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17.そのとき

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 役目は終えたとばかりに、使者は素早く立ち去っていった。
 残されたセレディローサとイリナは呆然と立ち尽くす。
 とうとうそのときがやってきたのだろう。本物の狼ではなく、黒狼王と呼ばれる人間だとは考えもしなかったが、呪いの言葉では動物の狼と規定されていたわけではない。十分にありえる話だ。

 自分はこれから、黒狼王の手にかかって生を終えるのだろう。セレディローサは胸の前で両手を握り締め、目を閉じる。
 覚悟していたこととはいえ、いざそのときが近付くと、身体がカタカタと震え出すのを止められない。

「姫様……」

 震え、青ざめるイリナのか細い声が響く。セレディローサははっと我に返り、自らを叱咤した。

「……イリナ、湯浴みの支度を。それと、持ってきた中で一番上等なドレスを用意してちょうだい」

 王女としての仮面をかぶり、毅然とした声で侍女に命じる。

「は……はい……」

 何か言いたいのをぐっとこらえるように口を引き結び、イリナは素早く準備に取り掛かった。まるで立ち止まれば崩れ落ちてしまうというように、動きがせわしない。

 いよいよ、王女として最後の務めを果たすときが来た。
 どういった意図があって結婚ということになっているのかはわからないが、王女の結婚となれば国に関わる重要事でもある。失礼があっては、国の恥となりかねない。
 今まで王女として立派に過ごしてきたのだ。最後まで失態を犯してはならない。
 毅然とした態度で、死を迎えるのだ。

「……お母様、もうすぐお側にまいります。どうか、あなたの娘が最後まで立派に役目を果たせるよう、お守りください」
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