感染

宇宙人

文字の大きさ
上 下
7 / 419

第6話

しおりを挟む
今日の仮眠室は基地内にある会議室だ。浩太は、食事をする気分にはならなかったが、強引に水で胃へ流し込んでいった。明日からの激務に備える為だ。
 真一はろくに食事も摂らずに会議室へ直行してしまった。今頃は横になっていることだろう。
 米が喉を抜ける感触が妙に生々しく感じる。

「おう、ここにいたのか」

 食堂の入口にいたのは達也だった。右手に持っていた灰皿を机に置き、正面に座った。

「一服つけよ、落ち着くぜ」

 箱を揺らし飛び出た一本を浩太は抜き取り、達也が続け様にライターを点けた。まるで、手際の良いホストのようだ。

「明日も朝からか?大変だねえ、現地組の奴等はさ」

「そう思うなら代わってくれよ」

 達也は、大袈裟に両肩を上げる。そして、誤魔化すようにリモコンへ手を伸ばし、テレビを点けた。やはり、時刻が二十二時を回っているだけあり、ニュース番組が中心となっていた。どの局も今回の墜落事故の話題で持ち切りになっており、どこも似たような内容とカメラワークで撮影されている。

「まだ中には入れねぇんだな」

「現地見てみるか?理由が分かる」

 遠慮しとく、と苦笑した達也が居心地の悪さにテレビを消そうとした時、画面に映る女性レポーターが目を剥いて、山中を指で示し叫んだ。

「え?あれ、あの影……ちょっとカメラさん、あれ!誰か降りてきてる!ふらついてるし、生存者かもしれない!救護班の人も急いで呼んできて!早く!」

「はあ?」

 浩太は思わず頓狂な声をあげてしまった。あの現場を一度でも目にしたなら、はっきり言って生存者など有り得ないと断言できる。だが、今、レポーターはなんと言った。浩太の耳や眼が飾りではないのなら、確かに、生存者がいると指差したのだ。
 カメラマンを始めとしたクルー達の慌ただしい足音が聴こえると、画面が絵本の一ページのような穏やかなものに変更される。
 煙草を吸うのも忘れて、灰をテーブルに落としたことも気付かずに、テレビへ釘付けになっている浩太に達也が言った。

「良かったな、生存者がいたんだってよ」

浩太は首を振る。

「そんな訳ねえだろ?俺達は確かに……」

「衝撃で吹き飛ばされた奴が生きてたんじゃねえのか?まあ、奇跡の生還ってやつか。これじゃあ、職務怠慢になっちまうな?」

 茶化す達也を無視し、浩太は未だに双眸を代り映えのないテレビの画面から外せずにいた。固まった表情は信じたくないと訴えてきているようだ。
   達也が軽く息を吐いて続ける。

「浩太よお、確かに俺は現場を見ちゃいねえが、生存者がいたんだぞ?ここは素直に喜んで、気持ちよく寝ることのほうが重要だろ。事の真相は明日にでも聞きゃ解決する」 

「けどよ……」

「ほら、今日は疲れてんだよ。さて、寝ようや。あの内容があった以上、明日は今日よりも忙しくなるだろうしな」

 リモコンで平和な画面を消した達也に促されるまま、浩太は会議室で横になった。隣では真一が鼾をかいている。心の霞みが消えた訳ではないが、疲労のピークに達していた浩太は、やがて静かに目を閉じた。

※※※    ※※※

 突然鳴り響いた警戒ベルによって叩き起こされ、目覚めは最悪だった。時計を見上げれば、朝方の四時三十分、行動開始まで、まだ充分な時間があるはずなのだが、基地全体けたたましく異常を知らせるベルは次第に大きくなっていく。

「何?なんの音?」

 瞼がまだ半分塞がったまま、のそりと起き上がった真一は、周囲の慌ただしさに、意識が一気に覚醒した。 

「なんだ!浩太、これは一体……!」

真一の声に被せるように、浩太が叫ぶ。

「わからん!俺も今起きたとこだ!」

 ベルの音に混じり、息も絶え絶えといった様子の新崎の声がマイクを通して基地全体へ流れ出し、会議室にいた全員が動きを止める。

「全員起床!急ぎ第一格納庫へ集合!繰り返す格納庫に集合だ!急げ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...