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本編
44 真実と尻尾
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ゆっくりと瞼を開く。
初めに視界に入ったのは三角の耳。
いつも魔王関連で気を失った後に見るそれに、愛しさと笑いが込み上げてくる。
「ふふ」
「みのり!!!」
「っ、く、るし」
力一杯抱き締められて、潰されたカエルのような声が出そうになった。
「……リアン、みのりが苦しいだろ」
と、隣にいるシアンに助け出され後ろから抱え込まれる。
助け出されたは良いが、やはりピクリとも動けないように腕の中に閉じ込められた。
「もう、本当に心配したんだからね、俺達の言う事を守らないで勝手して」
「ぅ、ごめんなさい」
目の前に座るビオがみのりを覗き込み、手首で脈を取りながら怒る。
自分の行動に後悔は無いが、最後は気を失ってしまったし心配させてしまった。
「後でたっぷりお仕置きさせてくれれば良いよ♡」
「ぇと…」
「まぁ、予想してたから良いけど」
と続く言葉に驚いた。
(予想されていた?)
「魔王の力はほとんど削ったから、大丈夫かなって見逃してあげたんだよ?」
みのりが何かしらの力で魔王の元に来るのは分かっていた。
ここまで介入している神がこの物語の主要人物を待ちぼうけにさせる訳が無い。
みのりを遠ざけたのは、万が一があって欲しく無いから。
彼女に檻に閉じ込められるとは思わなかったが、魔王に取り込まれる前に、常時付けている分身に魔王の核を壊させる事だって出来た。
「リアンを説得するの大変だったんだから」
と苦笑してビオは言う。
特に頑固でな、とシアンは呆れた様子だ。
(じゃあ、自分が三人を閉じ込める必要は無かった?)
「でも、魔王を倒そうとしてた、よね?」
「みのちゃんが間に合わなかったらそうしてたかな?」
きっと間に合うと思ってたからね、と可笑しそうにクスクス笑うビオに、力が抜けると同時に沸々と怒りが湧いてくる。
連れて行かないと言われて、起きたら番の契約も解除されていて、全て一方通行だった。
仕方ないとしても、良いようにされてるみたいで凄く腹立たしく感じる。
今度絶対耳と尻尾を触らせてもらおう、と決意した。
コンコン
扉がノックされる。
(そういえばここは何処だろう、テントの中でも無いし)
みのりと三人は豪華な部屋の寝台にいた。
「良いかな?」
と扉から入って来たのは龍の王と人の姿に戻った魔王に、猿の王だ。
龍の王は何故かふにふにの魔王の手を握ってエスコートしている。
彼女は恐縮したように縮こまっているが、元気そうなみのりを見てホッとした、泣きそうな顔をする。
そんな彼女の手を引いて龍の王がソファに促すと、彼はその隣にピタリと腰掛けていつも以上にニコニコしていた。
魔王は恥ずかしそうに少しずつ離れようするが、ニコニコの彼は肉肉しい腰を抱いてそれを許さない。
「おい、早く始めろ」
同じく反対側のソファに座った猿の王が、呆れたように龍を急かす。
チラリと猿の王を見た後、
「本題に入る前に、みのりさんが目覚めて本当に良かった」
龍の王が話し始めるが、魔王の腰を抱く手はそのままだ。
「そして、魔王を助けてくれてありがとう」
「実はね、彼女は私の番だったんだ」
「え?」
驚いたのはみのりだけだ。
魔王は頬を染めて俯いているし、猿の王は「また好機を逃した」とボヤいている。
「先程ここに来る前に、魔王に事情を聞いていた時に気付いてね」
「瘴気からも何か良い匂いがするな、とは思ってたんだけど」
なるほどねって納得したよとニコニコしている龍の王だが、薄く開けられた目から垣間見える紅蓮の視線は彼女に纏わりついている。
「みのりさんには本当に感謝しても仕切れないから、後でお礼に私に出来る事はさせてもらうよ」
「叔父さん、俺達には?」
「君達も何かあったら頼ってくれて良いが、ビオはダメだ」
お前の頼みはえげつないからねと龍は言う。
「まぁ、それで良いよ」
とビオもニコリと返した。
「じゃあ、早速だけどこれを見て欲しい」
天井からスクリーンが降りてくる。
そこに映し出されたのは、同じく巨大なスクリーンを見ている人々だった。
耳や尻尾から猿獣人国の人々だ。
彼らは避難先で流される映像を様々な声を上げながら見ていた。
みのりや番達を傀儡にしろと勇者聖女に指示する子爵に、実際に彼らが食事に薬を盛る場面。
聖女と魔王の父である子爵が魔王を手懐け、世界を牛耳ろうと裏組織と話している場面。
勇者が雪穴の魔王に生贄を与える代わりに、言う事を聞くよう話している場面。
魔王になる前の彼女の日常を涙ながらに語る侍女や侍従。
