私、メリーさん。今、あなたと色んな物を食べているの

桜乱捕り

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111話、食欲に対する情熱

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「私、メリーさん。今、なぜかあなたのベッドで寝ているの」

『おはよー。あんさん、入る布団をまた違えてましたぜ?』
 
「……いいえ。これは、何かの陰謀よ。あんた、また私をベッドに連れ込んだわね?」

『またって……。前回も私がやったような言い方すんの、やめてくんない?』

 寝心地が妙に良いと思っていたら……。なんで私は、またハルのベッドに居るの? 昨夜は、一度も起きていないというのに。
 それにしても、このマットレスよ。なんだかクセになる固さをしている。体があまり沈み込まないから、たぶん高反発だとして。
 寝返りがとてもしやすく、大の字で寝っ転がると、体にフィットしてものすごく落ち着く。布団のふわふわ具合も好きだけど、程よい固さをしたマットレスも良いわねぇ。
 背中がだんだん温かくなってきたから、また眠くなってきちゃった。口が勝手に大きく開き、狭まった視界が涙で潤んでいく。

「ふわぁ~っ……。私ぃ、メリーしゃん。今、あなたのベッドで二度寝しようとしているのぉ……」

『今回は、恥ずかしさより眠気が勝ったようだね。寝るんだったら、朝ご飯を食べてからにしてちょうだい』

「……ぐぅ」

『おーい、寝るなー。私のベッドは昼寝する時に使っていいから、早く来なさーい』

「んん~っ……」

 ハルのしつこい催促に、ベッドに張り付いていた背中を寝返りを打って剥がし、台所へ向かう。
 やや温い水で顔を洗い、うがいをしてから冷たい水を飲み。顔をタオルで拭き、ハルが待っている部屋まで歩いていった。

「やっと来たね。さあさあ、食べましょうぜ」

 ようやく開いてきた視界の先。テーブルの向かい側に、手を小さく振っているハルが見え。
 テーブルの上には、『コーンブロスティ』という大きく記された文字の下に、どこか元気溢れる虎らしき動物が描かれた箱。
 それと別皿に、手頃な大きさにカットされたリンゴと、封を開けていない新品の牛乳が一本置かれていた。

「これ、テレビで観た事があるわね。確か、フレークってやつだったっけ?」

「正解! なーんか、無性にこれが食べたくなってね。ジョギングしながらコンビニを回ってる内に、隣の県まで行っちゃってたよ」

「……あ、あんた。平日の朝っぱらから、すごい事をしてたのね」

「まあね。久々に長距離を走ったから、流石に疲れたや」

 とんでもない事を口走るも、疲れた様子をまるで見せていないハルが、緩い苦笑いを浮かべた。『コーンブロスティ』って、確か近くのスーパーで売っていたような気がするけれども……。
 早朝六時には開いていないから、わざわざこれが売っているコンビニを目指して、隣の県まで走っていったと? やはりハルって、食欲に対する情熱が凄まじいわね。

「なら、ちゃんと味わって食べないとね」

「おかわりは沢山あるから、いっぱい食べてちょうだい! そんじゃ、いただきまーす」

「いただきます」

 食事の挨拶を交わすと、ハルはコーンブロスティの箱を開け、中から銀色の袋を取り出す。更に銀袋の封を開け、私の皿に盛り付けをしてくれた。

「見た目は、なんだかお菓子っぽいわね」

 黄色くて小さなポテートチップスらしき見た目で、全体的に白い粉がまぶされている。実物を見ても味の想像がつかないから、牛乳をかける前に、一つだけつまんでみちゃおっと。

「へぇ~。見た目通り、パリパリした食感をしてるわね」

 それでいて深い香ばしさがあり、ほんのりと甘い。白い粉の正体は、きっと砂糖ね。あと、この食べやすい香ばしさよ。なんだか最近食べた物と、似たような既視感がある。

「そうそう。昨日の夜、駄菓子を食べたじゃん? それで朝食に、それっぽい物を食べたくなってさ。一番最初に浮かんだのが、コーンブロスティだったんだ」

「あ、そんな理由があったんだ」

「うん。でもさ、朝の六時ってコンビニぐらいしかやってないじゃん? そのコンビニを回りまくってたら、隣の県まで行っちゃったわけよ」

「は、はぁ……」

 改めてコーンブロスティを朝食に選んだ真相を聞いても、なるほどとは思い難い。ただただ、あんたの行動力の凄さが増していくばかりよ。

「途中で、諦めるって選択肢は無かったの?」

「まったく無かったね~。お陰で見つけた時の達成感は、半端なかったよ? 心の中でよっしゃー! って、叫んじゃった」

「そ、そう。よかったわね、無事に見つかって」

「マジでよかったよ。見つけられてなかったら、まだ走ってたんじゃないかな?」

 さも当然のように言い放ったハルが、牛乳の封を器用に開ける。冗談半分の言ったつもりだろうけど、ハルだったら本当にやりかねないわね。

「休日ならまだしも……、今日は平日なんだからね? 調理学校には、ちゃんと行きなさいよ?」

「分かってるって。時間はまだ余裕があるし、ゆっくりしてから行くよ」

「それに、いっぱい走ったんだから、当然汗もかいてるわよね? 時間に余裕があるなら、シャワーぐらい浴びなさいよ?」

「……あのー、メリー様? たまに、マジのお母さんっぽくなるの、やめてくんない? 朝食前にしっかり浴びましたので、大丈夫です。はい」

「そう、ならいいわ」

 一応、ハルの為の想って確認してみたものの。どうやら大丈夫そうね。現在の時刻は、七時二十分前。うん。ハルが言った通り、時間の余裕もありそうだわ。
 よしよし。これなら、朝食をゆっくり味わえるわね。念の為、朝食を食べ終わったら、忘れ物が無いかチェックしておこう。
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