102 / 138
102.親心
しおりを挟む
ウインシェルド侯爵は苦しげだった。
だがアデルジェスが同じ立場だったとしても、おそらく同じことをしただろう。ミゼアスに生きていてほしい。そのためならば、身勝手だろうと何でもする。
「ミゼアスは一命を取り留めた。しかし身体には色々と変調をきたした。まず、体力が落ちた。普通に性交などできないほどになってしまったのだ。もう白花としてやっていくことは無理と思われたし、私が身請けしたいとも申し出たのだが、それはこの島の領主に断られてしまったよ。あなたでは駄目だと言われてね」
そう言って、ウインシェルド侯爵は自嘲的な笑みを浮かべる。
「その時点ですでにミゼアスは五花だった。五花ならば多少の無理やわがままが通る。妖かしの『雪月花』を唯一完全に弾きこなせる存在というのを売りにし、花月琴の名手であることを前面に押し出した。床入りは極力避け、相手をする時間は短くという、白花としてありえないやり方だったが、それをあの子は相手を翻弄する焦らしの技として身につけてしまった。苦肉の策だったはずが、結果としてあの子の高級感を強調することになったのだ。それから今に至るまで、あの子はずっと白花の頂点として君臨している」
ミゼアスは仕事に行っても、二時間ほどで戻ってきていた。アデルジェスが来てからは、ずっと花月琴の演奏だけだったはずだ。
「そしてミゼアスの成長は止まった。もうこの先あの子が成長することはない。寿命を迎えるまであのままだそうだ」
「え……」
ミゼアスの成長が止まっているというのは聞いた。この先成長しないかもしれないも聞いていたが、こうしてきっぱりと言い切られるとさすがに心が騒ぐ。
「白花というのは、十八歳を過ぎれば賞味期限切れと言われる。ミゼアスは年齢を考えれば、とっくに引退しているべきなのだよ。それがあの十五歳で止まった外見のために、いつまででも続けられる。稼ぎ頭のため、簡単に辞めることもできない。私はミゼアスにとんでもないことをしてしまったのではないかと思うのだ」
ウインシェルド侯爵は、苦しげに額を押さえる。
「あの子を助ける条件として、私に突きつけられたものがある。それが『いつかミゼアスには本当に想う相手が現れる。島を出たいと言い出したとき、決して邪魔をしないこと』だった。その相手となら、普通に性交もできるそうだ」
アデルジェスはやや気恥ずかしさを覚えながらも、ウインシェルド侯爵の言葉に耳を傾けていた。
「私はあの子が幼い頃から目をかけ、成長をずっと見守ってきた。手元に引き取りたいとも思っていた。あの子も私のことを特別な存在とは思ってくれているようだ。だが、私では駄目なのだ。……いつかこのときが来ることはわかっていた。わかってはいたが、実際に目の当たりにすると想像以上に辛いものだな」
ウインシェルド侯爵は穏やかな諦念の笑みを浮かべてアデルジェスを見た。
とても澄んだ瞳だった。思わずアデルジェスは引き込まれそうになるのを感じる。
「ミゼアスのことをよろしく頼むよ。あの子が島を出られるよう、私も協力しよう。あの子が笑いかけてくれると、私は幸せな気分になれた。もう見られなくなるのは残念だが、笑顔そのものを奪うよりはましだ。どうかあの子のことを幸せにしてやってくれ」
だがアデルジェスが同じ立場だったとしても、おそらく同じことをしただろう。ミゼアスに生きていてほしい。そのためならば、身勝手だろうと何でもする。
「ミゼアスは一命を取り留めた。しかし身体には色々と変調をきたした。まず、体力が落ちた。普通に性交などできないほどになってしまったのだ。もう白花としてやっていくことは無理と思われたし、私が身請けしたいとも申し出たのだが、それはこの島の領主に断られてしまったよ。あなたでは駄目だと言われてね」
そう言って、ウインシェルド侯爵は自嘲的な笑みを浮かべる。
「その時点ですでにミゼアスは五花だった。五花ならば多少の無理やわがままが通る。妖かしの『雪月花』を唯一完全に弾きこなせる存在というのを売りにし、花月琴の名手であることを前面に押し出した。床入りは極力避け、相手をする時間は短くという、白花としてありえないやり方だったが、それをあの子は相手を翻弄する焦らしの技として身につけてしまった。苦肉の策だったはずが、結果としてあの子の高級感を強調することになったのだ。それから今に至るまで、あの子はずっと白花の頂点として君臨している」
ミゼアスは仕事に行っても、二時間ほどで戻ってきていた。アデルジェスが来てからは、ずっと花月琴の演奏だけだったはずだ。
「そしてミゼアスの成長は止まった。もうこの先あの子が成長することはない。寿命を迎えるまであのままだそうだ」
「え……」
ミゼアスの成長が止まっているというのは聞いた。この先成長しないかもしれないも聞いていたが、こうしてきっぱりと言い切られるとさすがに心が騒ぐ。
