ヴァレン兄さん、ねじが余ってます

四葉 翠花

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44.身勝手

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「身勝手といえば……俺の父さんは俺を逃がすため、この島に売ったらしい」

 これもミゼアスからの手紙で知った。
 ミゼアスはミゼアスで誘拐事件と関わり、かつてヴァレンの生家で働いていた者から話を聞いたのだという。
 島を離れても、未だヴァレンのことを気にかけてくれるミゼアスの心が嬉しく、ヴァレンの胸は温かさに満たされる。

「父さんは生贄のことに、薄々気付いていたみたい。商売が失敗したとき、ローダンデリアで俺を引き取ろうとしていたらしい。でも、そうなればいずれ殺されるかもしれないと思ったんだろう。俺を死んだことにした」

 今回、夕月花が生贄を必要とする花だと教えてくれたのは、ミゼアスの夫となったアデルジェスの友人だった。
 商人である彼は、親が外国の夕月花と関わったことがあり、話を聞いたことがあったそうだ。外国では未だに生贄を捧げているところもあるという。
 ヴァレンの父も、その商人のように、どこかから話を聞いたのかもしれない。

「そして俺をこの島に売った。この島に入ってしまえば、外部からそうそう手出しはできなくなる。親戚や知り合いに託しては、足がつく。俺を守るため、そうしたらしい」

 そして父は再び力をつけようと無茶をしたそうだ。結局身体を壊し、間もなく亡くなったのだという。

「父さんは、母さんのことが本当に好きだったみたい。だから、母さんの面影がある俺を見るのがつらかったんじゃないかな」

 思い返せば、いつも仕事で忙しかった父は、たまに帰ってくればヴァレンを目の届く場所に置いた。何か声をかけるわけでもなく、触れるわけでもなく、ただ黙ってヴァレンを見ていた。
 喪われた愛しい妻の面影を重ねる息子に対し、どうすればよいのかわからなかったのだろう。

 ヴァレンの母は、ヴァレンを産んで間もなく亡くなった。
 もしかしたら、父はヴァレンが命を奪ったように感じていたのではないだろうか。
 今となってはもう知る術もないが、父の中では葛藤があったようにヴァレンは思う。

 ヴァレンの父は、死の床でヴァレンに詫びていたという。
 迎えに行くつもりが、行けなくなってしまった。娼館に売られたことを恨んでいるだろう。恨んで、その恨みを糧にしてでも生き抜いてほしい。
 最期にこう願ったそうだ。

 まったくもって身勝手だと、ヴァレンは呆れる。
 エイブといい、父といい、どうしてヴァレンに恨んでくれと言うのだろうか。
 許してくれ、気にしないでくれといった言葉ならあっさり頷けるのに、恨めなどと無茶を言わないでほしい。

「でも……父さんは父さんで、俺のことを愛していたのかなあ……」

「それなら、わたくしはあなたの父君の愛にも感謝しないとなりませんね。あなたをここに連れてきてくれた愛に」

「……やっぱり、おまえが一番身勝手だよ」

 揺るがないエアイールに、ヴァレンは噴き出す。
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