鍛冶師ですが何か!

泣き虫黒鬼

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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)

第弐百弐拾弐話 海賊船との戦闘に入りますが何か! その三

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「覇ァぁぁぁぁ!」

「ゥルゥワァァァァ!!」

俺が視線を向けたのを合図にしたかのように、それまで睨み合っていたモーヴィと刀傷の巨漢が構えていた朴刀と鋸歯刀を振り上げ打ちかかった。
両手で振るう朴刀と片手で扱う鋸歯刀では朴刀に軍配が上がるかと思いきや、刀傷男の振るう鋸歯刀はモーヴィの振るう朴刀を見事に受け止めた。
だが、一瞬拮抗したかに見えた鋸歯刀は直ぐに朴刀に込められる力に押されるのを嫌ったのか、柳の如く朴刀の力を受け流し、もう片方の手に握られる鋸歯刀がモーヴィに襲い掛かって来た。
朴刀に力を籠めようとした矢先に閂を外すように力を受け流されたモーヴィは、一瞬踏鞴を踏む様に体勢を崩しかけたが、直ぐに建て直し襲い来る鋸歯刀を体を投げ出すようにして甲板の上へと身をかがめ寸でのところで躱す、転がる様にして間合いを取って素早く立ち上がり、刀傷男の追撃に対応しようと身構えたが、刀傷男は両の手に持った鋸歯刀を玩ぶようにクルクルと回し、モーヴィをあざ笑うかのように口角を上げて見据えていた。

「小僧、何故手を止めた?」

鋸歯刀を玩ぶ刀傷男を睨み付け問うモーヴィ。

「何故? 
頭領ドントゥバラに切先を叩き折られた、得物朴刀を後生大事に抱えて、海にしゃしゃり出てくる耄碌ジジイに、身の程というものを分かって貰おうって優しい心遣いだろうが。
老いさらばえたにも拘らず、やらかした『年寄りの冷や水』を反省するが良い。あの世とやらへ送り届けてやろう!」

と、捨て台詞と共に玩んでいた鋸歯刀を握り直すとモーヴィに襲い掛かってくる刀傷男に対し、

「耄碌ジジイ・・・。あの世に送り届ける、じゃと・・この鼻垂れ小僧が!百年早いわ!!」

怒りを孕んだ雄叫びを上げたかと思うと、相撲の四股をを踏む様に片足を上げて甲板にめり込ませようとするかのように強く踏みしめたモーヴィは歩幅を大きく広げてドッシリと重心を落とすと、自身に向かって来る鋸歯刀に目掛けて朴刀を打ち付けた。
刀傷男は引導を渡そうと振るった鋸歯刀に振るわれた朴刀に虚を突かれたのか、受け流そうとしなかった。寧ろ、打ち付けられた朴刀を跳ね返そうとしたのか、鋸歯刀を握る手に力を込めたかに見えた。一瞬の均衡…だが即座に崩れ、朴刀によって鋸歯刀は打ち返され、鋸歯刀の刀身はモーヴィが朴刀に込めた強力によって打ち砕かれキラキラと光る破片を散らばらせ、刀傷男は驚愕の表情を浮かべて砕かれた鋸歯刀の柄を握ったまま後方へと吹き飛ばされた。
 同時に、モーヴィの持つ朴刀の刀身全体にビッシリと罅が入り、次に一合でも刃を合わせれば砕け落ちてしまう様な状態になった。
だが、モーヴィは構えを解かず憤怒の表情を浮かべて立ち上がってくる刀傷男を睨み付けていた。
そんなモーヴィの視線の先で、甲板の上に背をつけていた刀傷男は柄だけの無残な姿と変わり果てた鋸歯刀を握る手を高く掲げたかと思うと、

「ウッガァァー! この老い耄れがぁ、よくもやってくれたなぁ!!」

叫んだかと思うと、砕かれた鋸歯刀を投げ捨てると勢いよく跳ね起き、目を大きく見開いた怒りの表情でモーヴィを射殺すように睨み付けた。

「フン! 怖じ気づくことなく立ち上がってくるとは・・一応、名を聞いておこうかのぉ」

跳ね起き睨み付けて来る刀傷男に対してモーヴィは鼻で笑い問いかける。

「名だと・・良いだろう。冥途の土産だぁ、特別に教えてやる。頭領ドントゥラバ一の子分、鋸歯刀きょしとうのムベンガとは俺の事だぁ!」

名乗りを上げるのと同時に、残された鋸歯刀を高々と振り上げモーヴィへ襲い掛かった。が、その動きは初めてモーヴィと対峙した時のような鋭敏さは何処かへ消え去り、完全に頭に血が上ってしまっている、ただ勢いに任せの行動のように見えた。
刀傷男ムベンガは高らかに名乗ったその勢いのままに高々と跳躍し、モーヴィに向かって大上段から鋸歯刀を振り降ろしたのだから。
 身動きの取れない相手に最後の一撃として、相手に恐怖を与える目的も加味して行うならともかく、まだ自由に動け刀身が砕けたとはいえ三尺(90㎝)ほどの朴刀の柄を手にしているモーヴィ対しての攻撃としては御粗末としか言いようのない物だった。
何故なら、一度宙に飛び上がってしまえば俺やバトレルさん、それにレアンなどの例外を除き、宙に浮いたままでは自由に動く事は出来ないのだから。
そして、刀傷男ムベンガは『例外』の一人では無かった。例えそれが怒涛の勢いだったとしても真っ直ぐ自分に向かって落ちてくる敵に対し、モーヴィが安穏と待っている筈が無い。
自分に向かって振り降ろそうとしている鋸歯刀と共に刀傷男を、モーヴィは柄だけとなった朴刀で横真一文字に振り抜いた。
朴刀の柄は鋸歯刀の剣腹を捉え、振り降ろしと横真一文字の力がモロに掛かった鋸歯刀はその力に耐えきれず呆気なく砕け散った。勿論、柄だけとなった朴刀も同じように砕けたが、モーヴィにとっては想定の範囲。しかし、刀傷男は必殺の気合を込めた一振りが、その目的を果たす直前に目の前で砕け散ってしまったのだから動揺しない訳がない。甲板に足がついた時には驚きの表情を浮かべ砕かれた鋸歯刀に目が奪われていた。
その間僅か数瞬。だが、戦いの場において勝敗を決するのには十分すぎる『間』だった。モーヴィは鋸歯刀を道連れに砕けた朴刀の柄を強く握りしめ、その拳を刀傷男の顔面へと叩きつけた。
モーヴィの拳は刀傷男の鼻を顔面中心にめり込ませ、刀傷男は甲板の上を転がり欄干に当たってようやく止まり、完全に披露目を剥いて四肢を弛緩させたのだった。


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