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・・・『集結』・・・

激励壮行会 3

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席に戻る彼女を見遣って正面に向き直る・・。

「・・皆さん・・私がゲーム大会とリアル・ライブバラエティに参加・出演するに当り、我が社は私に対して求める事ものは何も無いと言ってくれました・・私はその事に対して、大きく・深く感謝しております・・その感謝を具体的に示して想いに応える為、『ディファイアント』は他の19艦と共に出来得る限りに長く在り続ける事を願い、その方針に沿って行動・操艦します・・そして出来ればこのゲーム大会を、我ら20艦にて席巻したい・・とまで考えております・・その為にこそ私はクルーと共に智恵を絞り、状況に応じて適切・的確に目的を外さず・見失わずに操艦し続けるものでありますと、この場をお借りして申し上げるものであります・・そしてまた私は、私からの選抜と就任の要請に快く応じてくれて、今日のこの場にも集合してくれたクルーの皆にも深い感謝を捧げます・・勿論彼女達クルーの内の1人でもまだ決定していなければ、未だ『ディファイアント』は成立しておりません・・その意味でも私は、彼女達に大きく感謝し続けなければならないでしょう・・それでは・・まだ質疑応答の機会もあるでしょうから・・この場でのお話はひとまず以上とさせて頂きます・・」

一礼をして笑顔を作り、演台を離れて自席に戻る・・リサさんを見遣ると、眼が合う・・。

「・・本当にどうもありがとう・・急に悪かったね・・」

「・・いいえ、大丈夫です・・こちらこそ、ありがとうございました・・」

「・・好いスピーチでしたよ、アドルさん・・お疲れ様でした・・」

と、シエナさんが左側から私の左腕に右手を添えて言う・・。

「・・副長のスピーチもなかなか好かったですよ・・それはそれとして、そろそろサプライズが発表されますね・・これからが本番ですよ、シエナさん・・」

そう言って彼女の手を軽く握る・・。

「・・分かりました・・」

そう応えて、彼女も軽く握り返した・・。

またハーマン・パーカー常務が司会席に立つ・・。

「・・アドル・エルクさん・・多大な示唆に富み、大変に興味深い決意表明をも含めたスピーチを、どうもありがとうございました・・またインタビューや質疑応答もありますので、その際にはまた宜しくお願い致します・・さて・・今この激励壮行会をご覧の総ての皆様に向けて、弊社役員会よりサプライズの発表がございます・・本件に限り、この激励壮行会では司会として立っている私ですが、弊社役員会を代表して発表させて頂きます・・当社、クライトン国際総合商社は、営利企業団体組織法人としての存在と資格を以て、このゲーム大会に参加致します・・既に登録は、昨日の午後に完了致しました・・参加する目的は単純ですが、弊社と弊社の商品や業務についての紹介と宣伝であります・・具体的な参加形態について発表させて頂きます前に、アドル・エルク艦長の『ディファイアント』との関係性等について、お話させて頂きます・・弊社には当初より、アドル・エルク氏や『ディファイアント』を宣伝に利用するとか、弊社にとって都合の好い指示・指令・干渉などする意思は無い旨を発表させて頂いております・・ですが、このゲーム大会に当社として参加して、長く勝ち抜き続ける事が出来れば・・多大な宣伝効果を得られるであろうとは、これも当初より想定しておりましたので独自に極秘に準備を進めて参りました・・そして昨日の午後に、ようやく準備が整いましたので、登録を完了できた次第であります・・ですので弊社参加艦と『ディファイアント』は、決して敵対するものでも、主従の関係でもないと言う事を先ず最初に強調して、発表させて頂きます・・次に・・『ディファイアント』に対して、意図的に援護したり援助したり庇って守ったりするような事も無いと言う事を表明させて頂きます・・何故、それらのような事をしないのかと問われるならば・・弊社参加艦と『ディファイアント』は、全く対等の同じ一隻の参加艦であるからです・・それでは・・弊社参加艦の具体的な参加形態について、発表させて頂きます・・先ず艦名は『ロイヤル・ロード・クライトン』であります・・次に艦種は、軽巡宙戦闘艦であります・・では『ロイヤル・ロード・クライトン』の艦長をご紹介致します・・それは弊社副社長の1人、グレイス・カーライル女史であります!・・」

