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第6話
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今日の仮眠室は基地内にある会議室だ。浩太は、食事をする気分にはならなかったが、強引に水で胃へ流し込んでいった。明日からの激務に備える為だ。
真一はろくに食事も摂らずに会議室へ直行してしまった。今頃は横になっていることだろう。
米が喉を抜ける感触が妙に生々しく感じる。
「おう、ここにいたのか」
食堂の入口にいたのは達也だった。右手に持っていた灰皿を机に置き、正面に座った。
「一服つけよ、落ち着くぜ」
箱を揺らし飛び出た一本を浩太は抜き取り、達也が続け様にライターを点けた。まるで、手際の良いホストのようだ。
「明日も朝からか?大変だねえ、現地組の奴等はさ」
「そう思うなら代わってくれよ」
達也は、大袈裟に両肩を上げる。そして、誤魔化すようにリモコンへ手を伸ばし、テレビを点けた。やはり、時刻が二十二時を回っているだけあり、ニュース番組が中心となっていた。どの局も今回の墜落事故の話題で持ち切りになっており、どこも似たような内容とカメラワークで撮影されている。
「まだ中には入れねぇんだな」
「現地見てみるか?理由が分かる」
遠慮しとく、と苦笑した達也が居心地の悪さにテレビを消そうとした時、画面に映る女性レポーターが目を剥いて、山中を指で示し叫んだ。
「え?あれ、あの影……ちょっとカメラさん、あれ!誰か降りてきてる!ふらついてるし、生存者かもしれない!救護班の人も急いで呼んできて!早く!」
「はあ?」
浩太は思わず頓狂な声をあげてしまった。あの現場を一度でも目にしたなら、はっきり言って生存者など有り得ないと断言できる。だが、今、レポーターはなんと言った。浩太の耳や眼が飾りではないのなら、確かに、生存者がいると指差したのだ。
カメラマンを始めとしたクルー達の慌ただしい足音が聴こえると、画面が絵本の一ページのような穏やかなものに変更される。
煙草を吸うのも忘れて、灰をテーブルに落としたことも気付かずに、テレビへ釘付けになっている浩太に達也が言った。
「良かったな、生存者がいたんだってよ」
浩太は首を振る。
「そんな訳ねえだろ?俺達は確かに……」
「衝撃で吹き飛ばされた奴が生きてたんじゃねえのか?まあ、奇跡の生還ってやつか。これじゃあ、職務怠慢になっちまうな?」
茶化す達也を無視し、浩太は未だに双眸を代り映えのないテレビの画面から外せずにいた。固まった表情は信じたくないと訴えてきているようだ。
達也が軽く息を吐いて続ける。
「浩太よお、確かに俺は現場を見ちゃいねえが、生存者がいたんだぞ?ここは素直に喜んで、気持ちよく寝ることのほうが重要だろ。事の真相は明日にでも聞きゃ解決する」
「けどよ……」
「ほら、今日は疲れてんだよ。さて、寝ようや。あの内容があった以上、明日は今日よりも忙しくなるだろうしな」
リモコンで平和な画面を消した達也に促されるまま、浩太は会議室で横になった。隣では真一が鼾をかいている。心の霞みが消えた訳ではないが、疲労のピークに達していた浩太は、やがて静かに目を閉じた。
※※※ ※※※
突然鳴り響いた警戒ベルによって叩き起こされ、目覚めは最悪だった。時計を見上げれば、朝方の四時三十分、行動開始まで、まだ充分な時間があるはずなのだが、基地全体けたたましく異常を知らせるベルは次第に大きくなっていく。
「何?なんの音?」
瞼がまだ半分塞がったまま、のそりと起き上がった真一は、周囲の慌ただしさに、意識が一気に覚醒した。
「なんだ!浩太、これは一体……!」
真一の声に被せるように、浩太が叫ぶ。
「わからん!俺も今起きたとこだ!」
