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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)
第弐百五拾壱話 乱が起こってしまいましたが何か! その弐
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霧深い早朝を突いたレヴィアタン街鎮守府への襲撃。
その襲撃が未だ街中へと知れ渡る前、レヴィアタン街の街中を通る大通りを武装を整えた一団が整然と並び、歩調を合わせて僅かな纏う鎧の擦過音に注意を払いながら一直線に街の中心に在る一際大きな館へと向かっていた。
大通りに面して商家を構える大店の数店舗では既に、開店の準備に使用人が動きだし店先に姿を見せる者もいたが、その者達は物々しい集団の姿と剣呑な表情に後難を恐れて、素早く店の中へと姿を隠し武装集団が通り過ぎるのを息を潜めていた。
そんな街の中を、進む集団は分岐に差し掛かると先頭を歩く一際豪奢の鎧を纏う男の合図に従い、三隊に分かれた。
その内一隊、ミハイルが指揮する集団は直進して領主邸へと向かい、もう一隊は分岐を右に曲がるとレヴィアタン街のギルドが置かれている建物へと向かい、最後の一隊はギルドがある路とは逆、左折をすると羅漢獣王国の商館へと向った・・・
『ドン!ドン!ドン!!』
「開門ぉ~ん!我らはレヴィアタン街衛兵団。羅漢獣王国の方々に至急御話したい事あり、早朝にも拘らず申し訳ありませぬが開門をお願いいたぁ~す!!」
衛兵団の一隊を率いる衛兵団分隊長マシュー・トリトンは苦々しい表情を浮かべながらも率いる部下に武具の抜剣を指示した上で、羅漢獣王国商館の門を叩かせていた。
数日前に衛兵団団長ミハイル・リヴァイアサンからレヴィアタン街の制圧を告げられてから、なんども翻意を促すように言葉を尽くした。しかし、ミハイルの動きに賛同するもう一人の分隊長ヒューゴ・クラーケンによって妻子を囚われてしまい。妻子の命を盾に命令を強要されていた。
ミハイルは自分の動きに反対したマシューを信じず、レヴィアタン街制圧にとって要衝となる領主邸とギルドにはミハイルと彼に賛同したヒューゴを当て、マシューには交易を行いレヴィアタン街に商館を構える羅漢獣王国への牽制に向かわせた。反逆の意思を見せれば妻子の命は無いと脅して・・・勿論、マシューの傍らにはミハイル配下の衛兵が付き従い、常にマシューの動向に不審な所は無いか監視の目を光らせていた。
マシューは鬱々としながらもミハイルの指示に従い、羅漢獣王国の商館に向かいその門を叩いたが、その傍らにいた監視役の衛兵が門を叩くマシューの動きに合わせて、腰に差している直剣を抜いている事に気が付かなかった。
マシューの呼び掛けに対して、商館の反応は早く直ぐに中から
「はい、今すぐに門をお開け致します。お待ちください!」
と声が返って来たかと思うと、門の閂棒が外される音がしてゆっくりと門が開き始めた。その様子にマシューは荒事にならずに良かったと一先ずホッと胸を撫で下ろし、如何にこれから起こる騒乱に羅漢獣王国を係わらせないようにするか想いを巡らせていたのだが、商館の門が開きかけた途端傍らにいた監視役として就けられた衛兵が、片手に直剣を握り開きかけの門に手を掛けて力任せに押し開き、門を開けようとしていた商館の使用人と思しき妖狸人族の女性が門の勢いに押されて倒れた所へ直剣を振り降ろそうとした。その動きに慌ててマシューは自らの腰に佩いている太刀の鯉口を切って抜き打ち、今まさに妖狸人族の女性に振り降ろされんとする直剣を掬い上げるようにして打ち払い声を荒げた。
「貴様! 何をするかぁ!!」
普段は温厚で街の者にも親しみを込めて『衛兵団の分隊長さん』と呼ばれているマシューの口から放たれた大音声に、彼の部下である分隊の衛兵はもちろん、マシューの一振りによって必殺の一振りを打ち払われた監視役だった衛兵も度肝を抜かれたのか身を硬直させたが、直ぐにマシューに対して声を上げた。
「黙れぇ! これは次期ご領主であらせられるミハイル様のご命令だ!!
羅漢獣王国の商館には今、獣王国の商人組合参与である波奴真安が滞在中だ。その奴は偽領主ファレナと親交を結んできた、ミハイル様が領主としてお立ちになった際にこれまでの繋がりから、国に戻った際要らぬ讒言を獣王に告げるかもしれぬ。それを未然に防ぐため我らは羅漢獣王国の商館に居る者の口を塞がねばならんのだ。
分かったか?分かったら今すぐに目の前にいる女を斬り、ミハイル様の為ひいては正統なるレヴィアタン街の為に衛兵として己が為さねばならぬ事を成せ!」
監視役から放たれた言葉にマシューは目を大きく見開く驚いたような表情を浮かべ太刀を握る手が小刻みに震え・・・
「な、何を馬鹿な事を・・羅漢獣王国の商人組合参与の口を塞ぐ?ミハイル殿は正気かぁ!?その様な事をすればレヴィアタン街は羅漢獣王国に対し言い逃れの出来ぬ敵対行動を取った事になるのだぞ。分かっているの、がはっ・・」
絞り出すように異を唱えたマシューだったが、その直後、背後から別の衛兵に腹部を刺されて吐血しながらその場に崩れ落ちた。その姿を蔑むような目で見下ろす監視役。が、直ぐに興味を無くしたかのように視線を後ろに控える衛兵達に向ける。
「いいか! ミハイル様の御威光に逆らう者はこうなるのだ、分かったか!?分かったならミハイル様の奉為、我に続けぇ!!」
「「「「「「おっ、おぉぉぉ~!」」」」」」
本来ならば自分達を率いる筈の分隊長であるマシューが背後から刺されて倒れるといった事態に、思考停止状態に陥っていた衛兵達に向けて放たれた監視役の言葉に、一瞬戸惑いながらも呼応してしまう衛兵達。その姿をマシューは傷の痛みに耐えながらも衛兵達を震える手を伸ばし、かすれる声を上げたものの監視役とマシューを背後から襲った襲撃者によって誘導される衛兵達には届かなかった。
と、突然その場に場違いな笑い声が・・・
「あはっはっはっは、真安様の口を塞ぐですってぇ?面白い事を言うものね♪」
「は~ぁ。 随分と嘗められた物んだねぇ。ファレナ殿やポリティス殿など、僕らの事を多少なりとも知っている者なら考えもしない事だけど、頭目の能力が低ければその部下も低能という事なのかな。」
「そう言うな。儂らは自らの力量を隠していたのだ。目端の利かぬ者では無理からぬ事じゃ。寧ろ儂らの擬態を見抜くファレナ殿やポリティス殿らを褒めるべきであろう。」
その声につられ視線を向けた先には、先ほどまで門の前に倒れていた妖狸人族の女が、口元を押さえ笑い。妖狐人族の男と妖猿人族の老人が、薄墨色の羅漢獣王国風装束を身に纏い悠然と佇み、今から商館内に踏み込もうとしている衛兵達を見つめていた。
先程までとは明らかに異なる雰囲気の女といつの間にか姿を現して男たちに、動揺する衛兵達だった。そんな中、監視役は自分達を見つめる三人を見回し老人へと視線を動し誰何する声を上げた。
「き、貴様は羅漢獣王国商人組合参与の波奴真安だなぁ!?」
問われた妖猿人族の老人はニヤリと笑みを浮かべると、
「さよう。この儂がこの商館を取り仕切っておる獣王国商人組合参与の波奴真安じゃよ。朝からガタガタ騒がしいので何事かと顔を出してみれば、また随分と手荒い訪問じゃのう。まぁ、ミハイルの小僧の配下だとすれば所詮はこの程度かもしれぬが・・・」
と、いきり立つ監視役たちの神経を逆なでするように煽ると、監視役は顔を真っ赤にして怒りの表情を浮かべる。
「ミハイル様を小僧呼ばわりするとは何たる無礼! だがこれで商館内を家探しする手間が省けたは。貴様にはこの場で死んでもらう、後の事は心配するな。亡骸は丁重に死化粧を施し、獣王国に送り届けてやる。
ファレナとポリティスが乱心して商館を襲撃し、止む無くミハイル様が乱心者を討ったとしてなぁ!!
者共、かかれぇ~!!
商館内に響き渡る号令に、衛兵達は次々と抜剣し我先にと真安に襲い掛かかった。
「ほっほっほっほ、威勢がいいのぉ。じゃが、敵地に乗り込んで周囲を確認せずに突貫するのはお勧めせんのぉ。」
嘲笑と共に投げかけられた言葉の通り、真安に襲い掛かろうとした先頭の衛兵から足元に張られた鋼線に足を取られて倒れると、後続の衛兵達も勢いが止まらず、倒れた衛兵の上に次々と将棋倒しになっていった。
しかも、真安を襲おうと抜いていた剣で倒れた拍子にお互いを斬り付け、刺していた。
その様子に、号令を発した監視役やその仲間たちは慌て、
「何をやっている。この馬鹿者がぁ!さっさと立って真安の首を獲れ!!」
と罵声を浴びせ、発破をかけるのだが将棋倒しになった衛兵達は呻き声を漏らすばかりで一向に立ち上がってこない。そんな衛兵達に腹を立てて、更に声を張り上げようとする監視役に真安が声を掛けた。
「これこれ、あまり無茶を言ってはいかんぞ。彼らは倒れたと同時に『拘束』の樹精霊紋術によって捕らえられておるのだ。のぉ環や」
真安に話を振られた妖狸人族の女性は、顔の前で組んでいる手印を崩さず、ニコリと微笑みを浮かべて見せた。
そのやり取りに、監視役は一瞬顔を引き攣らせたが直ぐに手にした直剣を構えると
「女ぁ!邪魔をするなぁぁぁぁ!!」
声を張り上げて環に向かって一歩踏み出したが、
「遅いよ♪」
声と共に監視役の手首ごと直剣が宙に飛ぶ。握っている筈の剣が宙を飛ぶのを目で追った監視役だったが、次に視線に飛び込んで来たのは目の前で笑う妖孤人族の男の顔で・・それを最後に監視役の視界は闇に落ちた。
「はい、御仕舞いっと。呆気ないもんだね、これでも街を護る衛兵かい?リンドブルム街とはえらい違いだなぁ」
「そうなんですか?でも、リンドブルム街の衛兵は人間の侵攻から国境を守っているんだから強くて当たり前なのかも・・この街の衛兵なんて威張り散らしているだけで何の役にも立っていない奴らばっかりだったからこんなもんですよ。」
「そうなんだね。まぁおかげで簡単に退けられたらから何の問題も無いんだけどね♪」
商館を襲撃した衛兵達は、マシューを除き全てフクスと環の手で拘束された。あまりに呆気なく拘束できた事に、フクスが拍子抜けだと言うように溢す。その言葉に環は先ほどまでの口調とは違ういつものノンビリ口調で応えた。そんな二人のやり取りに他の者にマシューの傷の応急処置を指示した真安が苦笑を浮かべ
「二人とも、何を暢気に言っておるのだぁ?一応、レヴィアタン街で乱がおきたのじゃぞ。少しは気を引き締めんか!
ファレナ殿がミハイル如きに後れを取るとは到底思えぬが、何が起こるか分からぬ。
今日には津田殿も戻られると連絡が入った所じゃし、下手に乱が長引くと獣王国へ津田殿をお招きするのが遅くなる事は避けたいからのぉ。
早々に片が付くように儂らも動く事にするぞ!」
注意をし、乱の制圧に乗り出す旨を告げる真安だったが、その表情には乱が起きている街の者とは思えぬ、緊張の欠片も見受けられない物だった。
その襲撃が未だ街中へと知れ渡る前、レヴィアタン街の街中を通る大通りを武装を整えた一団が整然と並び、歩調を合わせて僅かな纏う鎧の擦過音に注意を払いながら一直線に街の中心に在る一際大きな館へと向かっていた。
大通りに面して商家を構える大店の数店舗では既に、開店の準備に使用人が動きだし店先に姿を見せる者もいたが、その者達は物々しい集団の姿と剣呑な表情に後難を恐れて、素早く店の中へと姿を隠し武装集団が通り過ぎるのを息を潜めていた。
そんな街の中を、進む集団は分岐に差し掛かると先頭を歩く一際豪奢の鎧を纏う男の合図に従い、三隊に分かれた。
その内一隊、ミハイルが指揮する集団は直進して領主邸へと向かい、もう一隊は分岐を右に曲がるとレヴィアタン街のギルドが置かれている建物へと向かい、最後の一隊はギルドがある路とは逆、左折をすると羅漢獣王国の商館へと向った・・・
『ドン!ドン!ドン!!』
「開門ぉ~ん!我らはレヴィアタン街衛兵団。羅漢獣王国の方々に至急御話したい事あり、早朝にも拘らず申し訳ありませぬが開門をお願いいたぁ~す!!」
衛兵団の一隊を率いる衛兵団分隊長マシュー・トリトンは苦々しい表情を浮かべながらも率いる部下に武具の抜剣を指示した上で、羅漢獣王国商館の門を叩かせていた。
数日前に衛兵団団長ミハイル・リヴァイアサンからレヴィアタン街の制圧を告げられてから、なんども翻意を促すように言葉を尽くした。しかし、ミハイルの動きに賛同するもう一人の分隊長ヒューゴ・クラーケンによって妻子を囚われてしまい。妻子の命を盾に命令を強要されていた。
ミハイルは自分の動きに反対したマシューを信じず、レヴィアタン街制圧にとって要衝となる領主邸とギルドにはミハイルと彼に賛同したヒューゴを当て、マシューには交易を行いレヴィアタン街に商館を構える羅漢獣王国への牽制に向かわせた。反逆の意思を見せれば妻子の命は無いと脅して・・・勿論、マシューの傍らにはミハイル配下の衛兵が付き従い、常にマシューの動向に不審な所は無いか監視の目を光らせていた。
マシューは鬱々としながらもミハイルの指示に従い、羅漢獣王国の商館に向かいその門を叩いたが、その傍らにいた監視役の衛兵が門を叩くマシューの動きに合わせて、腰に差している直剣を抜いている事に気が付かなかった。
マシューの呼び掛けに対して、商館の反応は早く直ぐに中から
「はい、今すぐに門をお開け致します。お待ちください!」
と声が返って来たかと思うと、門の閂棒が外される音がしてゆっくりと門が開き始めた。その様子にマシューは荒事にならずに良かったと一先ずホッと胸を撫で下ろし、如何にこれから起こる騒乱に羅漢獣王国を係わらせないようにするか想いを巡らせていたのだが、商館の門が開きかけた途端傍らにいた監視役として就けられた衛兵が、片手に直剣を握り開きかけの門に手を掛けて力任せに押し開き、門を開けようとしていた商館の使用人と思しき妖狸人族の女性が門の勢いに押されて倒れた所へ直剣を振り降ろそうとした。その動きに慌ててマシューは自らの腰に佩いている太刀の鯉口を切って抜き打ち、今まさに妖狸人族の女性に振り降ろされんとする直剣を掬い上げるようにして打ち払い声を荒げた。
「貴様! 何をするかぁ!!」
普段は温厚で街の者にも親しみを込めて『衛兵団の分隊長さん』と呼ばれているマシューの口から放たれた大音声に、彼の部下である分隊の衛兵はもちろん、マシューの一振りによって必殺の一振りを打ち払われた監視役だった衛兵も度肝を抜かれたのか身を硬直させたが、直ぐにマシューに対して声を上げた。
「黙れぇ! これは次期ご領主であらせられるミハイル様のご命令だ!!
羅漢獣王国の商館には今、獣王国の商人組合参与である波奴真安が滞在中だ。その奴は偽領主ファレナと親交を結んできた、ミハイル様が領主としてお立ちになった際にこれまでの繋がりから、国に戻った際要らぬ讒言を獣王に告げるかもしれぬ。それを未然に防ぐため我らは羅漢獣王国の商館に居る者の口を塞がねばならんのだ。
分かったか?分かったら今すぐに目の前にいる女を斬り、ミハイル様の為ひいては正統なるレヴィアタン街の為に衛兵として己が為さねばならぬ事を成せ!」
監視役から放たれた言葉にマシューは目を大きく見開く驚いたような表情を浮かべ太刀を握る手が小刻みに震え・・・
「な、何を馬鹿な事を・・羅漢獣王国の商人組合参与の口を塞ぐ?ミハイル殿は正気かぁ!?その様な事をすればレヴィアタン街は羅漢獣王国に対し言い逃れの出来ぬ敵対行動を取った事になるのだぞ。分かっているの、がはっ・・」
絞り出すように異を唱えたマシューだったが、その直後、背後から別の衛兵に腹部を刺されて吐血しながらその場に崩れ落ちた。その姿を蔑むような目で見下ろす監視役。が、直ぐに興味を無くしたかのように視線を後ろに控える衛兵達に向ける。
「いいか! ミハイル様の御威光に逆らう者はこうなるのだ、分かったか!?分かったならミハイル様の奉為、我に続けぇ!!」
「「「「「「おっ、おぉぉぉ~!」」」」」」
本来ならば自分達を率いる筈の分隊長であるマシューが背後から刺されて倒れるといった事態に、思考停止状態に陥っていた衛兵達に向けて放たれた監視役の言葉に、一瞬戸惑いながらも呼応してしまう衛兵達。その姿をマシューは傷の痛みに耐えながらも衛兵達を震える手を伸ばし、かすれる声を上げたものの監視役とマシューを背後から襲った襲撃者によって誘導される衛兵達には届かなかった。
と、突然その場に場違いな笑い声が・・・
「あはっはっはっは、真安様の口を塞ぐですってぇ?面白い事を言うものね♪」
「は~ぁ。 随分と嘗められた物んだねぇ。ファレナ殿やポリティス殿など、僕らの事を多少なりとも知っている者なら考えもしない事だけど、頭目の能力が低ければその部下も低能という事なのかな。」
「そう言うな。儂らは自らの力量を隠していたのだ。目端の利かぬ者では無理からぬ事じゃ。寧ろ儂らの擬態を見抜くファレナ殿やポリティス殿らを褒めるべきであろう。」
その声につられ視線を向けた先には、先ほどまで門の前に倒れていた妖狸人族の女が、口元を押さえ笑い。妖狐人族の男と妖猿人族の老人が、薄墨色の羅漢獣王国風装束を身に纏い悠然と佇み、今から商館内に踏み込もうとしている衛兵達を見つめていた。
先程までとは明らかに異なる雰囲気の女といつの間にか姿を現して男たちに、動揺する衛兵達だった。そんな中、監視役は自分達を見つめる三人を見回し老人へと視線を動し誰何する声を上げた。
「き、貴様は羅漢獣王国商人組合参与の波奴真安だなぁ!?」
問われた妖猿人族の老人はニヤリと笑みを浮かべると、
「さよう。この儂がこの商館を取り仕切っておる獣王国商人組合参与の波奴真安じゃよ。朝からガタガタ騒がしいので何事かと顔を出してみれば、また随分と手荒い訪問じゃのう。まぁ、ミハイルの小僧の配下だとすれば所詮はこの程度かもしれぬが・・・」
と、いきり立つ監視役たちの神経を逆なでするように煽ると、監視役は顔を真っ赤にして怒りの表情を浮かべる。
「ミハイル様を小僧呼ばわりするとは何たる無礼! だがこれで商館内を家探しする手間が省けたは。貴様にはこの場で死んでもらう、後の事は心配するな。亡骸は丁重に死化粧を施し、獣王国に送り届けてやる。
ファレナとポリティスが乱心して商館を襲撃し、止む無くミハイル様が乱心者を討ったとしてなぁ!!
者共、かかれぇ~!!
商館内に響き渡る号令に、衛兵達は次々と抜剣し我先にと真安に襲い掛かかった。
「ほっほっほっほ、威勢がいいのぉ。じゃが、敵地に乗り込んで周囲を確認せずに突貫するのはお勧めせんのぉ。」
嘲笑と共に投げかけられた言葉の通り、真安に襲い掛かろうとした先頭の衛兵から足元に張られた鋼線に足を取られて倒れると、後続の衛兵達も勢いが止まらず、倒れた衛兵の上に次々と将棋倒しになっていった。
しかも、真安を襲おうと抜いていた剣で倒れた拍子にお互いを斬り付け、刺していた。
その様子に、号令を発した監視役やその仲間たちは慌て、
「何をやっている。この馬鹿者がぁ!さっさと立って真安の首を獲れ!!」
と罵声を浴びせ、発破をかけるのだが将棋倒しになった衛兵達は呻き声を漏らすばかりで一向に立ち上がってこない。そんな衛兵達に腹を立てて、更に声を張り上げようとする監視役に真安が声を掛けた。
「これこれ、あまり無茶を言ってはいかんぞ。彼らは倒れたと同時に『拘束』の樹精霊紋術によって捕らえられておるのだ。のぉ環や」
真安に話を振られた妖狸人族の女性は、顔の前で組んでいる手印を崩さず、ニコリと微笑みを浮かべて見せた。
そのやり取りに、監視役は一瞬顔を引き攣らせたが直ぐに手にした直剣を構えると
「女ぁ!邪魔をするなぁぁぁぁ!!」
声を張り上げて環に向かって一歩踏み出したが、
「遅いよ♪」
声と共に監視役の手首ごと直剣が宙に飛ぶ。握っている筈の剣が宙を飛ぶのを目で追った監視役だったが、次に視線に飛び込んで来たのは目の前で笑う妖孤人族の男の顔で・・それを最後に監視役の視界は闇に落ちた。
「はい、御仕舞いっと。呆気ないもんだね、これでも街を護る衛兵かい?リンドブルム街とはえらい違いだなぁ」
「そうなんですか?でも、リンドブルム街の衛兵は人間の侵攻から国境を守っているんだから強くて当たり前なのかも・・この街の衛兵なんて威張り散らしているだけで何の役にも立っていない奴らばっかりだったからこんなもんですよ。」
「そうなんだね。まぁおかげで簡単に退けられたらから何の問題も無いんだけどね♪」
商館を襲撃した衛兵達は、マシューを除き全てフクスと環の手で拘束された。あまりに呆気なく拘束できた事に、フクスが拍子抜けだと言うように溢す。その言葉に環は先ほどまでの口調とは違ういつものノンビリ口調で応えた。そんな二人のやり取りに他の者にマシューの傷の応急処置を指示した真安が苦笑を浮かべ
「二人とも、何を暢気に言っておるのだぁ?一応、レヴィアタン街で乱がおきたのじゃぞ。少しは気を引き締めんか!
ファレナ殿がミハイル如きに後れを取るとは到底思えぬが、何が起こるか分からぬ。
今日には津田殿も戻られると連絡が入った所じゃし、下手に乱が長引くと獣王国へ津田殿をお招きするのが遅くなる事は避けたいからのぉ。
早々に片が付くように儂らも動く事にするぞ!」
注意をし、乱の制圧に乗り出す旨を告げる真安だったが、その表情には乱が起きている街の者とは思えぬ、緊張の欠片も見受けられない物だった。
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