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・・・『集結』・・・

激励壮行会 4

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「・・しかし・・『ロイヤル・ロード・クライトン』ってスゴイ艦名ですよね・・?・・」

「・・やっぱりそう思います・・?・・」

「・・ええ・・名前負けしないように頑張るのが大変でしょうね・・グレイス艦長・・貴女は私より頭が良いですから、マニュアルを読み込んで貰えれば戦略・戦術については解ると思いますよ・・私からアドバイスが出来るとしたら二つ・・操艦には必ず明確な目的を与えて、見失わないようにして下さい・・もう一つは、戦闘中にこそ冷静さを保って、のめり込まないようにして下さい・・一程度のダメージを与えて相手艦の戦力を削ぐ事が出来たら、離脱した方が良いですよ・・」

「・・分かりました・・ありがとうございます・・」

「・・あの・・シエナ・ミュラーさんに副長としての心得とか心掛けを伺いたいです・・あ、初めまして・・カーネル・ワイズ・フリードマンです・・」

「・・初めまして、カーネル・ワイズ・フリードマンさん・・『ディファイアント』で副長を務めます、シエナ・ミュラーです・・どうぞ、宜しくお願いします・・」

「・・こちらこそ宜しくお願いします・・あ、私の事はカーネルとお呼び下さい・・」

「・・分かりました・・カーネルさん・・では、私の事はシエナと呼んで下さい・・」

「・・ありがとうございます・・シエナさん・・それでシエナさんの考える、好い副長とはどのようなものでしょう・・?・・」

「・・私の考えで宜しいでしょうか・・カーネルさん・・?・・」

「・・勿論、結構です・・シエナさんのお考えを伺いたいです・・」

「・・分かりました・・私は先ず、アドル・エルク艦長を支えて、司令部を円滑に、効果的に効率的に運用して統率する事を考えます・・デイタイム・シフトの間で艦長が席を離れる場合には、直ぐに交代して指揮を執れるようにします・・また・・司令部を構成するメインスタッフ・サブスタッフには、常に目や気を配るようにして・・日に一度は話をするようにします・・また、艦長や他のスタッフも人ですから表現や説明や伝達や命令に、補足や修整や言い換えが必要である場合もあります・・その場合には、時間を置かずにそれを行います・・これは副長に許された権限であり、任務でもありますので躊躇するべきではありません・・基本的には、こんな処でしょうか・・?・・」

「・・分かりました・・ありがとうございます・・何だか感動しました・・とても参考になります・・」

「・・シエナ・ミュラーさん・・とても具体的で解りやすい・・腑に落ちるご説明をありがとうございます・・まだ開幕もしておりませんが、既に『ディファイアント』の強さを目の当たりにしているようです・・そこで・・如何でしょうか・・?・・『ロイヤル・ロード・クライトン』の作戦参謀も、カウンセラーも、機関部長も、今質問させて頂きました副長と同様に・・より善いそれらの役職・スタッフポストの在り方について、伺いたいのではないだろうかと思います・・作戦参謀・カウンセラー・機関部長と言う順番で、忌憚の無いお話を伺わせて頂ければと思います・・宜しければ、お願い致します・・」

と、ハーマン・パーカー常務が司会の演台から私達にそう呼び掛ける・・ハル・ハートリーさんが座り直した・・。

「・・初めまして・・『ディファイアント』の作戦参謀に就任致しました、ハル・ハートリーです・・宜しくお願いします・・マニュアルを読み込んで頂ければ作戦参謀の職務については、ご理解頂けると思いますが・・簡単に申し上げれば、戦略・戦術についての助言や意見を求められた場合にも、その時の艦の方針に沿った容で助言します・・適切で的確な助言をする場合に必要になるのが、これまでの運航や操艦の結果を、この先の目的と対比させての評価や、戦っている相手に関する情報や、戦っているフィールド・エリアに関する情報を総合的に勘案しての分析です・・この分析が適正でなければ、正しい戦略案も正しい戦術案も出せなくなります・・適正な情報を取得するための具体的な手法については、マニュアルをよく読んで頂きたいと思います・・簡単で雑駁ではありますが、以上で終わります・・」

ハンナ・ウェアーさんは、脚を組み換えて座り直した・・。

「・・初めまして・・『ディファイアント』のカウンセラーとして就任致しました、ハンナ・ウェアーです・・宜しくお願いします・・やはり先ず申し上げたいのは私も、マニュアルをよく読んで頂きたいと言う事です・・私が考えます・・カウンセラーとして艦の中で出来る事は、クルーの精神状態と感情の起伏と心理動向の可能性を読み取って、想定し得る事態の可能性について司令部に助言する事です・・本当に簡単で申し訳ありませんが、私が今の時点で申し上げられるのは以上です・・」

