私、メリーさん。今、あなたと色んな物を食べているの

桜乱捕り

文字の大きさ
106 / 199

104話、商店街の有名人

しおりを挟む
「さってと。今日の食べ歩きは、ここでしようかしらね」

 目に付けたお店は、メイン通りの裏路地を入った場所にある、喧騒があまり届いてこない駄菓子屋。
 うん、いい雰囲気を醸し出しているじゃない。下町に佇んでいそうな見た目に、胸が躍ってくるわ。
 下屋に入ったので、傘を閉じて軽く水気を切る。傘立てに傘を置き、外よりも気持ちヒンヤリとした空気が漂う店内に入った。

「わあ、いっぱいあるわね」

 明かりの薄い店内には、インターネットやテレビで観た物から、初めて見る物が棚に陳列されていて、所狭しと並んでいる。
 ザリザリとしたコンクリート剥き出しの床が、またいい味を出しているわね。良きレトロ感を演出しているし、沢山ある駄菓子の光景に合っているわ。

「あら、いらっしゃい」

 早速、数ある駄菓子を物色しようとした矢先。奥の方から、おっとりとした声が聞こえてきたので、暗さに慣れてきた視界をそちらに向ける。
 薄暗さが更に際立つ、視界の先。のっぺりとした座布団に、ちょこんと正座をした人間のおばちゃんが居た。
 なんだか、おせんべいを焼くのが、妙に上手そうな印象を受ける見た目をしているわね。

「お邪魔してるわ。あんたが、ここの店員さん?」

「ええ、そうですよ。あなた、メリーさんでしょ?」

「あら、やっぱり知ってたのね」

「もちろん知ってますよ。噂はかねがね聞いてましたけど、やはり可憐で素敵ですねぇ」

「そ、そう。ありがとう」

 この駄菓子屋には、初めて来たというのに。どうやら、容姿まで細々と知れ渡っているらしい。もはや私を知らない人なんて、この商店街に居ないんじゃないかしら。

「それで、今日は何をお求めで?」

「そうねぇ……」

 事前に、食べたい駄菓子はピックアップしてきたものの。こうも大量にあると、視線を横に滑らせるだけで、食欲がどんどん移り変わっていってしまう。
 私が食べようとしていたのは、『うんめぇ棒コーンポタージュ味』、『ベビースターダストラーメン』、『わさびのり次郎』の三つ。
 しかし『酢だこ四郎』、『ジャーキーするめ』や『カルパッス』。『焼どんどん』、『サイダー餅』、『串カステラ』も捨て難い。
 小腹を満足させたいなら、ポン菓子の『ニンジン』、『サンダーブラック』、『ポテトフライチキン』、『こぉ~んポタージュ』を攻めるのもアリね。

「もう、全部食べてみたいわ」

「ふふっ。見かけによらず、食いしん坊さんなのねぇ。焦らなくても、お菓子は逃げないですよ」

「うっ……。た、確かに」

 そう、おばちゃんの言う通りだ。いくら欲望を膨らませても、ここに並んだ駄菓子は決して逃げ出さない。むしろ、いつでも食べてくれと待ち構えている。
 だったら、焦る必要はない。何度もここへ通い、その日に食べたくなった物を食べればいい。絶えぬ欲望の赴くままにね。

「なあ、あれ! メリーお姉ちゃんじゃね?」

「あっ、本当だ!」

「え?」

 突如として、室内の薄暗さを吹き飛ばしかねない、明るい声が背中を押してきたので、後ろを振り返ってみれば。
 白光を纏う入口に、嬉しそうな笑顔をした男女の子供が、私に指を差しながら立っていた。
 嘘でしょ? 一応、色んな人間と会話をしているから、ある程度は顔を知られているけれども。あんな子供にまで、私の存在が周知されているっていうの?
 そんな、私に興味津々の二人が、ビチョビチョの傘を傘立てに置き。共に走りながら近づいて来ては、ワクワクした表情で私を見上げた。

「なあ、あんた! メリーお姉ちゃんでしょ?」

「ええ、そうよ。こんにちは」

「やっぱ本物だ! すっげー!」

「わぁ~っ、キレイ~!」

 改めて問い詰めてきた子供に、挨拶を返すや否や。二人して目をギンギンにさせて興奮し出してしまった。
 私って、子供達の間では、どんな存在として知れ渡っているのかしら? 本物と言われたし……。まさか、都市伝説だってバレていないわよね?

「おれの母ちゃんが言ってたんだ! すっげー美人な人が、商店街によく来るって! 見たらすぐに、あんただってわかったよ!」

「あ、あら、そう。そう言われると、なんだか嬉しいわ。お母さんに、ありがとうって言っておいてちょうだい」

「うん、わかった!」

 へえ、私が美人。揚げ物専門店のおばちゃんには、可愛いと言われた事があるけれども。美人っていうのは、初めて言われたわ。
 私が美人、ねぇ。人間からしてみると、そう見られているんだ。美人って、どう振る舞えばいいんだろう? とりあえずは、いつもの様にしていよっと。

「それでそれで! ここにいるっていう事は、メリーさんお姉さんもお菓子を買うんでしょ? どのお菓子を買うの?」

 両手を握り、小刻みに上下へ揺らす女の子も、キラキラと輝かしい眼差しで質問をしてきた。子供っていうのは、なんとも無邪気なのね。
 普段だと、泣き喚いている姿しか見ていなかったから、すごく新鮮に感じるわ。

「とりあえず、うんめぇ棒とベビースターダストラーメン、わさびのり次郎を買おうと思ってるわ」

「あっ! おいしいよね、それ! わたしもよく食べてる! 置いてある場所知ってるから、案内してあげよっか?」

「あら、助かるわ。それじゃあ、案内してちょうだい」

「うん! 来て来て、こっちだよー!」

 終始笑顔の女の子が、男の子と一緒に駆け出していく。よく食べているという事は、駄菓子についても詳しいはず。
 だったら後で、あの子達のオススメを教えてもらおう。そうすれば、次回ここへ来た時に、迷わず駄菓子を買える。
 おいしい駄菓子も食べられるし、一石二鳥だ。とりあえず、今はあの子達を追い掛けないと。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...