(ここで魔王が「…私のために話してくれたの?」と呟いてちょっと泣いてた)
聖女や子爵夫妻の悪事を語る証人。
人身売買をしていた証拠である鎖を付けられた獣人達。
それらの映像は全世界に流され、各地では勇者聖女や子爵夫妻への非難に包まれた。
魔王の無実は証明され、彼女に同情する声が上がる。
闇の中でみのりと魔王が話している場面もあった。
人に戻った彼女が倒れたみのりを奇跡の力で回復させる光景に、「本物の聖女だ」とポツポツとその波は彼らの間に広がって行く。
そこで映像は止まった。
(本当に、良かった)
みのりは泣きそうになる。
彼女の真実が皆に知ってもらえたのだ。
そして自分が彼女に救って貰っていた事に驚いた。
「うん、こんな感じだね」
「この映像を全世界に流せたのは、みのりさんの召喚魔法を基にしたおかげだからね」
「重ねてお礼を言わせて欲しい」
みのりの召喚魔法によって、結界に干渉されず阻害される事の無い映像通信が可能となった。
それを今回、世界中に張り巡らせていた目を介して全世界に流したのだ。
私の召喚魔法が知られてると三人を確認すると、ニコリと微笑まれ頷かれる。
彼らが良いと思って話したのなら大丈夫なのだろう。
「みのり殿、我が国が迷惑を掛けた、そして我が民達を救ってくれて感謝する」
先程まで黙ったままだった猿の王が頭を下げるのに、みのりは慌てた。
「い、いえ、だ、大丈夫ですから、」
「因みに我が国に帰るつもりはないか?」
と顔を上げた猿の王が冗談めかして言う。
「猿の王?」
龍に嗜められた。
「しょうがないだろ、自国で魔王を作り上げてしまった上に、その魔王が聖女になったかと思ったら今度は龍の番と来た」
「俺は棚から牡丹餅までも取り逃す愚王と言われてしまうんだ」
どうせ元魔王は龍の国に連れてかれるんだろと猿の王は若干拗ねたように言う。
「引退すれば良いよ、番とイチャイチャ出来る」
貴方の気持ちが分かったよとモチモチの魔王を抱き寄せながら、龍は猿の王を見た。
魔王は真っ赤なリンゴのようだ。
「ああ、国が落ち着いたらすぐにそうするさ」
その様子を見た猿の王は呆れる。
「という訳で、功労者は事後処理は任せてゆっくり休んでね」
龍はみのり達に言い魔王の手を引いて立ち上がった。
「ぁ、あの!」
魔王が立ち止まり、みのりを向いた。
「み、みのりさん、ぁの、、ありがとうございました」
「その……もし良ろしければ、その…後でまた、お話しさせて下さぃ」
赤くなったり青くなったりしながら、そう伝えてくる魔王はとても可愛い。
「はいっ、私からもお願いします、あと、た、助けてくれてありがとうございます」
あれだけ魔王と話したとは言え、元はコミュ障。
気恥ずかしくなって顔が赤らんでしまう。
それを見た魔王と二人でふふふと笑い合っていると、龍の王が彼女を抱き寄せた。
出て行く間際までみのりを見ていた魔王は、ペコリとお辞儀をして部屋を出て行く。
パタン
扉が閉まり、魔王討伐が無事終わったと実感が湧く。
何か一つでも間違えていたら、最悪な未来になったかもしれない。
こうして彼女と笑い合えたのは、三人のおかげだと思う。
「リアンさん、シアンさん、ビオさん、ありがとう」
「じゃあみのちゃん、お仕置きとご褒美どっちが良い?」
と感慨深い気持ちでいたみのりを現実に戻すように、ビオがベッドの上でにじり寄ってくる。
「ぁ、」
その姿は羊な筈なのに肉食獣のようで、全部余す所なく美味しくいただかれてしまいそうな予感がした。
後ろから耳に掛かるシアンの吐息も熱くて、隣にいるリアンの瞳もギラついている。
触れられてもいないのにお腹の奥がズクンとして、体は彼らを受け入れる準備をしてしまう。
ピロリン♪
「え?」
そんな雰囲気を壊す様に音が鳴った。
メッセージの受信音だがみのりにしか聞こえない。
そして何故かお尻の辺りに違和感がある。
感じた事の無い感覚。
生まれた時からあるのが当たり前のような体の一部を感じる。
「みのり、尻尾……」
「え?」
そこを自分の前に来るように動かすと、白い尻尾がくねくねと飛び出して来た。
(白い、尻尾?)
不思議な感じ、とフリフリと振ってみる。
「「「……可愛い」な」」
固まっていた三人が突如掴もうとしてくるのを、咄嗟に自分で抱えるようにして守る。
何故だか彼らに触らせてはいけない気がした。
「「「………」」」
「みのちゃん?尻尾離して?」
「待って、メッセージが来てるの」
「神様からの?後で良いでしょ?」
ビオは新しいオモチャを貰った子どものようにワクワクと嬉しそうだ。
「ダメだよっ」
みのりは尻尾を服の下に隠して、片腕で守りながらボードのメッセージバナーをタップした。
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