ベルの音に混じり、息も絶え絶えといった様子の新崎の声がマイクを通して基地全体へ流れ出し、会議室にいた全員が動きを止める。
「全員起床!急ぎ第一格納庫へ集合!繰り返す格納庫に集合だ!急げ!」
真一はろくに食事も摂らずに会議室へ直行してしまった。今頃は横になっていることだろう。
米が喉を抜ける感触が妙に生々しく感じる。
「おう、ここにいたのか」
食堂の入口にいたのは達也だった。右手に持っていた灰皿を机に置き、正面に座った。
「一服つけよ、落ち着くぜ」
箱を揺らし飛び出た一本を浩太は抜き取り、達也が続け様にライターを点けた。まるで、手際の良いホストのようだ。
「明日も朝からか?大変だねえ、現地組の奴等はさ」
「そう思うなら代わってくれよ」
達也は、大袈裟に両肩を上げる。そして、誤魔化すようにリモコンへ手を伸ばし、テレビを点けた。やはり、時刻が二十二時を回っているだけあり、ニュース番組が中心となっていた。どの局も今回の墜落事故の話題で持ち切りになっており、どこも似たような内容とカメラワークで撮影されている。
「まだ中には入れねぇんだな」
「現地見てみるか?理由が分かる」
遠慮しとく、と苦笑した達也が居心地の悪さにテレビを消そうとした時、画面に映る女性レポーターが目を剥いて、山中を指で示し叫んだ。
「え?あれ、あの影……ちょっとカメラさん、あれ!誰か降りてきてる!ふらついてるし、生存者かもしれない!救護班の人も急いで呼んできて!早く!」
「はあ?」
浩太は思わず頓狂な声をあげてしまった。あの現場を一度でも目にしたなら、はっきり言って生存者など有り得ないと断言できる。だが、今、レポーターはなんと言った。浩太の耳や眼が飾りではないのなら、確かに、生存者がいると指差したのだ。
カメラマンを始めとしたクルー達の慌ただしい足音が聴こえると、画面が絵本の一ページのような穏やかなものに変更される。
煙草を吸うのも忘れて、灰をテーブルに落としたことも気付かずに、テレビへ釘付けになっている浩太に達也が言った。
「良かったな、生存者がいたんだってよ」
浩太は首を振る。
「そんな訳ねえだろ?俺達は確かに……」
「衝撃で吹き飛ばされた奴が生きてたんじゃねえのか?まあ、奇跡の生還ってやつか。これじゃあ、職務怠慢になっちまうな?」
茶化す達也を無視し、浩太は未だに双眸を代り映えのないテレビの画面から外せずにいた。固まった表情は信じたくないと訴えてきているようだ。
達也が軽く息を吐いて続ける。
「浩太よお、確かに俺は現場を見ちゃいねえが、生存者がいたんだぞ?ここは素直に喜んで、気持ちよく寝ることのほうが重要だろ。事の真相は明日にでも聞きゃ解決する」
「けどよ……」
「ほら、今日は疲れてんだよ。さて、寝ようや。あの内容があった以上、明日は今日よりも忙しくなるだろうしな」
リモコンで平和な画面を消した達也に促されるまま、浩太は会議室で横になった。隣では真一が鼾をかいている。心の霞みが消えた訳ではないが、疲労のピークに達していた浩太は、やがて静かに目を閉じた。
※※※ ※※※
突然鳴り響いた警戒ベルによって叩き起こされ、目覚めは最悪だった。時計を見上げれば、朝方の四時三十分、行動開始まで、まだ充分な時間があるはずなのだが、基地全体けたたましく異常を知らせるベルは次第に大きくなっていく。
「何?なんの音?」
瞼がまだ半分塞がったまま、のそりと起き上がった真一は、周囲の慌ただしさに、意識が一気に覚醒した。
「なんだ!浩太、これは一体……!」
真一の声に被せるように、浩太が叫ぶ。
「わからん!俺も今起きたとこだ!」
ベルの音に混じり、息も絶え絶えといった様子の新崎の声がマイクを通して基地全体へ流れ出し、会議室にいた全員が動きを止める。
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