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132話、子供な大人と、子供に通ずる挨拶
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「あっ! アカ姉もいるー! おーい、アッカ姉ー!」
「メリーお姉さーん!」
駄菓子屋がある裏路地に入ったと、ほぼ同時。熱を帯びた空気を、まとめて吹き飛ばしかねないコータロー君達の元気な声が、前からぶつかってきた。
二人して、ニコニコしながら大きく手を振っている。ほんと、いつ見ても微笑ましいわね。あと……。
「あんた、コータロー君にはアカ姉って呼ばれてるのね」
「そうなのよ。私も気に入ってるんだ」
手を振り返しているハルが、ワンパク気味にニッと笑う。なるほど。私は春茜の春から取って、ハルと呼んでいるけれども。コータロー君は、茜の方から取ったのね。
私も手を振り返しつつ、二人が居る方へ向かっていく。駄菓子屋の前まで来ると、後頭部に両手を回したコータロー君が、弾けんばかりの笑顔になった。
「二人共、こんにちは」
「メリーお姉ちゃん、こんにちは!」
「メリーお姉さん、春茜お姉さん、こんにちは!」
コータロー君とは相反し、丁寧にペコリとお辞儀をするカオリちゃん。けど、笑顔の眩しさは、コータロー君にも負けていない。
「コータロー君もカオリちゃんも、今日は暑いのに元気ね」
「えっ!? メリーお姉ちゃん、なんでおれ達の名前知ってんの?」
「一回も言ってないのに」
ハルに教えてもらった名前を言ってみると、二人は驚いた様子で目をきょとんとさせた。しかも、不思議そうな眼差しで『教えて』と訴えかけてきている。
表情や眼差しで、今思っている事が丸分かりだわ。たぶんこの子達、嘘をついてもすぐにバレちゃいそうね。
「ハルに教えてもらったのよ。男の子がコータロー君で、女の子がカオリちゃんだよってね」
「ハルって……」
「春茜、お姉さん?」
「そうでーす」
不思議そうな気持ちに拍車が掛かった二人の眼差しが、ゆっくりハルの方へ移動し。緩い表情をしていたハルが、指でブイサインを作りながら答えた。
「お、おおっ! やるじゃん、アカ姉! おれ達、ずっと緊張してて名前を言えなかったんだよ!」
「わたしもわたしも! 春茜お姉さん、ありがとうございます!」
「え? 二人共、ずっと緊張してたの?」
そんな素振りなんて、見せていなかったはずだけれども。今まで、笑顔を絶やさず接してきてくれていたのに、まさか二人して緊張していただなんて。
「えへへへ……。実は、そうだったんだ」
「メリーお姉ちゃんってめっちゃ美人だし、すごく大人な感じがして、つい緊張しちゃうんだ」
「あら、そうだったのね」
この私が、すごく美人で大人な感じがする。それが、二人して私に緊張感を抱いていた理由。美人っていう感想は、この前ハルからも聞いていたけど……。
へぇ、そうなんだ。子供の目線だと、私って大人なのね。どうしよう、なんだか言いようのない嬉しさが込み上げて───。あれ、ちょっと待って?
「あの、二人共? ハルだったら緊張しないの?」
「ほら。アカ姉って、おれ達と同じ子供じゃん? だから、全然大丈夫だよ!」
「おい、誰が子供だって? こう見えてもなぁ、私だって大人なんだぞぉ~?」
子供に子供だと言われて、カチンときたらしく。大人げないハルが、コータロー君の両頬をつまみ、軽く伸ばしていく。珍しいわね、温厚なハルが怒るだなんて。
「ああ~、死ぬぅ~……」
「大人な私を子供と言った罰じゃ~、苦しむがよい~」
「ちょっと、ハル? コータロー君が痛がってるわよ? そろそろやめなさい」
「大丈夫大丈夫。これ、私達流の挨拶みたいなもんだから」
「え? そうなの?」
よく見てみると、コータロー君は大人しく立っていて、あまり痛そうな顔をしていないかも。
けど、頬がまあまあ伸びているわよ? 本当に痛くないのかしら? あれ。
「コータロー君。いつも春茜お姉さんにちょっかい出して、あんな風にやられてるんだ」
「あっ、そうなのね」
それで、普段からあんなやり取りをしていると。それにしても、ハル。小悪党さながらの表情をしていて、「ひぇっひぇっひぇっ」と魔女みたいに笑っている。もう、ノリノリじゃない。
コータロー君の両頬を伸ばし始めてから、数秒後。魔女と化したハルは、コータロー君の頭に手をポンッと置き、撫で回して立ち上がった。
「うっし、処罰完了っと」
「よっしゃ! なあ、アカ姉、メリーお姉ちゃん! これから勝負しようぜ!」
「勝負?」
「わたしとコータロー君で、お菓子を使った遊びを考えたんだ!」
処罰とやらが終わり、すぐさま元気を取り戻したコータロー君に、カオリちゃんが説明を挟む。
コータロー君の両頬、まったく赤くなっていないわね。ハル、ちゃんと手加減していたんだ。
「へぇ~、駄菓子を使った勝負。面白そうじゃん。どんな勝負なの?」
「それは、入ってからのお楽しみだよ! アカ姉、メリーお姉ちゃん、早く行こうぜ!」
「しゃーない、受けて立ってやろうじゃあないの」
左手の平に右手の拳を当てて、『パンッ』と鳴らしたハルが、先に駄菓子屋へ入店したコータロー君の後を追っていく。
「メリーお姉さんも、早く行こ!」
「そうね、行きましょう」
カオリちゃんに催促されたので、待たせないよう隣に付きつつ、私達も駄菓子屋へ入った。駄菓子を使った勝負って、一体なんなのかしら? 楽しみにしていよっと。
「メリーお姉さーん!」
駄菓子屋がある裏路地に入ったと、ほぼ同時。熱を帯びた空気を、まとめて吹き飛ばしかねないコータロー君達の元気な声が、前からぶつかってきた。
二人して、ニコニコしながら大きく手を振っている。ほんと、いつ見ても微笑ましいわね。あと……。
「あんた、コータロー君にはアカ姉って呼ばれてるのね」
「そうなのよ。私も気に入ってるんだ」
手を振り返しているハルが、ワンパク気味にニッと笑う。なるほど。私は春茜の春から取って、ハルと呼んでいるけれども。コータロー君は、茜の方から取ったのね。
私も手を振り返しつつ、二人が居る方へ向かっていく。駄菓子屋の前まで来ると、後頭部に両手を回したコータロー君が、弾けんばかりの笑顔になった。
「二人共、こんにちは」
「メリーお姉ちゃん、こんにちは!」
「メリーお姉さん、春茜お姉さん、こんにちは!」
コータロー君とは相反し、丁寧にペコリとお辞儀をするカオリちゃん。けど、笑顔の眩しさは、コータロー君にも負けていない。
「コータロー君もカオリちゃんも、今日は暑いのに元気ね」
「えっ!? メリーお姉ちゃん、なんでおれ達の名前知ってんの?」
「一回も言ってないのに」
ハルに教えてもらった名前を言ってみると、二人は驚いた様子で目をきょとんとさせた。しかも、不思議そうな眼差しで『教えて』と訴えかけてきている。
表情や眼差しで、今思っている事が丸分かりだわ。たぶんこの子達、嘘をついてもすぐにバレちゃいそうね。
「ハルに教えてもらったのよ。男の子がコータロー君で、女の子がカオリちゃんだよってね」
「ハルって……」
「春茜、お姉さん?」
「そうでーす」
不思議そうな気持ちに拍車が掛かった二人の眼差しが、ゆっくりハルの方へ移動し。緩い表情をしていたハルが、指でブイサインを作りながら答えた。
「お、おおっ! やるじゃん、アカ姉! おれ達、ずっと緊張してて名前を言えなかったんだよ!」
「わたしもわたしも! 春茜お姉さん、ありがとうございます!」
「え? 二人共、ずっと緊張してたの?」
そんな素振りなんて、見せていなかったはずだけれども。今まで、笑顔を絶やさず接してきてくれていたのに、まさか二人して緊張していただなんて。
「えへへへ……。実は、そうだったんだ」
「メリーお姉ちゃんってめっちゃ美人だし、すごく大人な感じがして、つい緊張しちゃうんだ」
「あら、そうだったのね」
この私が、すごく美人で大人な感じがする。それが、二人して私に緊張感を抱いていた理由。美人っていう感想は、この前ハルからも聞いていたけど……。
へぇ、そうなんだ。子供の目線だと、私って大人なのね。どうしよう、なんだか言いようのない嬉しさが込み上げて───。あれ、ちょっと待って?
「あの、二人共? ハルだったら緊張しないの?」
「ほら。アカ姉って、おれ達と同じ子供じゃん? だから、全然大丈夫だよ!」
「おい、誰が子供だって? こう見えてもなぁ、私だって大人なんだぞぉ~?」
子供に子供だと言われて、カチンときたらしく。大人げないハルが、コータロー君の両頬をつまみ、軽く伸ばしていく。珍しいわね、温厚なハルが怒るだなんて。
「ああ~、死ぬぅ~……」
「大人な私を子供と言った罰じゃ~、苦しむがよい~」
「ちょっと、ハル? コータロー君が痛がってるわよ? そろそろやめなさい」
「大丈夫大丈夫。これ、私達流の挨拶みたいなもんだから」
「え? そうなの?」
よく見てみると、コータロー君は大人しく立っていて、あまり痛そうな顔をしていないかも。
けど、頬がまあまあ伸びているわよ? 本当に痛くないのかしら? あれ。
「コータロー君。いつも春茜お姉さんにちょっかい出して、あんな風にやられてるんだ」
「あっ、そうなのね」
それで、普段からあんなやり取りをしていると。それにしても、ハル。小悪党さながらの表情をしていて、「ひぇっひぇっひぇっ」と魔女みたいに笑っている。もう、ノリノリじゃない。
コータロー君の両頬を伸ばし始めてから、数秒後。魔女と化したハルは、コータロー君の頭に手をポンッと置き、撫で回して立ち上がった。
「うっし、処罰完了っと」
「よっしゃ! なあ、アカ姉、メリーお姉ちゃん! これから勝負しようぜ!」
「勝負?」
「わたしとコータロー君で、お菓子を使った遊びを考えたんだ!」
処罰とやらが終わり、すぐさま元気を取り戻したコータロー君に、カオリちゃんが説明を挟む。
コータロー君の両頬、まったく赤くなっていないわね。ハル、ちゃんと手加減していたんだ。
「へぇ~、駄菓子を使った勝負。面白そうじゃん。どんな勝負なの?」
「それは、入ってからのお楽しみだよ! アカ姉、メリーお姉ちゃん、早く行こうぜ!」
「しゃーない、受けて立ってやろうじゃあないの」
左手の平に右手の拳を当てて、『パンッ』と鳴らしたハルが、先に駄菓子屋へ入店したコータロー君の後を追っていく。
「メリーお姉さんも、早く行こ!」
「そうね、行きましょう」
カオリちゃんに催促されたので、待たせないよう隣に付きつつ、私達も駄菓子屋へ入った。駄菓子を使った勝負って、一体なんなのかしら? 楽しみにしていよっと。
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