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第8話
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まだ、発砲の許可は下りていない。何者かが、89式小銃の5.56ミリ弾を一般人に威嚇無しで撃ち込んだのだ。着弾の証として、女性は足から胸にかけて鮮やかな朱色を散らせ、支えをなくしたかのように、前のめりに倒れた。
浩太は、銃の持ち主を反射的に探し、薄く硝煙をあげる銃口と、それを持つ門番の男を発見し、背中から引き倒すと、流れのままに両肩を押さえ付け銃を奪い、すかさず真一が受け取った。
「お前!どういうつもりだよ!なにしたか分かってんのか!なんで撃った!」
浩太の詰問に、男は半ば狂ったように叫喚した。
「奴を!奴を見て下さい岡島さん!」
浩太は、言われるがままに顔を上げて、目を剥いた。実弾を身体に撃ちこまれた女性が、蛇のように鎌首をあげて立ち上がろうとしていたからだ。
銃弾を胸に数発受けているのは間違いない。現に女性の胸元は真っ赤に染まっている。加えて、左足は機能が麻痺するほどのダメージを与えられているにも関わらず、女性は悶えながらも、確かに両足で立ち上がり、平然と走り出した。
「嘘だろ……?」
浩太の細い声は、門番の男によってかきけされる。
「岡島さん!早く、早く撃って!早く!」
あまりのおぞましさに戦慄する浩太は、身体が固まって動かなくなっていた。当たり前だが、構うことなく女性は距離を縮めてくる。
「岡島さん!離して!離せえ!」
死に物狂いに暴れた男が、ようやく浩太の拘束から逃れ、中腰の態勢になり、銃を取り返すべく真一を睨め付けたが、既に手遅れだった。勢いを乗せた突進は男を地面へ突飛ばし、すかさず女性が股がる。
次の瞬間、浩太は信じ難い光景を目の当たりにした。
男の頬に噛み付き、力任せに引きちぎると、あろうことか噛み切った肉を咀嚼した。激痛にもがく男の上唇と鼻を続け様に囓りとり、数回、口の中で転がし嚥下する。
「あああああ!岡島さん!助けてぇぇぇぇ!おかじまさあああああん!」
浩太へ伸ばされた右手の指は、人差し指から薬指までを一口で奪われた。
ああ、これはあれだ、カニバリズムとかいう道徳的に問題視されてるやつだ。
映画で見たことがある。あれは、なんて映画だったか。
浩太の意識を戻したのは、銃声だった。
「おい!浩太!しっかりしやがれ!呆けてる場合じゃないぜ!」
真一の小銃が撃ちだした弾丸は女性の肩を貫いたが、ほんの僅かに身じろいだだけで、食事を続けている。真一の背中を冷たい汗が伝う。
「う……うわぁぁぁぁぁ!」
マガジンが空になるほどの銃撃の内、数発が頭部を破壊すると、不死身なのかと思えていた女性は、糸が切れたかのようにピクリともしなくなった。
浩太が組み伏せられていた男の様子を確認しようとしたが、出来なかった。顔の下半分の皮膚は女性の胃袋の中に収まってしまっている。鼻があった場所は、ぽっかりと空洞になっていた。見なくても理解できた。既に死んでいる。
浩太は、ゆっくりとした動静で、立ち上がりつつある暴徒の集団へ視線を向け叫んだ。
「一体、何がどうなってんだよ!クソッタレ!」
今度は一人ではない。地響きでも聞こえてきそうな足音をたてながら集団が駆け出してきた。その数は、最初に門に集っていた人数より膨れ上がっている。そして、格納庫内でも悲鳴があがった。
振り返った浩太の目に映ったのは、死んでいる筈の男が起き上がっているという訳の分からない事態だ。しかし、様子がおかしい。同期の坂島が男の肩に手を置いた、その時、門番の男が手の甲に噛み付き、頭を下げた坂島の口内へと手をいれ、強引に舌を引き抜くと、そのまま首に噛みつき、坂島の捕食を開始した。
