ヴァレン兄さん、ねじが余ってます

四葉 翠花

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45.愛の結晶

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「そういえばさ、俺の実家と取引していたとこの息子が、俺に会いたいんだって。俺も十年くらい前に一度、会ったことがあるんだけれどさ」

「……何ですって?」

「ミゼアス兄さんの旦那になったジェスさんと同級生だったんだって。世間って狭いよなー」

 夕月花が生贄を必要とする花だと教えてくれた商人は、昔ヴァレンも一度だけ会ったことがある相手だった。思わぬ繋がりに、驚いたものだ。

「……まさか、あなたまでその相手と島を出て行くつもりですか?」

「いやいや、いくらミゼアス兄さんが幼馴染だったジェスさんと島を出て行ったからって、飛躍しすぎ。小さい頃に一度会っただけで、別に言い交わしたとか、そんなんじゃないから。今回の夕月花の件で俺のことを知って、懐かしくなったんじゃないのかな」

「……まあ、島にいてくださるというのなら、構わないのですが……」

 納得しきれないようだが、無理やり自らに言い聞かせるように呟くエアイール。

「おまえを一人にはしない。側にいてやるよ」

 寝転がりながら、ヴァレンはエアイールの頬に向かって手を伸ばす。エアイールの目が大きく見開かれた。

「えっ……それって、まさか……うっ!?」

 おそるおそるといった様子で言葉を紡ぐエアイールが、突然、悲鳴をあげる。
 何事かとヴァレンが身を起こしてみれば、エアイールの肩に吸盤のついた足がうねうねと蠢いているのが見えた。
 エアイールの首の後ろにタコが張り付いているようだ。

「あー……」

 思わず宙を仰ぐヴァレン。

「なっ……なんなんですか、これは!」

 タコを引き剥がそうと格闘しながらエアイールが叫ぶ。

「守り神のタコ」

「何が守り神ですか! 厨房に持って行って、調理してもらいます!」

「いや、俺を二回も救ってくれているんだから、やめて」

 とりあえずヴァレンはエアイールからタコを離そうとする。手を伸ばせば、あっさりとタコはヴァレンの元にやってきた。
 ヴァレンの腕の中にちょこんと収まりながら、タコはエアイールと向き合う。

「……なんて生意気な……」

「いや、タコと睨み合うの、やめようよ。おまえ、今は白花第一位の五花様なんだし」

「せっかく、良いところだったのに……」

 悔しげにぶつぶつと呟くエアイール。

「どうしたのかな。まあ、おまえには墨を吐かないってことは、嫌われてはいないみたいだな。ああ、もしかしたらおまえにじゃれていたのかもよ」

「……嬉しくありません」


 二人で向き合っていると、扉を叩く音が響いた。
 どうぞと声をかければ、茶の載った盆を持ったアルンが入ってくる。

「……いつ、お二人の間に愛の結晶が誕生したのですか?」

 アルンはヴァレンの腕に抱えられたタコに視線を向けると、不思議そうに尋ねてきた。
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