リーア・ミスタンテさんは、ひとつ髪を掻き上げて座り直した・・。

「・・初めまして・・『ディファイアント』の機関部長として就任致しました、リーア・ミスタンテです・・宜しくお願いします・・機関部長に就任した方は、出来得る限りセットの見学に行って下さい・・勿論、マニュアルを細部にまで亘って読み込むのは必須です・・読み込みながらブリッジと機関室の総ての機器に、徹底的に慣れて下さい・・初期の設定や調整も自分で行って下さい・・あと・・数値的な事を訊かれる場合があると思いますが、余裕を以て応えるようにして下さい・・ギリギリの数値を答えてしまうと、後でキツくなると思います・・簡単で申し訳ありませんが、私も今の時点で申し上げられるのは以上です・・」

「・・アドル・エルクさん・・シエナ・ミュラーさん・・ハル・ハートリーさん・・ハンナ・ウェアーさん・・リーア・ミスタンテさん・・大変に興味深い内容での説明を、お話頂ける範囲内で解りやすくお答え頂きまして本当にありがとうございます・・それでは・・今日、おいで頂いている報道席の皆さんから質問があれば受け付けたいと思いますが・・如何でしょうか・・?・・」

「・・セントラル・ニュース・ネットワークのルディ・ヴィーナーです・・アドル・エルク氏に伺います・・御社が独自にゲーム大会に参加されると知った時に、どう感じられましたか・・?・・」

「・・まあ、当然ながらかなり驚きました・・当初、どのような意図で参加する事にしたのか判らなかったので、私や『ディファイアント』に対して何か含む処でもあるのかと訝りもしましたが、後で総て説明されましたので理解しました・・」

「・・次にアドル・エルク氏とグレイス・カーライル副社長に伺います・・期せずして同格の艦長となられた訳ですが・・ここで初めて顔を合わせられて、お互いについてどのような印象を持たれましたでしょうか・・?・・」

数秒グレイス艦長と顔を見合わせて、私から先に話しますと手振りで示した・・。

「・・我が社の副社長が艦長席に座り一艦の指揮を執る、と知った時・・我が社がこのゲーム大会に懸けている並々ならぬ決意と意気込みを感じました・・グレイス・カーライル副社長は内外に広くその善き人柄と、知性の高さと優秀さを知らしめている方ですので・・マニュアルをよく読み込んで貰って2.3の実戦を経験すれば、直ぐ私よりも優秀な艦長になるでしょう・・」

「・・アドル・エルクさんの事は失礼ながら艦長に当選されるまで存じ上げませんでした・・艦長に当選されてから色々と知り始めて・・今日ここで初めてお会いした訳なのですけれども・・とても好い印象を受けています・・優しさと高い知性と強い洞察力を持たれていると感じています・・率直に、もっと色々と教えて欲しいと思います・・開幕してからの模擬戦闘訓練が今から楽しみです・・」

「・・では、次の方・・お願いします・・」

「・・グローバル・ニュース・ネットワークのスキート・オーティスです・・『ディファイアント』と『ロイヤル・ロード・クライトン』は敵対しないと仰られましたが・・もしも両艦とも最終局面まで勝ち抜いて生き残り、遭遇したとしたらどうしますか・・?・・」

この質問には、ハーマン・パーカー常務が即答した・・。

「・・それはその時に、両艦の艦長が協議して決めれば良いでしょう・・」

「・・分かりました・・それでは続けて御社役員会に伺いますが先ず、何故アドル・エルク氏と『ディファイアント』に如何なる干渉もしないと決められたのでしょうか・・?・・次に、軽巡宙艦で参加しようと決められたのは何故なのでしょうか・・?・・更に、軽巡宙艦での参加とは言え巨額の投資になりますが、その投資に見合う利益が得られると、どのようにお考えでしょうか・・?・・最後に、アドル・エルク氏が艦長に当選されてから御社の営業利益と株価は右肩上がりを続けられていますが、アドル・エルク氏に対して特別報酬は考えておられますか・・?・・」

「・・それらのご質問には、私がお答えしましょう・・」

トーマス・クライトン社長がそう言って立ち上がり、演台を前にして立った・・カメラの砲列から発せられる閃光が2分程続いて静まる・・。

「・・アドル・エルク氏は当選確率5億分の1以下の難関を突破されて艦長席を獲得されました・・彼は弊社の社員ではありますが、これを奇貨として彼と『ディファイアント』を弊社の宣伝の道具にしよう等と言う・・何と言いますか・・低級な考えは持ち得ない・・との結論に、我が役員会は直ぐに到達しました・・このような事態を利用してまで営業利益に結び付けようとする考えや行いは・・弊社の営業理念にそぐわないものであります・・アドル・エルク氏には、その持てる才能と技術を存分に発揮して頂き・・充分に楽しんで頂きたいと思っております・・次の質問に答えます・・重巡宙艦を用いて参加する、と言う事にした場合・・参加費用が更に巨額になると言う事がひとつ・・クルーの総数が軽巡宙艦のそれに比べて3倍以上にも及び・・総てのポストに弊社の社員を適材適所で配置する、と言う事が不可能であった事がふたつ・・『ディファイアント』に対して一切の干渉はしませんが・・見習う事は出来ますので、弊社としても軽巡宙艦にて参加するのが妥当であろう、との結論に到達するに至った、と言うのがみっつ、であります・・3つ目の質問に答えます・・これも俗な話になりますようで、申し訳ありません・・確かに巨額の投資にはなりますが、『ディファイアント』並びに『ロイヤル・ロード・クライトン』が長く存続するならば、投資額は充分に回収できるでしょうし・・それに数倍する利益を上げる事も充分に可能でしょう・・『ディファイアント』のクルーを選抜されました、アドル・エルク氏は完璧な配置を考え出されて完成されましたし・・それを観倣いまして我が社も、智恵を絞りまして適材適所となりますように社員を選抜しまして配置致しましたので、このチャレンジプロジェクトが成功する可能性は充分にあると考えております・・では、最後の質問に答えます・・本役員会ではアドル・エルク氏に対して特別報酬を供与しては?・と言う意見も出されました・・ですが、現在彼はルテナント・オフィサーであり営業第3課の係長ですので、組合員であります・・現状で彼への特別報酬の供与を決定するには、組合との事前協議が必要です・・おそらくは開幕してから組合との間で協議を始められるであろうかと思います・・回答としては、以上です・・」

