鍛冶師ですが何か!

泣き虫黒鬼

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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)

第弐百弐拾壱話 海賊船との戦闘に入りますが何か! その二

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「うん?俺か。 俺は津田驍廣、ただの鍛冶師だ。」

火球を斬り消した八咫を腰に戻し、口に銜えていた焔を外して答えた言葉に唖然としたのか硬直していた刀傷の巨漢は、徐々に体の硬直が解けて来たのかワナワナと体を震わせ出したかと思うと、

「た、ただの鍛冶師だと・・ふざけるなぁ! ソイツはわざわざ聖国から来た『司教ビショップ級』の魔術師なんだぞ、ソイツの魔法を小剣の一閃で消し飛ばすなんぞ鍛冶師風情に出来てたかるかぁ!!」

目を剥きだして唾を盛大に飛ばしながら大声を上げて来た。俺は、巨漢からの唾を避ける為に一歩だけ後方へ下がり、

「『出来てたまるかぁ」と言われても出来るものは出来るんだから仕方にだろ。それに、この程度の事くらい出来る奴を何人も知ってるぞ、俺は・・・アルバートとか、リヒャルトとかぁ、・・・」

と指を折り曲げながら数えると即座に巨漢は再び唾を飛ばしながら、

「馬鹿野郎! そりゃ、リンドブルグ街の領主や闇血鬼ダークエルフおさじゃねぇか!!」

目を吊り上げて怒鳴りつけて来た。そんな巨漢の元に負けず劣らずの体躯をした坊主頭の魚人族が駆け寄って来て、

「船長! そんな下らない事を言い合ってる場合じゃねぇ!!」

そう言いながら左舷船腹を指差すと、そこには今まさに海賊船に船を接舷させて飛び移ろうと身構えるモービィ以下海兵たちと、瞳はギラギラと輝かせ、まばたきもせずに俺を見つめるファレナの姿があった。
俺はそのファレナの視線に既視感を感じ思わずため息を吐いた。

「おいおい、アルバートやヒルダが特別って訳じゃなく竜人族の街を仕切ろうって御仁は揃いも揃って武闘好きなのか?」

つい口をついて出た呟きだったが、その愚痴を聞く者は頭の上で寝ているフウだけで、誰の耳にも届くことなく海の風にさらわれていった。

『ズン・・ギシギシギシ』

海賊船の甲板にめり込んだ錨の綱を乗員数人がかりで手繰り寄せ、鈍い衝突音と軋む音を響かせながら帆船は海賊船に接舷し、即座に帆船に乗っていた海兵たちはそれぞれ得物を手に次々と海賊船へと飛び乗ってくる中、本来は指揮を執るべき立場にある筈のモービィまでもが海賊船へと飛び移り、騒ぎを聞きつけて甲板後方から押っ取り刀で駆け寄ってくる海賊に切先の折れた朴刀を振り回し海へ薙ぎ払いニヤリと猛獣の笑みを浮かべて刀傷の巨漢(海賊船の船長)を見据えた。

「ふん! トゥバラの船では無かったか。まあ良い、一隻づつ潰してゆけば良いだけの事じゃからな。」

猛獣のような笑みをより深くしながら挑発するような言葉を口にするモービィに対して刀傷の巨漢も同じような猛獣の笑みを浮かべ、

首領ドントゥバラが貴様如きの相手にお出ましになる訳がないわ! 得物を破壊されてもまだその様な大口を叩くか、身の程を知れぇ!!」

挑発を返し、睨み合いに入った。そんな二人の周りでは海賊と海兵が入り乱れ乱戦状態になっていた。そんな中、呉鉤や牙狼棒(棘付きの錘)を手に襲い掛かる海賊たちを群がるハエを払うが如く羽飾りのついた扇で打ち払い、俺の元に一直線に歩み寄るファレナ。
そして、その後ろを顔色を青くしながらも必死に形相でついてくるドーファンが・・・。

「ファレナ様! 『切り込み』には参加しないとポリティス様とお約束した筈です!!お忘れになられたのですか!?」

と大声で呼び掛けるとファレナは軽く舌打ちをしたものの表情には表さず何事も無いかのように平然と、

「ポリティスとの約束は違えては居ませんよ。私は海賊船に飛び乗ってしまった津田殿を連れ戻しに来ただけですから。
そんな下らない事を言っていないで、そこに打ち倒されている者の身柄を確保したらどうなのですか? 早くしないとモービィが暴れだして巻き添えになり、貴重な情報源を失う事になりますよ。」

と、俺の足元で未だに気絶しピクピクと痙攣している純白ローブを指差し、ドーファンに捕縛しておくように伝えるとその視線を俺に向けて嬉しそうに笑みを浮かべ、

「津田殿。ギルドでの貴殿の言を疑った私を許し下さい。まさか、魔術によって生み出された火球をただの一太刀にて消滅せしめるほどの腕をお持ちとは。
しかも、魔術による火球を消し去るなど貴殿にとっては雑作も無きご様子。是非とも一手御指南いただきたく・・・」

と、場違いな事を言い出し、しかも拱手までしてくるファレナに俺は呆れ、足元に伏している純白ローブに猿轡を噛ませて魔術の詠唱が出来ないようにした上で縛り上げ、ヒョイと担ぎ上げるドーファンに場違いな事をしている領主ファレナをどうにかしてくれと視線を送った。
その俺の視線にドーファンは心の底から面倒臭くて嫌だと言うような苦々しい表情を浮かべた上で、

「ファレナ様、魔術師の捕縛は終了、私は帆船に戻ります。・・・そうそう、一言ご忠告申し上げておきますと、あまり無理を仰いますと折角手に入れられそうになっている物まで逃す事になります。手に入れたいとお思いなら押すだけでは無く、時には引く事も寛容と心得ます。ではお先に・・・」

とだけ告げて、さっさと接舷している帆船へと戻って行くドーファン。そんなドーファンに俺はそんな一言じゃファレナが引き下がる訳がないと思ったのだが、

「なっ!ドーファ・・・ 津田殿!あまりに興奮してしまい時と場所を弁えぬ行動だった。今の事忘れてくれ!それでだ、津田殿はモービィの武威を確認したくてわざわざ海にまでの乗り出して来たのだったな。ならば、この場でのモービィをじっくりと見ると良いだろう♪」

と言うと拱手を止めていそいそと俺の隣に立つと扇を広げるとたおやかに扇ぎながら余裕のある笑みを浮かべ、睨み合うモービィと刀傷の巨漢へ視線を向けた。
そんなファレナに促される様に俺がモービィへと視線を動かした途端、

「覇ァぁぁぁぁ!」

「ゥルゥワァァァァ!!」

まるでそれが合図だったかのように両者から雄叫びが上がった。


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