感染

saijya

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第7話

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浩太と真一は、他の隊員と同じく、ざわついた格納庫で新崎を待っていた。その間に、この警報ベルについての情報を集めようとしたが、どの隊員に聞いても知らないと首を振る。時刻を考えれば、当然だ。
 拡声器を片手に現れた新崎の姿が見えると、先程までのどよめきが、ぴたりと止み、みなが一斉に列を作り耳を傾けた。一瞬で作られた静謐な空間に向けて、新崎が拡声器を構えた。

「今は一刻の猶予も惜しい!一度しか言わないからよく聞いてくれ!」

 新崎が駐屯地の責任者になって三年、これほど余裕のない姿を見たのは初めてだった。必死の形相から察すれば、事態がどれほど緊迫しているのか伝わってくる。

「昨日の事故により漏洩した薬品が原因と思われる感染者が現れた!それに伴い、銃の使用許可も出ている!速やかに武器、弾薬を荷台に積み込み、事態の鎮圧にあたってくれ!」

 そう残すと、新崎は下澤に拡声器を渡し、早足で格納庫から飛び出した。指揮権を委任された下澤は、新崎の言葉通りに命令を下した。武器の積み込みだ。ざわつきながらも、訓練で行われるこの行為に、さほど時間は必要ない。わずか数十分で全ての車両の荷台に銃火器の準備が整う。
 あとは、下澤からの号令を待つのみだ。
 再び整列した隊員を見回した下澤が、大きく息を吸い込んだ時、唐突に基地内から格納庫に繋がる扉が乱暴に開かれた。肩で息をしながら飛び込んできた男に、数百人の視線が集まる。昨日、浩太と話しをしていた門番だ。

「た……大変です!感染者と思われる集団が、こちらに押し寄せてきています!」

 下澤は、固く閉ざされた門を振り返り、我が目を疑った。
 自衛官を遥かに上回る人数の暴徒が、門の前にひしめき合っている。先頭にいる集団に至っては、背後からの圧迫により鉄柵へ顔面が押し付けられ、今にも柵を突き破ってしまいそうだ。声が重なりすぎている為か、呻き声にしか聞こえないと思った浩太だが、それは違う。呻いているだけだ。
 正気の沙汰ではない。

「な……なんだよ、あれ……」

 酷く軋みをあげていた鉄柵は、浩太の呟きと共に、轟音をたてながら破られた。
 最前列にいた数十人は、その勢いに押されて後続を巻き込む形で倒れる。縺れたように蠢く集団の中、女性が一人立ち上がった。

「一人立ち上がったぜ……こっちに来るつもり……」

 真一が言い終える前に、こちらに気付いた女性が一目散に駆け出してきた。武装した自衛官に、なんの恐れもみせずに向かってくる様には、浩太を始め、多数の動揺の声が上がった。

「下澤さん!どうしますか!」

 浩太が射撃の確認をとるが、姿や形は遠目でみても一般人となんら変わらない。どうにも下澤は判断しかねているようだ。
    その迷いを断ち切るような乾いた銃声が格納庫内に反響した。
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