ヴァレン兄さん、ねじが余ってます

四葉 翠花

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14.共通の目的

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 ヴァレンの髪に執着する変態男の身請け話を断ると、今度は客として予約を入れてきた。
 四花であるヴァレンは理由なしに断ることこそできないが、日時の変更権を持っている。その日は空いていないと突っぱねた。
 すると当然ながら、いつならば空いているのかと問われたので、三か月後と返答しておいた。三か月後になれば、まだ同じ返答をするつもりだ。

「……何ていうか、ヴァレン兄さんの言い分が通る時点で、うちの規則って意外とゆるゆるなんじゃないかという気がしてきました」

 呆れたようにアルンが呟く。

「そうだね、意外と抜け道は多いよ。ただ、ゆるゆるになるのは四花からだね。下ほど、がちがちだよ。きみはミゼアス兄さんとか俺とか、ろくでもない例ばかり見ているからあまり実感がないだろうけれど」

「……気をつけます」

 アルンは神妙な顔で頷いた。

 もうじきアルンは客を取り始めることになる。いくらアルンが将来の五花候補とはいえ、始まりは一花からだ。特権が欲しければ、昇格していくしかない。
 もっともアルンは上級候補として特別枠に入るだろうから、一花の頃からある程度の便宜が図られることにはなるだろうが。

「アルン君、きみはもうじき十二歳だ。客を取り始める前に、何か聞いておきたいことはないかい? 俺に答えられることなら答えるし、教えられることなら教えるよ」

「……ちょっとずれるかもしれませんが、聞いてもいいですか?」

「何だい?」

「ヴァレン兄さんとエアイール兄さんは、最近どういう関係なんですか?」

「はい?」

「お二人が同期だということは知っています。でも、最近はそれだけじゃなさそうですよね」

 感情をうかがわせないアルンの声が響く。
 じっと見つめてくる水色の瞳をヴァレンもしばし見つめ返したが、ややあって目を伏せ、息を吐いた。

「……鋭いね」

「エアイール兄さん付き見習いの連中からも、話は聞いています」

「きみ、エアイール付きの見習いたちとは仲が悪くなかったっけ?」

 アルンたち三人がミゼアス付きだった頃は、よく道端で喧嘩をしていたはずだ。名物にまでなっていたくらいである。

「共通の目的ができたとき、人と人は手を取り合えるんです」

「共通の目的って何だい?」

「秘密です。ところで、ヴァレン兄さんは突っ込む側、突っ込まれる側、どちらですか?」

「……突っ込まれる側だよ」

「そうですか。では、お二人の間で言い交わしたとか、そういったことは?」

「いや……そこまでは……」

「ということは、まだ愛を育んでいる最中ですね。とりあえず、ここまで聞ければいいです。賭けは僕たちの勝ちになったので」

 淡々としたアルンの声に、ヴァレンは一瞬、気が遠くなりそうだった。
 愛を育んでいる最中とはいったい何だろうか。いや、それよりも、聞き捨てならない言葉があった。
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