そう言ってハーマン・パーカー常務は、グレイス・カーライル副社長を左手で指し示した・・。

「・!・おい、何だよそれ・・?・・」

と、そう言ってスコット・グラハムは堪らず立ち上がって、フロアモニターを見上げる・・マーリー・マトリンも立ち上がって口を左手で押さえている・・。

カメラの砲列が閃光を発し始める中、グレイス・カーライル女史は立ち上がり、演台中央に歩み寄る・・。

グレイス・カーライル副社長・・確か今年で53才・・女性役員の中では最高齢だ・・見事な艶を保つ栗色のロングヘアを、今日は僅かにカールさせている・・ 既に4人のお子さんを育て上げて独立させ、女性として初めて、企画宣伝本部長と営業本部長を歴任された女傑とも称される・・副社長4人の中では、次期社長との呼び声が最も高い・・その日の気分と状況で、髪形を劇的に変えるのが特徴の一つだ・・一緒に仕事をした事はないが、用いる手腕の確かさは広く内外に認知されている・・彼女が艦を率いて大会に参加し、勝ち抜き続ければ彼女自身の声望が高まるのは無論だが、我が社の株価上昇にも拍車が掛かるだろう・・。

「・・激励壮行会にご参加の皆様・・ご来賓の皆様・・配信をご覧の皆様、こんにちは・・初めまして・・弊社にて副社長を務めております・・グレイス・カーライルでございます・・どうぞ宜しくお願い致します・・この度、『ロイヤル・ロード・クライトン』の艦長職への就任を要請され、受諾致しました・・まだ何も理解できていない新米の艦長ではありますが・・これよりは何でも貪欲に吸収し学び取り、艦長として恥じる事の無いように致したいと思います・・皆様に於かれましては、どうか暖かくお見守り下さいますよう、宜しくお願い申し上げます・・」

笑顔で一礼して自席に戻る・・盛大な拍手が沸き起こる・・私も拍手を送ったので、『ディファイアント』のクルーメンバーも拍手を送った・・。

「・・グレイス・カーライル副社長・・ご挨拶をありがとうございます・・それでは続きまして・・『ロイヤル・ロード・クライトン』のクルーをご紹介致しますが、諸般の事情に因りまして、この激励壮行会での全クルーの紹介ができません・・それに付きましてはこの場にご参加頂いている皆様にも、配信をご覧頂いている皆様にも深くお詫びを申し上げるものであります・・特にアドル・エルク艦長と『ディファイアント』のクルーの皆様には、深くお詫び申し上げます・・それではご紹介致します・・副長として、カーネル・ワイズ・フリードマン副社長!・・」

名前を呼ばれて指し示されて、ここに参加しているもう一人の副社長が立ち上がり、深く一礼して着席する・・。

(・・副社長が艦長だから、メインスタッフにも何人か役員が入るだろうとは思っていたが、艦長と副長が副社長とはね・・それにしても、『ロイヤル・ロード・クライトン』とは・・)

「・・それでは続きまして、『ロイヤル・ロード・クライトン』の作戦参謀をご紹介致します・・弊社専務のフローレンス・スタンハーゲン女史であります!・・」

「・・メインスタッフの中核を役員で固めるって訳だな・・それだけこのゲーム大会への参入に賭ける我が社の意気込みが強いって事だろう・・」

ヘイデン・ウィッシャーフロア・チーフが、いつの間にかスコットの左側に立って左肩に右手を置いて言う・・。

「・・チーフ・・」

「・・観てて良いから座ってろ・・」

「・・分かりました・・すみません・・」

「・・続きまして、『ロイヤル・ロード・クライトン』のカウンセラーをご紹介致します・・弊社常務のベアトリス・アードランド女史であります!・・」

「・・と言う事は、シャーレイン・アンブローズ常務が機関部長だね・・あの人は技術畑の出身だから・・」

と、リサさんの方に顔を向けて言う・・。

「・・そうなんですか・・?・・」

「・・うん・・入社2年目の年に4ヶ月間だけだったけど、あの人が指揮を執っていたエンジニアリングプロジェクトに関わっていた事があったんだよ・・直接の面識は無かったけどね・・」

