101 / 138
101.年上
しおりを挟む
「あ……あの……ミゼアスって、今いくつなんでしょうか?」
ミゼアスの年齢が出てきたところで、アデルジェスははっとした。そういえば正確な年齢は教えてもらっていないのだ。
「確か、今年で二十一だよ」
「にっ、にじゅういち……!?」
ついアデルジェスは驚きの声をあげてしまう。
見かけよりかなり年上だというのは知っていた。しかし、自分よりも年上だとは思わなかったのだ。まさか二十代だったとは、考えもしなかった。
見かけどおりの年齢ではないと知ったとき、十七歳と推定した。アデルジェスが十九歳だから二歳差でちょうどよいとも思ったのだ。しかし実際は二歳差に違いはなかったが、ミゼアスのほうが年上だった。
「知らなかったのかね?」
「見かけより年上だっていうのは聞いていましたが、実際の年齢は初めて聞きました……」
「あの子が大病を患ったことは知っているかね?」
「はい、それは聞きました。その後遺症で成長が止まったと……」
「そうだね。あれはあの子が十五歳のときだった。十五歳の誕生祝いに『雪月花』を贈ったのだよ。名手が奏でれば花びらが舞うという花月琴だ。ミゼアスならできるだろうと思ったが、予想を超えて花吹雪にまでなったのだよ。驚いて、私は文献を調べた」
花吹雪を出せた弾き手はその後まもなく亡くなっていると、ミゼアスは言っていたような気がする。
「すると、今まで花吹雪を出した者はその後間もなく亡くなっているという。『雪月花』に見初められて命を吸い取られたと。弾き手の命を吸い取って花を咲かせる妖かしの花月琴、それが『雪月花』だというではないか。恥ずかしながら、私はそこまで調べずに贈ってしまってね。とても恐ろしくなってしまった。ミゼアスは花吹雪まで出してしまったしね」
アデルジェスも花吹雪は見せてもらった。あの不思議な花びらは今も忘れられない。
「私の恐れたとおり、その後間もなくミゼアスは倒れた。医者もさじを投げる状態にまでなってしまったのだ。私は愕然としたよ。私のせいだと思い、名医を連れて行った。しかし誰もがもう手の施しようがないと言ったのだ」
ウインシェルド侯爵の顔が苦しげに歪む。
「そこで私はある方に頼み込んだ。とても強力な魔術師だ。本来、表舞台に出てくる方ではないのだが、どうにか説得してミゼアスを診てもらった」
先ほどヴァレンから、ウインシェルド侯爵は魔術医を連れてきたと聞いた。魔術医とは医術を扱う魔術師のことである。
本当の魔術師というのは庶民には縁がない存在だ。王家の庇護の下で囲われている正当な魔術師のほかは、山や森の奥など人里離れた場所にひっそりと存在しているという噂があるくらいだ。
街中で魔術師を名乗っている者もいるが、簡単な一つか二つの術を使えるのならまだ良いほうで、ほとんどはいかさまである。体系立てた知識がないために『魔術師』の域に達することができないのだという。
正当な魔術師は王家に囲われ、その知識を外部に持ち出すことを禁じられているのだ。
もしかしたら、この島と似たようなものかもしれないとアデルジェスはふと思った。
「ミゼアスの病は『雪月花』のせいではないと言われたよ。『雪月花』はただある条件を持った弾き手に反応して花吹雪を出すだけで、それ自体に命をどうこうということはないそうだ。それを聞いて少し安心はしたが、ミゼアスが良くなるわけではない。ミゼアスを治してくれと私は頼んだ」
ウインシェルド侯爵はそっと宙を仰ぐ。
「代償を伴う、と言われたよ。完全に治すのは無理だとね。それでもお願いしますと私は頼み込んだ。ミゼアスの考えも聞かず、勝手だったけれどね。でも、私はミゼアスに生きていてほしかったのだよ。あの子のためではない、私の身勝手なのだ」
「……侯爵……」
ミゼアスの年齢が出てきたところで、アデルジェスははっとした。そういえば正確な年齢は教えてもらっていないのだ。
「確か、今年で二十一だよ」
「にっ、にじゅういち……!?」
ついアデルジェスは驚きの声をあげてしまう。
見かけよりかなり年上だというのは知っていた。しかし、自分よりも年上だとは思わなかったのだ。まさか二十代だったとは、考えもしなかった。
見かけどおりの年齢ではないと知ったとき、十七歳と推定した。アデルジェスが十九歳だから二歳差でちょうどよいとも思ったのだ。しかし実際は二歳差に違いはなかったが、ミゼアスのほうが年上だった。
「知らなかったのかね?」
「見かけより年上だっていうのは聞いていましたが、実際の年齢は初めて聞きました……」
「あの子が大病を患ったことは知っているかね?」
「はい、それは聞きました。その後遺症で成長が止まったと……」
「そうだね。あれはあの子が十五歳のときだった。十五歳の誕生祝いに『雪月花』を贈ったのだよ。名手が奏でれば花びらが舞うという花月琴だ。ミゼアスならできるだろうと思ったが、予想を超えて花吹雪にまでなったのだよ。驚いて、私は文献を調べた」
花吹雪を出せた弾き手はその後まもなく亡くなっていると、ミゼアスは言っていたような気がする。
「すると、今まで花吹雪を出した者はその後間もなく亡くなっているという。『雪月花』に見初められて命を吸い取られたと。弾き手の命を吸い取って花を咲かせる妖かしの花月琴、それが『雪月花』だというではないか。恥ずかしながら、私はそこまで調べずに贈ってしまってね。とても恐ろしくなってしまった。ミゼアスは花吹雪まで出してしまったしね」
アデルジェスも花吹雪は見せてもらった。あの不思議な花びらは今も忘れられない。
