私、メリーさん。今、あなたと色んな物を食べているの

桜乱捕り

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112話、フレークの楽しみ方

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「メリーお母様、牛乳でございます」

「ありがとう」

 私に説教をされて、一時的に改心したハルが、牛乳を皿に注いでいく。さっきの割と効果てきめんね。無茶をして怪我をされたくないから、その都度それっぽく叱ってみよう。
 フレークが完全に浸り切る前に、注ぐのを止め。今度は自分の皿に牛乳を注ぎ始め、私と同じぐらいの量までくると、牛乳の容器をテーブルに置いた。

「さあさあ、待望のコーンブロスティよ。お腹もすいたし、いっぱい食べるぞー」

「それじゃあ、私も食べようかしらね」

 右手にスプーンを持ち、全体が牛乳と馴染むよう、山になった部分を崩して軽くかき混ぜる。しかし、馴染ませ過ぎるのも禁物。
 こういったフレークは、時間が経つと牛乳を吸って、食感が変わっていくのよね。最初は固い食感を味わってみたいから、早く食べてよっと。

「う~んっ、牛乳とすごく合う」

「ああ~、うんまっ! これよこれ! さいっこう~……」

 まず先行するは、フレークにまぶされていた砂糖が溶け込み、いつもより甘さが濃く感じる牛乳の風味。けど、ただ甘さが強くなっただけじゃない。
 コクと甘さに深みが増して、嬉しい美味しさがプラスされている。これはたぶん、フレークがあればある分だけ甘くなっていきそうね。
 そして、メインのフレーク。まだ牛乳を注いだばかりなので、固さは健在。でも、何もかけていない時に比べると、流石に少し柔らかくなってきたかも。
 香ばしさは、牛乳のお陰で丸みを帯びている。軽かった口当たりも、水分が加わった事により食べ応えが出てきた。

 やっぱり、この香ばしさって、ポップコーンに近い物があるわね。でも、ポップコーンは塩やバターと。フレークは、牛乳と合う。ならば、逆も然りなのでは?
 しかし、作り方の工程が違うせいか。逆の味付けだと、なんだか合わないような気がするのよね。なぜなのかしら? とても不思議だわ。

「え、嘘? 時間が経つと、こんなに柔らかくなっちゃうの?」

 半分ぐらい食べた辺りから、パリパリとした食感は完全に無くなり。上顎と舌さえあれば、事足りるほど柔らかくなってしまった。
 牛乳も特有のコクが薄まり、際立った甘さだけが前面に出てきている。見た目だけが駄菓子チックだったのに、甘さもだんだん近づいてきているわ。
 時間が経てば経つほど、風味や食感が様変わりしていくフレークよ。ちょっと忙しい食べ物だけど、色んな楽しみ方があって面白いわね。

「最後まで取っておいた牛乳、なんだかクセになる甘さね。おかわりしよっと」

「いやぁ~、隣の県まで行った甲斐があったや。めっちゃ美味え~。あっ、メリーさん。私の皿にも入れて~」

「いいわよ、どれぐらい入れる?」

「山盛りでお願いしますっ!」

 元気よく、皿を私に差し出してきたかと思えば。ハルったら、いくらなんでも急ぎ過ぎよ。フレークは完食しているけど、おいしい牛乳が沢山残っている───。
 いや、待てよ? フレークの甘さと旨味が移った牛乳に、新たなフレークを注ぎ出すと、更においしくなるのでは?
 なるほど? ハルめ、フレークの楽しみ方まで知っているとは。恐れ入ったわ。

「分かったわ。止めて欲しくなったら、言ってちょうだい」

「了解! ……もっと、もっともっと。ああ~、OK! ありがとう!」

 文字通り、山盛りになるまで止めなかったわね。あれだけあったら、最高の牛乳が出来上がるじゃない。よし、私も真似しよう。

「っと、そうだ。メリーさん。話したい事があるんだけど、ちょっといい?」

「話したい事? ええ、いいわよ」

「ありがとう! んっとね~」

 唐突に話を切り出してきたハルが、ポケットからスマホを取り出し、画面をいじり出す。

「もう少しで梅雨が明けるじゃん? それでさ、梅雨明けを祝して、また外食したいと思ってるんだ」

「外食?」

「そっ! 一応、行きたい店は仮で決めててね。ほら、ここ」

 話を進めていくハルが立ち上がり、私の横まで移動してくると、座りながらスマホをテーブルに置いた。

「どれどれ……、ん? な、なんて読むの? これ。『たのたの』?」

「惜しいっ。『楽楽らくらく』っていう居酒屋だよ」

「あっ、そっちで読むのね」

 ハルが置いたスマホには、『楽楽』というお店のメニュー表が載っており。料理という名目だけで、ざっと七十品目以上あった。
 鉄鍋餃子、子持ちししゃも、熱々カルビステーキ、刺身の五点盛り。生ハムとモッツァレラチーズのサラダ、もつ鍋、つけ麺、玉子焼き、ポテトフライ、豚トロ塩チャーハンなどなど。
 種類がかなり豊富で、一日では食べ切れないであろう多種多様な料理がある。もちろん、私の大好きな唐揚げもあれば───。

「あっ、軟骨の唐揚げもある」

「ほほう、早速見つけたね? お目が高い」

 軟骨の唐揚げって。確か、かなり前にリクエストをしたけど、まだ夕食に出てきていない料理だったような? すっかり忘れていたわ。
 どうしよう。思い出したからには、だんだん食べたくなってきちゃった。この石鍋カルビクッパも、食欲をそそる見た目をしているわねぇ。けれども……。

「ねえ、ハル? 梅雨が明けたぐらいで祝うのって、なんだかやり過ぎじゃない?」

「何をおっしゃいますか、メリーさん。梅雨の時期を振り返ってみなよ。まあまあ大変だったんじゃない?」

「う~ん……。言われてみれば、そうね」

 買い物へ行く時は、決まって傘を差し。スーパーに着けば、水気を払った傘を袋に入れ。部屋へ帰って来た頃には、買い物袋や着ている服が濡れていた。
 それになんだか、普通に歩いているだけでも気疲れするのよね。また雨が降っていると、少なからず気落ちもしていたし。ほんと、鬱陶しかったわ。

「でしょ? 私も調理学校に行く時は、めちゃくちゃ苦労したよ。行き帰りだけでストレスも溜まったさ。けど、それからようやく解放されるんだ。これを祝わずとして、いつ祝う!? だからさ、鬱憤を晴らしながら、美味しい料理を食べまくろうじゃないの!」

「ふ~ん……。そう考えると、いいかも。けど、ここって居酒屋でしょ? あんた、お酒は飲めるの?」

「いや、全然飲めないよ。少しでも飲んだらベロンベロンになって、メリーさんにダル絡みすると思う」

「そ、そう……。じゃあ、飲むのは絶対に止めた方がいいわね」

 居酒屋に行くけど、お酒は一滴も飲まない。要は、料理をガンガン食べる感じね。けど、このカルーアミルクっていうお酒、なんだか甘くておいしそうな名前をしている。
 まあ、無理して飲む必要はない。ソフトドリンクに、コーラがある事だし。油を大量を含んだ料理を、これでもかってぐらいに攻めてやろうじゃないの。

「それで、いつ行くの?」

「そうだな~。もうすぐ梅雨が明けるみたいだし、土曜日の夕方にでも行こっか」

「そうね、そうしましょうか」

 よし! ならば、時間はたっぷりある。お店に着いてから悩むのもアレだから、先に食べたい料理を決めておこう。ふふっ、どれを食べようかしら。
 当然、軟骨の唐揚げは食べるでしょ? この、ねぎの豚玉焼っていうのも気になる。ホッケは、どうしようかしらね。すごくおいしいって聞くし、本当に悩むわ。
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