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夢は森の香り 7
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アデルジェスはぼんやりと立っていた。
なんだか、いろいろと凄い夢を見たような気がする。よく覚えてはいないが、目覚めたときに下着がとんでもないことになっていた。
同室の連中に気づかれないよう、そっと部屋を抜け出して下着を洗った。こっそりと洗い場に行ったはずだったのに、やたらとニヤニヤした同僚に見つかって気まずい思いをしたのが、今日の始まりだ。
朝の訓練の時間になっても、どうも頭に靄がかかっているような気がしてならない。
「よそ見とは、いい度胸だな」
唐突に声をかけられ、アデルジェスはびくっと背筋を正す。おそるおそる見てみれば、上官がいた。
「こんな訓練は退屈なようだな。喜べ、もうすぐ実戦がある。おまえは最前線に送ってやろう」
「えっ……!?」
にこやかな笑みをたたえつつ、目は笑っていない上官を前にして、アデルジェスは目を見開いた。周囲では同僚たちが哀れむような眼差しを向けている。
「さあ、喜び勇んで働け。うまく手柄を立てれば、昇進だってあるぞ」
喉の奥から不気味な笑い声を漏らしつつ、上官がアデルジェスに激励の言葉を送る。しかしアデルジェスには、悪意の塊にしか思えなかった。
がっくりとアデルジェスがうなだれると、満足したように上官はその場から去っていった。周囲はとばっちりを受けないよう、アデルジェスから距離を置いて訓練している。
風だけが穏やかに吹き寄せてくる。もう自分に優しくしてくれるのは風くらいだ。ため息を漏らしながらアデルジェスは顔を上げる。
すると、ふわりと何かを届けにきたように風が舞う。ほのかな森の香りが、アデルジェスの鼻を撫でていった。
なんだか、いろいろと凄い夢を見たような気がする。よく覚えてはいないが、目覚めたときに下着がとんでもないことになっていた。
同室の連中に気づかれないよう、そっと部屋を抜け出して下着を洗った。こっそりと洗い場に行ったはずだったのに、やたらとニヤニヤした同僚に見つかって気まずい思いをしたのが、今日の始まりだ。
朝の訓練の時間になっても、どうも頭に靄がかかっているような気がしてならない。
「よそ見とは、いい度胸だな」
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「こんな訓練は退屈なようだな。喜べ、もうすぐ実戦がある。おまえは最前線に送ってやろう」
「えっ……!?」
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「さあ、喜び勇んで働け。うまく手柄を立てれば、昇進だってあるぞ」
喉の奥から不気味な笑い声を漏らしつつ、上官がアデルジェスに激励の言葉を送る。しかしアデルジェスには、悪意の塊にしか思えなかった。
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風だけが穏やかに吹き寄せてくる。もう自分に優しくしてくれるのは風くらいだ。ため息を漏らしながらアデルジェスは顔を上げる。
すると、ふわりと何かを届けにきたように風が舞う。ほのかな森の香りが、アデルジェスの鼻を撫でていった。
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