「私の恐れたとおり、その後間もなくミゼアスは倒れた。医者もさじを投げる状態にまでなってしまったのだ。私は愕然としたよ。私のせいだと思い、名医を連れて行った。しかし誰もがもう手の施しようがないと言ったのだ」
ウインシェルド侯爵の顔が苦しげに歪む。
「そこで私はある方に頼み込んだ。とても強力な魔術師だ。本来、表舞台に出てくる方ではないのだが、どうにか説得してミゼアスを診てもらった」
先ほどヴァレンから、ウインシェルド侯爵は魔術医を連れてきたと聞いた。魔術医とは医術を扱う魔術師のことである。
本当の魔術師というのは庶民には縁がない存在だ。王家の庇護の下で囲われている正当な魔術師のほかは、山や森の奥など人里離れた場所にひっそりと存在しているという噂があるくらいだ。
街中で魔術師を名乗っている者もいるが、簡単な一つか二つの術を使えるのならまだ良いほうで、ほとんどはいかさまである。体系立てた知識がないために『魔術師』の域に達することができないのだという。
正当な魔術師は王家に囲われ、その知識を外部に持ち出すことを禁じられているのだ。
もしかしたら、この島と似たようなものかもしれないとアデルジェスはふと思った。
「ミゼアスの病は『雪月花』のせいではないと言われたよ。『雪月花』はただある条件を持った弾き手に反応して花吹雪を出すだけで、それ自体に命をどうこうということはないそうだ。それを聞いて少し安心はしたが、ミゼアスが良くなるわけではない。ミゼアスを治してくれと私は頼んだ」
ウインシェルド侯爵はそっと宙を仰ぐ。
「代償を伴う、と言われたよ。完全に治すのは無理だとね。それでもお願いしますと私は頼み込んだ。ミゼアスの考えも聞かず、勝手だったけれどね。でも、私はミゼアスに生きていてほしかったのだよ。あの子のためではない、私の身勝手なのだ」
「……侯爵……」
2
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話
ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。
悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。
本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ!
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
子悪党令息の息子として生まれました
菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!?
ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。
「お父様とお母様本当に仲がいいね」
「良すぎて目の毒だ」
ーーーーーーーーーーー
「僕達の子ども達本当に可愛い!!」
「ゆっくりと見守って上げよう」
偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。
意中の騎士がお見合いするとかで失恋が決定したので娼館でヤケ酒煽ってたら、何故かお仕置きされることになった件について
東川カンナ
BL
失恋確定でヤケを起こした美貌の騎士・シオンが娼館で浴びるほど酒を煽っていたら、何故かその現場に失恋相手の同僚・アレクセイが乗り込んできて、酔っぱらって訳が分からないうちに“お仕置き”と言われて一線超えてしまうお話。
そこから紆余曲折を経て何とか恋仲になった二人だが、さらにあれこれ困難が立ちはだかってーーーー?
番って10年目
アキアカネ
BL
αのヒデとΩのナギは同級生。
高校で番になってから10年、順調に愛を育んできた……はずなのに、結婚には踏み切れていなかった。
男のΩと結婚したくないのか
自分と番になったことを後悔しているのか
ナギの不安はどんどん大きくなっていく--
番外編(R18を含む)
次作「俺と番の10年の記録」
過去や本編の隙間の話などをまとめてます
螺旋の中の欠片
琴葉
BL
※オメガバース設定注意!男性妊娠出産等出て来ます※親の借金から人買いに売られてしまったオメガの澪。売られた先は大きな屋敷で、しかも年下の子供アルファ。澪は彼の愛人か愛玩具になるために売られて来たのだが…。同じ時間を共有するにつれ、澪にはある感情が芽生えていく。★6月より毎週金曜更新予定(予定外更新有り)★
【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】
海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。
発情期はあるのに妊娠ができない。
番を作ることさえ叶わない。
そんなΩとして生まれた少年の生活は
荒んだものでした。
親には疎まれ味方なんて居ない。
「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」
少年達はそう言って玩具にしました。
誰も救えない
誰も救ってくれない
いっそ消えてしまった方が楽だ。
旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは
「噂の玩具君だろ?」
陽キャの三年生でした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる