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133話、勇者VS魔王
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「おばちゃん、こんにちはー!」
「こんにちは」
「はい、こんにちは」
店内の薄暗さをものともしない、コータロー君の明るい挨拶に続く、控え気味なハルの挨拶。店内は風通しが良くて、心地よい涼しさになっている。
「あら、あなた達も来てくれたのねぇ」
「ええ、お邪魔するわ」
「おばちゃん、こんにちは!」
私達の存在に気付いてくれた、いつも通りのっぺりした座布団に正座しているおばちゃんへ、軽くお辞儀をする。
ここへ来る度、愛嬌のある優しい笑顔で対応してくれるから、つい頭を下げちゃうのよ。
「おばちゃん、今日は私の友人を連れて来たわ」
「春茜です、よろしくお願いします」
私がハルに手をかざして紹介すると、ハルはおばちゃんに向かい、お手本のようなお辞儀をした。
外食しに行った時も、そうだったけど。こういう時のハルって、決まって腰が低く丁寧に接するのよね。
ついさっきまで、魔女笑いをしながらコータロー君を裁いていたというのに。あのやり取りが、まだ記憶に残っているから、違和感を覚えるわ。
「こちらこそ、よろしくお願いしますねぇ。春茜さんも、よく話を聞いていますよ」
「あれ、そうなんですか?」
「ええ。八百屋さんに、哲さんが居るでしょう? 自治会でよく会っているんですけど、たまに春茜さんについてお話していましてねぇ」
「ああ、そうなんですね。あちゃ~、恥ずかしい」
本当に恥ずかしがっているらしく。緩い苦笑いをしたハルが、頬を指で掻いた。自治会、なるほど。私の名前や容姿が、商店街の人達に広まったのも、あの人からなのね。
私も八百屋に行ってから、一、二週間ぐらいだったかしら? 気付けばもう、行った事の無いお店の店員にも、挨拶をされていたっけ。
「なあ、アカ姉。話はそれぐらいにして、勝負しようぜ勝負!」
「おっと、そうだね。それじゃあ、一旦失礼します」
「そうですか。では、ごゆっくりどうぞ」
痺れを切らしたコータロー君が、店内の奥へ駆けていったので、私もおばちゃんに会釈をしてから付いていった。
「アカ姉、メリーお姉ちゃん、こっちこっち!」
私達が居た場所から、陳列棚を一つ越えた先。とある陳列棚の前で、片手を大きく挙げたコータロー君を見つけ、近づいて行く。
「さあさあ、来てやったぞ。で、どれで勝負するんだい?」
「へっへーん。おれが考えた勝負は~……、じゃーん! これだっ!」
おばちゃんと離れ、いつもの調子に戻ったハルが、両手を組んで改めて聞き。
ワンパク気味にニヤリと笑ったコータロー君が、右隣にあった棚へ手を突っ込み、掴んだ物を私達に見せてきた。
「おっ、『ヤッタァメン』じゃん」
「そう! おれが考えた勝負は、誰が一番高い当たりを引けるか勝負だ!」
「へぇ、面白そうね」
勝負の内容を元気よく宣言したコータロー君が、空いた手でガッツポーズをする。『ヤッタァメン』。当たり金額の内訳は、分からないものの。
ラーメンを食べながら箸で百円玉を掴んで、驚いている人間が描かれた蓋の裏に、当たった分の金額が記されているのよね。
それで百円と書かれていたら、その当たり券で、なんと百円分のお買い物が出来るらしい。
まるで夢のような駄菓子だ。百円を当て続けたら、億万長者になれるんじゃないかしら?
「なるほどぉ? プロの私に、そんな勝負を仕掛けてくるとはね。いいのかい? コータロー君。きっと後悔するぜぇ~?」
「プロ?」
「春茜お姉さんって、すごいんだよ! 百円の当たりを、二回連続で引いたことがあるんだって!」
「え、そうなの? 確かに、それはすごいわね」
つまり二十円で、二百円分の駄菓子を買えるようになった訳でしょ? とんでもない話ね、それ。
ブタメェンなら、三つ。一個八十円の『グルグルもんじゃ』だって、二つも買えるじゃない。
「まっ、遠い昔の話さ」
きざったらしく前髪をかき上げ、男勝りなドヤ顔を決めるハル。鼻で笑っているし、ここまで清々しいキザなハルは、初めて見たわ。
「後悔すんのは、アカ姉の方だぜ? ここでアカ姉に勝って、おれがプロになってやる!」
「ほ~う? なら私は、大人の本気ってやつを見せてやろうじゃあないの。ここで百円の当たりを引いて、絶望の底へ叩き落としてやるぜぇ」
ハルって、コータロー君達の前だと、テンションが未だかつてないほど高くなるわね。笑い方も邪悪だし、まるで、コータロー君が勇者。ハルが魔王みたいな構図になっている。
けど、いかんせん、表情が魔王になり切れていない。どちらかと言うと、盗賊の下っ端みたいな小物感に溢れているわ。
「よーし! わたしも当たりを引いて、春茜お姉さんに勝つぞー!」
「なら、私も頑張ってみようかしら」
簡単に言ってしまえば、駄菓子が付いた一回十円の運試しだというのに。気持ちがだんだん弾んできて、楽しくなってきたかもしれない。
よし。ちょっと恥ずかしいから、口には出さないけれども。ここで百円の当たりを引いて、プロのハルに勝ち、場を更に盛り上げてみせるわよ!
「こんにちは」
「はい、こんにちは」
店内の薄暗さをものともしない、コータロー君の明るい挨拶に続く、控え気味なハルの挨拶。店内は風通しが良くて、心地よい涼しさになっている。
「あら、あなた達も来てくれたのねぇ」
「ええ、お邪魔するわ」
「おばちゃん、こんにちは!」
私達の存在に気付いてくれた、いつも通りのっぺりした座布団に正座しているおばちゃんへ、軽くお辞儀をする。
ここへ来る度、愛嬌のある優しい笑顔で対応してくれるから、つい頭を下げちゃうのよ。
「おばちゃん、今日は私の友人を連れて来たわ」
「春茜です、よろしくお願いします」
私がハルに手をかざして紹介すると、ハルはおばちゃんに向かい、お手本のようなお辞儀をした。
外食しに行った時も、そうだったけど。こういう時のハルって、決まって腰が低く丁寧に接するのよね。
ついさっきまで、魔女笑いをしながらコータロー君を裁いていたというのに。あのやり取りが、まだ記憶に残っているから、違和感を覚えるわ。
「こちらこそ、よろしくお願いしますねぇ。春茜さんも、よく話を聞いていますよ」
「あれ、そうなんですか?」
「ええ。八百屋さんに、哲さんが居るでしょう? 自治会でよく会っているんですけど、たまに春茜さんについてお話していましてねぇ」
「ああ、そうなんですね。あちゃ~、恥ずかしい」
本当に恥ずかしがっているらしく。緩い苦笑いをしたハルが、頬を指で掻いた。自治会、なるほど。私の名前や容姿が、商店街の人達に広まったのも、あの人からなのね。
私も八百屋に行ってから、一、二週間ぐらいだったかしら? 気付けばもう、行った事の無いお店の店員にも、挨拶をされていたっけ。
「なあ、アカ姉。話はそれぐらいにして、勝負しようぜ勝負!」
「おっと、そうだね。それじゃあ、一旦失礼します」
「そうですか。では、ごゆっくりどうぞ」
痺れを切らしたコータロー君が、店内の奥へ駆けていったので、私もおばちゃんに会釈をしてから付いていった。
「アカ姉、メリーお姉ちゃん、こっちこっち!」
私達が居た場所から、陳列棚を一つ越えた先。とある陳列棚の前で、片手を大きく挙げたコータロー君を見つけ、近づいて行く。
「さあさあ、来てやったぞ。で、どれで勝負するんだい?」
「へっへーん。おれが考えた勝負は~……、じゃーん! これだっ!」
おばちゃんと離れ、いつもの調子に戻ったハルが、両手を組んで改めて聞き。
ワンパク気味にニヤリと笑ったコータロー君が、右隣にあった棚へ手を突っ込み、掴んだ物を私達に見せてきた。
「おっ、『ヤッタァメン』じゃん」
「そう! おれが考えた勝負は、誰が一番高い当たりを引けるか勝負だ!」
「へぇ、面白そうね」
勝負の内容を元気よく宣言したコータロー君が、空いた手でガッツポーズをする。『ヤッタァメン』。当たり金額の内訳は、分からないものの。
ラーメンを食べながら箸で百円玉を掴んで、驚いている人間が描かれた蓋の裏に、当たった分の金額が記されているのよね。
それで百円と書かれていたら、その当たり券で、なんと百円分のお買い物が出来るらしい。
まるで夢のような駄菓子だ。百円を当て続けたら、億万長者になれるんじゃないかしら?
「なるほどぉ? プロの私に、そんな勝負を仕掛けてくるとはね。いいのかい? コータロー君。きっと後悔するぜぇ~?」
「プロ?」
「春茜お姉さんって、すごいんだよ! 百円の当たりを、二回連続で引いたことがあるんだって!」
「え、そうなの? 確かに、それはすごいわね」
つまり二十円で、二百円分の駄菓子を買えるようになった訳でしょ? とんでもない話ね、それ。
ブタメェンなら、三つ。一個八十円の『グルグルもんじゃ』だって、二つも買えるじゃない。
「まっ、遠い昔の話さ」
きざったらしく前髪をかき上げ、男勝りなドヤ顔を決めるハル。鼻で笑っているし、ここまで清々しいキザなハルは、初めて見たわ。
「後悔すんのは、アカ姉の方だぜ? ここでアカ姉に勝って、おれがプロになってやる!」
「ほ~う? なら私は、大人の本気ってやつを見せてやろうじゃあないの。ここで百円の当たりを引いて、絶望の底へ叩き落としてやるぜぇ」
ハルって、コータロー君達の前だと、テンションが未だかつてないほど高くなるわね。笑い方も邪悪だし、まるで、コータロー君が勇者。ハルが魔王みたいな構図になっている。
けど、いかんせん、表情が魔王になり切れていない。どちらかと言うと、盗賊の下っ端みたいな小物感に溢れているわ。
「よーし! わたしも当たりを引いて、春茜お姉さんに勝つぞー!」
「なら、私も頑張ってみようかしら」
簡単に言ってしまえば、駄菓子が付いた一回十円の運試しだというのに。気持ちがだんだん弾んできて、楽しくなってきたかもしれない。
よし。ちょっと恥ずかしいから、口には出さないけれども。ここで百円の当たりを引いて、プロのハルに勝ち、場を更に盛り上げてみせるわよ!
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