そう締め括って演台を離れ、自席に向かう・・。

「・・トーマス・クライトン社長・・大変に明確で詳細な回答をありがとうございました・・他にご質問はありますでしょうか・・?・・」

ハーマン・パーカー常務がそう訊いた瞬間、空腹感に襲われて腹が鳴った・・あ?!、と思ったがリサさんとシエナさんには聴かれたようだ・・。

「・・いや・・もうお昼だよね・・」

やれやれと言った感じで正面を見遣ると、モリー・イーノス女史が手を挙げている・・

「・・フリールポライターのモリー・イーノスです・・アドル・エルクさんに改めてお願いします・・『ロイヤル・ロード・クライトン』のメインスタッフの皆さんに向けて、それぞれ簡単にでも結構ですのでアドバイスをお願いします・・」

心の中では充分に渋々と・・であったのだが、表情にも仕種にも態度にも一切出さずにすっと立ち上がって、演台を前にして立つ・・。

「・・ええ・・もうかなりお腹が空いていますので・・申し訳ないのですが、簡単に申し上げます・・グレイス・カーライル艦長・・撃沈する事に拘らないで下さい・・やれる、と思ってもなかなか押し切れません・・戦闘のエネルギー反応は遠くからでも感知できますので・・気が付けば何隻かの艦が忍び寄って来ています・・敵艦の損傷率を20%以上に出来たら、一旦離脱しましょう・・フリードマン副長・・グレイス艦長をよく支えて下さい・・そして艦長のやり方をよく観ながら、それを基として自分独自のやり方を早目に確立しましょう・・スタンハーゲン参謀・・内外の情報収集は広範囲で、多岐に亘って行いましょう・・分析にご自分の主観が多少入るのは構いません・・それも貴女の個性ですから・・アードランドカウンセラー・・全クルーの心理動向データベースを早目に作成して・・それをどんどんアップデートしていって下さい・・アンブローズ機関部長・・全機関部員と共にエンジニアリングマニュアルを徹底的に読み合わせて下さい・・艦内にあるメンテナンスハッチの位置は、全クルーで共有するようにしましょう・・伝達や循環のパワーアセンブリラインとそのサイクルは早目に総て記憶して、緊急事態の際には躊躇なくバイパス出来るようにしましょう・・観測室長に就任される方に申し上げます・・求められるのは広範囲で多岐に亘る正確で詳細な情報と・・簡潔で的確な表現と評価です・・メイン・センサー・オペレーターに就任される方に申し上げます・・とにかく何かを観たら、それが物凄く短時間であっても気のせいだとは思わずに、自分の判断を信じて司令部に報告して下さい・・メインパイロットに就任される方に申し上げます・・艦体感覚と操艦に於ける艦の癖とエンジンと操縦システムのコンビネーションレベルは・・早目に把握しましょう・・それと、シャトルの操縦に於いては誰よりも早く習熟して下さい・・と・・まあ、今はここまでで宜しいでしょうかね・・?・・開幕まではまだ間もありますので、訊きに来てくれればお話します・・なので・・お昼にしませんか・・?・・」

「・・これは申し訳ありませんでした、アドルさん・・あまりに素晴らしいお話が続いておりましたので、時間の経過をつい失念しておりました・・重ねてお詫び申し上げます・・ではご来場の皆様・・お昼の時間もかなり過ぎてしまいましたが、昼食の用意が9階のスカイラウンジにて整っております・・立食パーティの形式にはなりますが、是非お楽しみ頂きたいと思います・・ではこれにて激励壮行会の第一部は終了とさせて頂きます・・立食パーティが開始されますと同時に、第二部の開会となります・・ご静聴、有り難うございました・!・・」

(・・立食パーティだって・?!・・ちゃんとした食事が摂りたいのに・・1階に降りて食って来ようかな・?・・ああ・・でも、おかずのカンパが怖いしな・・しようがない・・来賓の眼もあるからバクバク食う訳にもいかないしな・・ストレスにならない程度に食べよう・・)

そう思いながら周りを見渡したが、ウチのクルーメンバー達も大概やれやれと言った感じの風体だった・・。
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