格納庫に坂島の金切り声が木霊し、それが次第に小さくなり、聞こえなくなると、鬼気迫る顔つきで下澤が叫んだ。
「じ……乗車!乗車あああああ!」
浩太は、銃の持ち主を反射的に探し、薄く硝煙をあげる銃口と、それを持つ門番の男を発見し、背中から引き倒すと、流れのままに両肩を押さえ付け銃を奪い、すかさず真一が受け取った。
「お前!どういうつもりだよ!なにしたか分かってんのか!なんで撃った!」
浩太の詰問に、男は半ば狂ったように叫喚した。
「奴を!奴を見て下さい岡島さん!」
浩太は、言われるがままに顔を上げて、目を剥いた。実弾を身体に撃ちこまれた女性が、蛇のように鎌首をあげて立ち上がろうとしていたからだ。
銃弾を胸に数発受けているのは間違いない。現に女性の胸元は真っ赤に染まっている。加えて、左足は機能が麻痺するほどのダメージを与えられているにも関わらず、女性は悶えながらも、確かに両足で立ち上がり、平然と走り出した。
「嘘だろ……?」
浩太の細い声は、門番の男によってかきけされる。
「岡島さん!早く、早く撃って!早く!」
あまりのおぞましさに戦慄する浩太は、身体が固まって動かなくなっていた。当たり前だが、構うことなく女性は距離を縮めてくる。
「岡島さん!離して!離せえ!」
死に物狂いに暴れた男が、ようやく浩太の拘束から逃れ、中腰の態勢になり、銃を取り返すべく真一を睨め付けたが、既に手遅れだった。勢いを乗せた突進は男を地面へ突飛ばし、すかさず女性が股がる。
次の瞬間、浩太は信じ難い光景を目の当たりにした。
男の頬に噛み付き、力任せに引きちぎると、あろうことか噛み切った肉を咀嚼した。激痛にもがく男の上唇と鼻を続け様に囓りとり、数回、口の中で転がし嚥下する。
「あああああ!岡島さん!助けてぇぇぇぇ!おかじまさあああああん!」
浩太へ伸ばされた右手の指は、人差し指から薬指までを一口で奪われた。
ああ、これはあれだ、カニバリズムとかいう道徳的に問題視されてるやつだ。
映画で見たことがある。あれは、なんて映画だったか。
浩太の意識を戻したのは、銃声だった。
「おい!浩太!しっかりしやがれ!呆けてる場合じゃないぜ!」
真一の小銃が撃ちだした弾丸は女性の肩を貫いたが、ほんの僅かに身じろいだだけで、食事を続けている。真一の背中を冷たい汗が伝う。
「う……うわぁぁぁぁぁ!」
マガジンが空になるほどの銃撃の内、数発が頭部を破壊すると、不死身なのかと思えていた女性は、糸が切れたかのようにピクリともしなくなった。
浩太が組み伏せられていた男の様子を確認しようとしたが、出来なかった。顔の下半分の皮膚は女性の胃袋の中に収まってしまっている。鼻があった場所は、ぽっかりと空洞になっていた。見なくても理解できた。既に死んでいる。
浩太は、ゆっくりとした動静で、立ち上がりつつある暴徒の集団へ視線を向け叫んだ。
「一体、何がどうなってんだよ!クソッタレ!」
今度は一人ではない。地響きでも聞こえてきそうな足音をたてながら集団が駆け出してきた。その数は、最初に門に集っていた人数より膨れ上がっている。そして、格納庫内でも悲鳴があがった。
振り返った浩太の目に映ったのは、死んでいる筈の男が起き上がっているという訳の分からない事態だ。しかし、様子がおかしい。同期の坂島が男の肩に手を置いた、その時、門番の男が手の甲に噛み付き、頭を下げた坂島の口内へと手をいれ、強引に舌を引き抜くと、そのまま首に噛みつき、坂島の捕食を開始した。
格納庫に坂島の金切り声が木霊し、それが次第に小さくなり、聞こえなくなると、鬼気迫る顔つきで下澤が叫んだ。
「じ……乗車!乗車あああああ!」
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