鍛冶師ですが何か!

泣き虫黒鬼

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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)

第弐百五拾弐話 乱が起こってしまいましたが何か! その参

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「朝早くから済まないなぁ、今朝護衛をしていた商隊が着いたものでな。悪いとは思ったのだが・・・」

「悪いだなんて、これも給料の内です。それにレヴィアタン街は商人の街、街に来る商隊の護衛をしてくれていた方は言うなればこの街の屋台骨を支えていただいている訳ですから、遠慮なく当ギルドをご利用下さい。
しかし、こんな早朝に到着とは昨夜は徹夜だったのではありませんか?通常では考えられない強行軍ですね。一体どちらからおいでになられたのですか?」

俺ー土門蔵人はニーズヘッグ街と天樹国の間で行われた『精竜の役』で、これまで以上の知己を得、その者達から様々な依頼を受けて東奔西走していた。
今回は、ダークエルフ氏族の郷・豊樹の郷からの依頼で、武具の拵えに必要な各種素材を仕入れる為にレヴィアタン街にやって来たのだが、当初の予定では親交の深いリンドブルム街で必要とする素材を入手する予定だったのだが、残念ながらリンドブルム街では先に起きた『魔獣騒動』と『精竜の役』で、多くの魔獣討伐者や冒険者、衛兵たちが多くの武具を破損させてしまい、リンドブルム街で武具の生産依頼が急増した。一時は、鍛冶師不足により大変な事態なるのではと思われたのだが、リンドブルム街在住の鍛冶師スミス・シュミートを始め、響鎚の郷から移り住んできたドワーフ氏族の鍛冶師により急場をしのぐことは出来た。ただ、そのおかげで豊樹の郷からの依頼で手に入れようとしていた拵えの為の素材が在庫切れを起こしていた。
仕方なく、リンドブルム街から更に足を延ばし多くの商品が集まるレヴィアタン街に向かう事になった。
それだけならば早朝に街に到着するなどという強行軍を取る必要は無かった。しかしその事を、リンドブルム街領主アルバートの下でまつりごとについて見聞を広めるため街に滞在していた豊樹の郷の族長の娘リシュラ殿が話を聞き付けて、何を思ってか俺達が護衛する商隊に同行を申し出て来たのだ。
正直、俺個人としてはお偉いさんの同行は遠慮したいところだが、商隊にとって見れば今回の依頼主である豊樹の郷の族長の娘からの申し出とあっては拒否出来る訳も無く、渋々ながらもリシュラ殿の同行を許可したようだ。
もっとも、リシュラ殿個人には護衛役として一人の屈強なドワーフ氏族の戦士がついていたおかげで、俺たちが商隊と共にリシュラ殿の護衛をも引き受けなければならないと言う事態にはならなかった。
道中、リンドブルム街を離れレヴィアタン街に近づくと数回魔獣の襲撃を受けたものの、襲撃自体は大した事は無く俺達が魔獣と対峙する前にリシュラ殿付き護衛である・・のドワーフ氏族の戦士が、巨大な両刃の斧を振り上げて魔獣へと突貫し、瞬く間に打ち倒してしまったおかげで、俺達の出番は無かったほどだった。
そんなドワーフ氏族の戦士の労をねぎらいつつ話しかけると彼は『ヤヌシュ』と名乗り、話をする中で彼の持つ両刃の斧刃俺達の武具と同じく津田驍廣殿の手による作だと語った。
そんなヤヌシュに俺達の武具も津田殿に鍛えて貰ったのだと話すと、彼は驚きつつも懐かしそうな表情を浮かべた。その後の道中では非常に打ち解け肝胆相照らしあう中となって行ったのだが、楽しそうに話をする俺たちとヤヌシュにリシュラ殿が臍を曲げてしまい、ヤヌシュが必死に宥めようとしたのだが一日も早くレヴィアタン街へ向かうと言うリシュラ殿の我儘(?)で、夜間での強行軍をする事となってしまった。
もっとも、一刻も早くレヴィアタン街に着きたいと言う商隊内での思惑とも合致したが為だったのだが・・・

その事を苦笑交じりに話して聞かせると、ギルド職員にはクスクスと笑い

「それは、きっとリシュラ様はヤヌシュ殿を土門さん達に取られるとでも思ったのでしょうね。殿方とのがたは女の子の心の機微が分からないから仕方ないのかもしれませんが・・・
分かりました。では、早急に手続きを進めさせていただきますね少々お待ちください。」

と少し俺を咎める様な目で見ながら可笑しそう笑い、俺はそんなギルド職員の言葉に苦笑し照れ隠しに頭を掻きながら、

「よ、よろしく頼む・・・」

そう返そうとした時、ギルドの扉が大きな音を立てて叩きつけるように開かれ

「皆、その場を動くなぁ!我らはレヴィアタン街衛兵団である。これよりレヴィアタン街ギルドは我ら衛兵団の指揮下に入る事となった。職員は全員業務を停止し我らの指示があるまで待機せよ。逆らう者は容赦なく罰する!!」

装飾がゴテゴテと施された豪奢な甲冑を纏った十人ほどの者達が、ガシャガシャと騒がしい音を立てながらギルドに乗り込んできて、勝手な事を喚きだした。
俺はその様子に『また面倒事が・・・』とため息を吐き、どうなる事やらと眉間に岩を寄せたのだが、

「お待たせいたしました。只今確認が取れました、レヴィアタン街にようこそ♪
それで、今回のお取引で必要とされている品物の内訳はございますか?ございましたら、それを元に職員がご案内いたしたいと思うのですが、如何でしょうか?」

と、衛兵団を名乗る男達の言葉を完全に無視し、俺への対応を続けるギルド職員に俺は唖然としてしまった。
普通、衛兵団を名乗る者が徒党を組み姿を現せば少しは狼狽する物だと思うのだが、俺の前で応対してくれているレヴィアタン街ギルドの女性職員にはその様な様子は微塵も感じられなかったからだ。
ただ、俺が抱いた感情が可笑しな訳ではない様で、乗り込んできた衛兵を名乗る男達も俺と同じ様にギルド職員の対応に言葉を失っていたのだが、直ぐに顔を真っ赤に染め怒りの表情を浮かべると、

「貴様ぁ! 業務を辞めろと言う命令が聞こえなかったのかぁ!?」

と、声を荒げ荒々しく足音を響かせながら、俺と俺の応対にあたる女性職員がいる窓口へと近づいてきた。そんな衛兵に対し女性職員は横目で近づいてくる衛兵をチラリと確認すると、俺に対して軽く頭を下げて

「申し訳ございません。少々お待ち下さい。」

と告げるとそれまで浮かべていた笑顔から一転、目を吊り上げ眉間に皺を寄せた怒りの表情を浮かべたかと思ったら、いきなり

「衛兵如きがギルド内に入って来てガタガタ騒ぐんじゃないよ!業務を停止しろだってぇ?寝言は寝てから言いなぁ!!」

と衛兵を怒鳴りつけたのだ。しかも、放たれた啖呵は堂に入ったもので、長年荒事を生業としてきた俺でさえ背筋を正してしまいそうになるほどの威圧が込められていた。
そんな女性職員の啖呵を真正面から浴びた衛兵は、あまりの迫力に縮み上がったのか直立不動で硬直していた。そんな衛兵に更に女性職員は言葉を続ける。

「此処レヴィアタン街が何の町だか分かってんのかい?商いを拠り所にして成り立っている街だよぉ。あんたら衛兵はこの街での商いが滞りなく行われる様に街の治安を守るのが勤めだろ。なのに今まさに商いを行おうとしているのを邪魔しようなんて何を考えてるんだい!
そんなんだから、街の皆に『無駄飯ぐらいの衛兵』と陰口を叩かれるようになるんだよ。分かったかい?分かったならさっさと出て行きなぁ!!」

彼女の口から出た言葉はお世辞にも綺麗とは言えないものだったが、このレヴィアタン街を担ていると言う気概が感じ取れるものだった。
もっとも、武装をし徒党を組んでやって来た輩に対して適切な言葉かどうかは疑問はあるものの・・・
案の定、女性職員に怒鳴り付けられた衛兵は彼女の言葉に、

「・・この阿婆擦れがぁ!」

暴言を吐きながら腰に下げていた柳葉刀を振りかざし、窓口越しに女性職員に襲い掛かって来た。この動きに、俺は女性職員は逃げるものと思ったのだが、彼女は衛兵を睨み付け一歩も引こうとせず、それまで腰かけていた背凭れの無い椅子を持ち上げ応戦の構えを取っていた。
とはいえ、目の前で同じ街の者同士の諍いが勃発し、それを傍観している訳にも行かず、俺はスッと二人の間に入り込み椅子を待ち上げて構える女性職員に向かって柳葉刀を振り降ろそうとする衛兵の腕を押さえ込み、割り込んで来た俺に驚く衛兵の隙をついて押さえる腕を捩じり上げて衛兵の動きを封じた。

「き、貴様何時の間に・・。放せぇ、放せ~ぇ!」

「お、驚きました。報告されている土門様の資料で分かっていたつもりですが、今の動き私程度の物では目で追うのが精一杯で・・・流石としか言いようがありませんね。」

俺に身動きを封じられた衛兵は、俺の動きが分からなかったのが目を白黒させながらもギャーギャーと騒ぎだし、一方の女性職員は俺の動きが見えたのか驚きながらも何か納得して瞳を輝かせていた。
そんな女性職員の反応に苦笑してしまったが、直ぐにそんな悠長な事を言っていられなくなった。
騒ぐ衛兵に共にギルド内に足を踏み入れて来ていた残りの衛兵たちが、腕を捩じり上げて動きを封じる俺に敵意剥き出しで各々の武具を手ににじり寄って来た。しかし、そんな衛兵達の背後から『ドーン!』という大きな衝突音と共に砕けたギルドの扉と共に、衛兵と同じ甲冑姿の男達が団子の様に一塊となってギルド内に飛び込んで来た。
男達はそのまま転がり俺に武具を向けている衛兵を背後から襲いガシャガシャと騒がしい音を響かせてギルドの床へと押し倒していった。
その様子に顔を顰め、何が起きたのかと扉の外へと視線を向けると、

「このゴロツキ共がぁ!ウチのリシュラに下らねぇことをしやがって。ただじゃおかねぇぞぉ!!」

と鼻息も荒く、鞘を付けたままであるものの巨大な斧刃を備えた斧を携えた苦境なドワーフ氏族の戦士然とした鎧姿のヤヌシュが、肩を怒らせ荒々しく足音を鳴らしながらギルドの中へと入って来た。そんなヤヌシュの後方では、俺の仲間で一緒に商隊の護衛にあたっていた張とラルゴが少し困ったような顔をし、更にその後方では顔を伏せて半泣き状態のリシュラの方を抱えるようにして慰めるモニカの姿が見えた。
どうやら、ギルドに乗り込んできた衛兵は一部の者達で他の者達はギルドの外で待機(?)していたようだ。そいつらが、俺達が護衛してきた商隊にチョッカイを出したようだが、商隊と共にいたリシュラにまで手を出し泣かせたため、それに怒ったヤヌシュに叩きのめされたらしい。
そんな状況を見て取った俺も張やラルゴと同じく苦笑するしかなかった。
しかし、街を守る衛兵ともあろう者がたった一人にまとめて叩きのめされるとは。リンドブルム街では考えられない練度の低さだ。これでは、ギルド職員の女性が言うように『無駄飯ぐらいの衛兵』と陰口を叩かれても仕方のないことだと妙に納得してしまった。

「何をしておる!朝から騒がしい!!」

そんな事を衛兵を押さえ込みながら考えている俺の思考を中断する様に、ギルド内に大きな声が響き渡る。その声を方へと視線を振ると、ギルドの奥へと続く廊下の入口に巨体の鯨人族の男が、怖い顔をしてこちらを見ていた。
その鯨人族の男の姿を見た途端、さっきまで衛兵に対して啖呵を切り対峙していた女性職員がサッと服装の乱れを正して、俺がギルドに入ってきた時に見せた惚れ惚れする様に綺麗な姿勢で頭を下げて礼をする。

「申し訳ありません、ポリティス総支配人。衛兵がギルドに乗り込んできて業務の停止を要求してまいりまして・・・」

そう告げる女性職員の言葉にポリティス総支配人と呼ばれた男は、眉間に皺を寄せてギルド内を状況を確認する様にぐるりと見回し、

「ミハイル殿は何を考えておられるのだ全く・・・分かった、ではそこに居られる妖熊人族とドワーフ氏族の御仁は狼藉を働こうとした衛兵ゴロツキ共の捕縛にご協力いただいたという事か。
御二方、真にかたじけない。儂はレヴィアタン街ギルドの総支配人をしておるポリティス・バレイラだ。領主ファレナに成り代わりお礼を申し上げる。
儂で出来る事があれば何なりと申し出ていただきたい、ギルド職員一同全力で対応させていただく。」

そういって、俺とヤヌシュに頭を下げたポリティス殿は控えていた職員に指示を出して床に倒れる衛兵達に縄を打ち拘束して行った。その際のギルド職員の姿と先程までの衛兵の姿のあまりの落差またも呆れ返る事となった。



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