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19.黒狼王

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 信じられない思いで、セレディローサはデイネストを見つめた。
 かつての幼さを残す少年は、気品と野性味を併せ持つ大人の男になっていた。額の引きつったような傷跡さえ、雄々しさを添える飾りであるかのようだ。

「ずっと連絡もできず、迎えに来るのが遅くなってしまってすまなかった」

 デイネストはセレディローサの手を取る。

「父が亡くなり、王位を巡って内乱が起きた。やっと、内乱を収めることができた」

「父? 内乱? ……え? あなた、外交官の息子だったのでは……」

「俺は先王の妾妃の息子だ。外交官である身内に預けられていたんだよ」

「ええっ!? じゃあ、跡継ぎに指名されたっていうのが、あなたなの? 内乱を収めることができたって……まさか、黒狼王っていうのは……」

 セレディローサがデイネストを見上げると、デイネストはにやりと笑った。

「そう、今や俺が王だ。正妃の息子から王位を奪った、黒狼王。もう俺に反対する者はいない。誰はばかることなく、妃を迎えられる」

 自信にあふれた声で宣言し、デイネストはセレディローサの手を優しく包み込む。

「こんなところに閉じ込められて、恐ろしかっただろう。もう大丈夫だ。俺と一緒に、俺の国に行こう」

「で……でも……狼が……あなたが黒狼王っていうことは……」

 しどろもどろになりながらセレディローサは呟く。呪いを解く方法を見つけると言ったデイネストが黒狼王ということは、セレディローサはどうなるのだろうか。

「ああ、そうだった。俺の国に行く前に、やっておくことがある。呪いを発動させてしまおう」

「呪いを発動……?」

「一字一句、違わずに聞いてきた。『王女様は十八のとき、狼の牙に貫かれます。しかし恐怖と苦痛のうちにではなく、幸福と快楽のうちに王女様は生を終えるのです』だったな。呪いを取り消すことはできない。だから発動させ、終わらせてしまうんだ。それでセレディローサは助かる」

「ど……どうやって……?」

「大丈夫、俺にまかせて」

「きゃっ……」

 デイネストに横抱きにされ、セレディローサは小さく悲鳴を上げる。

「寝室はどこだ?」

 セレディローサを軽々と抱えたまま、デイネストは歩いていく。
 最初はセレディローサと共に仰天していたイリナだったが、今や満面の笑みを浮かべて『こちらでございます!』とデイネストを案内する。
 やがて寝室にたどりつくと、天蓋つきの寝台の上にセレディローサは横たえられた。
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