呪われた王女は黒狼王の牙に甘く貫かれる

四葉 翠花

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18.迎え

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 湯浴みを終え、一番上等なドレスに身を包んでセレディローサは最期のときを待つ。手伝ってくれたイリナは、終始無言のままだった。互いに無言のまま、時が流れる。
 口を開いてしまえば、嗚咽になってしまうとわかっているのだ。
 本当は、イリナに取りすがって泣きたい。今までの感謝を述べたい。しかし、そうしてしまえば二度と『王女』としての顔は戻らなくなる。
 イリナもセレディローサを困らせないよう、必死に言葉をこらえているのだろう。
 無言のままでも、互いに心は通じ合っていた。

 やがて、馬のいななきが聞こえた。
 砂時計の最後の砂が落ちようとしているようだ。
 ゆっくりと息を吐き出すと、セレディローサは塔の出入り口まで降りていった。口を開かないまま、イリナが後ろに続く。
 外との世界を隔てる重い扉の前に凛と立ち、セレディローサは顔を上げて待つ。
 やがてこの塔に入った日以来、開いたことのない扉がゆっくりと開いていった。

 光の中に、大きな姿がある。
 相手を見据えようとセレディローサが視線を上げると、黒い髪がかかる額に引きつったような傷跡が見えた。ぎゅっと心臓をつかまれたような恐怖が走ったが、唇を引き結んでこらえる。
 そこから視線を落としていけば、黒い瞳があった。優しく、懐かしそうな光をたたえてセレディローサを映している。

 ――この瞳は、知っている。
 まさか、まさかと思いながら、セレディローサはただ立ち尽くす。

「セレディローサ、約束どおり迎えに来た」

 低く、落ち着いた声だった。記憶にあるその人の、やや高めの澄んだ声ではない。しかし、かつて呪いを解く方法を見つけると言ったときと同じ、強い意志のこもった響きが胸を打つ。
 思わず口元に両手をあて、セレディローサは夢を見ているのだろうかと声をつまらせた。

「デイ……ネスト……?」
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