やはり私の予想通り、シャーレイン・アンブローズ常務が機関部長として紹介された・・そしてこの場に於ける『ロイヤル・ロード・クライトン』のクルー紹介は、ここまでで終わった・・。

「・・さて、皆さん・・『ディファイアント』に於きましても『ロイヤル・ロード・クライトン』に於きましても、紹介については一区切りが付きましたので・・ここで、トーマス・クライトン社長よりお話を頂きたいと思います・・それでは、クライトン社長・・お願いします・・」

社長が立ち上がって演台を前にして立ち止まるまで、閃光は間断なく続いた・・。

立ち止まる一瞬前にリサさんを見遣ったように観えたが、リサさんが身体を固くしたのはその一瞬だけだった・・。

「・・ご来場の皆さん・・配信をご覧の皆さん・・こんにちは・・トーマス・クライトンです・・先ず、アドル・エルク艦長と『ディファイアント』クルーの皆さんに、おめでとうございますと申し上げます・・是非長く、このゲーム大会を楽しんで頂きたいと思います・・さて、俗な話で申し訳ありませんが・・アドル・エルクさんが艦長職に当選されて以降・・我が社の営業成績と株価は右肩上がりで上昇しております・・正直に申し上げまして、これ程の影響があるとは想定し得ませんでした・・ですから、『ロイヤル・ロード・クライトン』での参加を決定するに至った・・と言う事でもあります・・繰り返し発表しておりますが、弊社がアドル・エルク氏と『ディファイアント』に対して恣意的なアプローチを行うと言う事はありません・・これは強調して言明させて頂きます・・もしも2艦がフィールド内で出遭った場合には、両艦の判断に委ねるのみであります・・以上、大変に雑駁で簡単な基調報告的挨拶となりましたが・・またお話をさせて頂く機会もあろうかと思いますので、一先ずはこれにて失礼させて頂きたいと思います・・ご静聴、ありがとうございました・・」

その後は、来賓として招いた人達からの挨拶が続く・・2艦で協力し合って好成績を上げて欲しいとか、週に1隻は撃沈して欲しいとか、重巡宙艦を撃沈して欲しいとか・・他にも幾つか言っていたが憶えていない・・いい加減にウンザリしていたので無表情で通す・・司会の常務が私に話を振らなかったのは、正直ありがたい・・。

来賓の人達が話している間に、舞台の前に会議室で使われるような椅子が10脚用意される・・これはインタビューと対談かな・?・と思っていたら果たしてその通りになった・・司会の常務から指名されて、『ディファイアント』・『ロイヤル・ロード・クライトン』双方の艦長・副長・作戦参謀・カウンセラー・機関部長、それぞれ5名ずつが10脚の椅子に分かれて座る・・真ん中の2脚にはそれぞれの艦長が隣り合って座り、空いている側の艦長の隣から副長・作戦参謀・カウンセラー・機関部長の順番で座るように要請された・・。

椅子の前で10人がその順番に並び立つと、ひとしきり撮影される・・グレイス・カーライル副社長に会釈してから座ろうとしたが、彼女も私に会釈して右手を差し出して来たので握手を交わして座る・・するとホールスタッフが数人来て、全員の胸元にピンマイクを着けた・・。

「・・皆さん、お集まり頂きましてありがとうございます・・それではこれよりインタビューと対談に入ります・・先ず艦長お二方から、改めて意気込みや抱負や目標などについてお願いします・・」

隣を見遣るとお先にどうぞと手で示されたので、正面を向いて座り直す・・。

「・・ええ、改めまして『ディファイアント』艦長のアドル・エルクです・・この激励壮行会に大きく深く感謝します・・出来得る限り艦を傷付けずに経験値を集積させて、長く存在し続けるために考え得ることを行います・・リアル・ライブ・バラエティを長く存続させたいと思います・・他の19艦とも出来れば協力・協同して、20艦で最終局面まで存続し続けたいと思っています・・今はそんな処です・・」

「・・私もアドルさんが目指そうとしている処を同じように目指そうと思います・・でもまだ何も学んでおりませんので、早く色々と訊きたいですし知りたいですし学びたいです・・アドルさんにも質問させて頂きたいと思っています・・」