「白花というのは、十八歳を過ぎれば賞味期限切れと言われる。ミゼアスは年齢を考えれば、とっくに引退しているべきなのだよ。それがあの十五歳で止まった外見のために、いつまででも続けられる。稼ぎ頭のため、簡単に辞めることもできない。私はミゼアスにとんでもないことをしてしまったのではないかと思うのだ」
ウインシェルド侯爵は、苦しげに額を押さえる。
「あの子を助ける条件として、私に突きつけられたものがある。それが『いつかミゼアスには本当に想う相手が現れる。島を出たいと言い出したとき、決して邪魔をしないこと』だった。その相手となら、普通に性交もできるそうだ」
アデルジェスはやや気恥ずかしさを覚えながらも、ウインシェルド侯爵の言葉に耳を傾けていた。
「私はあの子が幼い頃から目をかけ、成長をずっと見守ってきた。手元に引き取りたいとも思っていた。あの子も私のことを特別な存在とは思ってくれているようだ。だが、私では駄目なのだ。……いつかこのときが来ることはわかっていた。わかってはいたが、実際に目の当たりにすると想像以上に辛いものだな」
ウインシェルド侯爵は穏やかな諦念の笑みを浮かべてアデルジェスを見た。
とても澄んだ瞳だった。思わずアデルジェスは引き込まれそうになるのを感じる。
「ミゼアスのことをよろしく頼むよ。あの子が島を出られるよう、私も協力しよう。あの子が笑いかけてくれると、私は幸せな気分になれた。もう見られなくなるのは残念だが、笑顔そのものを奪うよりはましだ。どうかあの子のことを幸せにしてやってくれ」
5
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話
ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。
悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。
本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ!
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
子悪党令息の息子として生まれました
菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!?
ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。
「お父様とお母様本当に仲がいいね」
「良すぎて目の毒だ」
ーーーーーーーーーーー
「僕達の子ども達本当に可愛い!!」
「ゆっくりと見守って上げよう」
偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ
意中の騎士がお見合いするとかで失恋が決定したので娼館でヤケ酒煽ってたら、何故かお仕置きされることになった件について
東川カンナ
BL
失恋確定でヤケを起こした美貌の騎士・シオンが娼館で浴びるほど酒を煽っていたら、何故かその現場に失恋相手の同僚・アレクセイが乗り込んできて、酔っぱらって訳が分からないうちに“お仕置き”と言われて一線超えてしまうお話。
そこから紆余曲折を経て何とか恋仲になった二人だが、さらにあれこれ困難が立ちはだかってーーーー?
螺旋の中の欠片
琴葉
BL
※オメガバース設定注意!男性妊娠出産等出て来ます※親の借金から人買いに売られてしまったオメガの澪。売られた先は大きな屋敷で、しかも年下の子供アルファ。澪は彼の愛人か愛玩具になるために売られて来たのだが…。同じ時間を共有するにつれ、澪にはある感情が芽生えていく。★6月より毎週金曜更新予定(予定外更新有り)★
【完結】ハシビロコウの強面騎士団長が僕を睨みながらお辞儀をしてくるんですが。〜まさか求愛行動だったなんて知らなかったんです!〜
大竹あやめ
BL
第11回BL小説大賞、奨励賞を頂きました!ありがとうございます!
ヤンバルクイナのヤンは、英雄になった。
臆病で体格も小さいのに、偶然蛇の野盗を倒したことで、城に迎え入れられ、従騎士となる。
仕える主人は騎士団長でハシビロコウのレックス。
強面で表情も変わらない、騎士の鑑ともいえる彼に、なぜか出会った時からお辞儀を幾度もされた。
彼は癖だと言うが、ヤンは心配しつつも、慣れない城での生活に奮闘する。
自分が描く英雄像とは程遠いのに、チヤホヤされることに葛藤を覚えながらも、等身大のヤンを見ていてくれるレックスに特別な感情を抱くようになり……。
強面騎士団長のハシビロコウ✕ビビリで無自覚なヤンバルクイナの擬人化BLです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる