークと呼ばれる建物が見え、ようやく小倉に到着した実感が湧き、短く吐息をつく。小倉城へ続く鴎外橋を遠目で認め、紫川に掛かる勝山橋を越えた所で車を停め、助手席の浩太に尋ねる。
「左に曲がって高架下を通る道と、突き進んで駅前で曲がる道、どちらに行ったほうが良いと思う?」
小倉駅の光景はよく覚えている。
基地を脱出したあと、下関に向かう途中、歩行者デッキから多数の死者が降りてきた。中間のショッパーズモールの人数には及ばないかもしれないが、やはり危険は避けるべきだろう。
浩太は後部座席にいる祐介に言った。
「祐介、場所はどの辺りになるんだ?」
淀むことなく、祐介が返す。
「西日本展示場は分かりますよね。そのすぐ側に大きなホテル、ありますよね?」
「ビジネスホテルか?」
「いえ、歩行者デッキから直接いけます。そのホテルと隣接してる建物がそうです」
顎を抱えたあとで、浩太は合点がいったと短い声をあげる。
「ああ、確かにあったな。分かった、達也、ここを左に曲がって行こう」
手短に操作を済ませ、達也はアクセルを踏んだ。
右手に舟頭町の一画を覗くと、多くの死者が闊歩し、こちらを睨めば、両腕を突きだして歩み寄ってくる。糜爛した肉体から垂れ、路面で弾けた臓器は、潰瘍を連想させた。
さすがに、何度見ても慣れないとばかりに祐介が目を外す。
「植物だけだよ......こんな世界でも平和に暮らしているのは......踏みつけられても、そこから頑張って這い上がってきてる......」
不意に聴こえた阿里沙の低語に反応を返したのは、隣に座っていた祐介だ。当の本人は窓から外を眺めているままなので、無意識のうちに口に出しているのかもしれない。皹割れたリアガラスから入る隙間風が一層、寒く感じてしまうほど、冷たい口調だった。膝の上に座っていた加奈子も、きょとんとした表情で阿里沙を見上げていた。
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