「・・そうですね・・『ロイヤル・ロード・クライトン』の全クルー確定が一昨日の事でしたので、まだ右も左も判らない人が多いと思います・・ですのでどうでしょう・・?・・インタビューと対談の構想で集まって頂きましたが、双方のざっくばらんな対談に移行させて頂ければと思います・・如何でしょうか・・?・・」

「・・こちらとしては、問題ありません・・」と、そう応える・・。

「・・私達としても、そうして頂いた方が有難いです・・」

「・・分かりました・・ではインタビューは辞めまして、グループ対談に移行します・・ご来場の皆様、配信をご覧の皆様にもご静聴をお願い致します・・面白いお話が伺えるかも知れません・・では、グレイス・カーライルさん・・アドル・エルクさんへの質問をお願いします・・」

「・・ありがとうございます・・ハーマン・パーカー常務・・初めまして、で宜しかったですわね・?・アドル・エルクさん・・グレイス・カーライルです・・宜しくお願いしますね・・先ずはおめでとうございます・・最初の頃はよく解らない側面もあったのですが・・私の息子がとても興奮して私に説明してくれましたので、今ではそのすごさや素晴らしさについては大体解っていると思います・・私の事はグレイスと呼んで下さい・・それで、質問なのですけれども・・私達はまだ決まったばかりで、先ず何をするべきなのかについてもよく解っていません・・率直にお伺いしますが、何から始めるべきでしょうか・・?・・」

(・・うん・・こう言う率直な訊きようは聞いていて気持ちが好い・・しかし恣意的な干渉は一切しないと言いながら、こんな風に根掘り葉掘り訊こうとするのはどうなんだろう・・?・・まあまだ開幕していないから、良しとするか・・)

「・・ありがとうございます・・グレイス・カーライル副社長・・初めまして・・アドル・エルクです・・宜しくお願いします・・それではお言葉に甘えまして、グレイスさんとお呼びします・・私の事はアドルと呼んで下さい・・そうですね・・もう開幕まであまり時間がありませんし、皆さんお仕事でお忙しいと思いますが・・出来れば速やかにゲーム大会運営本部の担当者から、レクチャーとブリーフィングを受けて生体情報を登録して下さい・・そこで3種類の必須アイテムが貸与されて、それらについての説明もあります・・詳しくは担当者から聴いて下さい・・その上で体感撮影セットの見学と装置・機材等の動作確認や初期設定などの諸々で・・3回は先方を訪問された方が好いと思います・・後は貸与されるアイテムの中に、このゲーム大会に関する膨大なマニュアルが記憶されていますので、最低でも3回は読了して下さい・・艦長とメインスタッフでしたら5回です・・特に緊急対応マニュアルは記憶して下さい・・それが出来ているかどうかで勝敗が別れる場合があるでしょう・・とにかくマニュアルを読み込んで、何度もセットを観て触って動かして確かめて、慣れていって下さい・・そんな処ですね・・」

「・・あ、・ありがとうございます・・アドルさん・・参考になりました・・早速聴きに行きます・・」

「・・乗員数はウチと同じですか・・?・・」

「・・え・・そちらより3名多いです・・サポートクルーを増やしました・・」

「・・そうですか・・運営本部に行った時に、医療部のスタッフとバーラウンジのスタッフを早く決めてくれるように、要請を出して下さい・・そしてこれらのスタッフが決まったら、出来るだけグレイス艦長自らで面談して下さい・・」

「・・分かりました・・憶えて置きます・・」

「・・そうだ・・グレイス艦長・・せっかくの機会ですから開幕して暫く経ったら、模擬戦闘訓練でもしましょうか・・?・・お互いに戦闘はズブの素人ですからね・・これは恣意的な干渉には入らないでしょう・・如何ですか・・?・・」

「・・あ・・ありがとうございます、アドル艦長・・願っても無いような事です・・宜しくお願いします・・」

「・・それでしたら開幕までに、我々だけが解る色々な符丁を決めて置きましょう・・これは私のメディアカードです・・グレイスさんの連絡先は、後で私の秘書に渡して下さい・・」

そう言いながら自分のメディアカードをグレイス・カーライル副社長に手渡す・・。

「・・分かりました・・壮行会が終りましたら、直ぐにお渡しします・・」

そう言って副社長は私のメディアカードをほんの少しの間観て、スーツの内ポケットに仕舞った・・。

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