ヴァレン兄さん、ねじが余ってます

四葉 翠花

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15.気付きたくない

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「……賭けって、何だい」

「どちらが突っ込む側で、どちらが突っ込まれる側か、です」

 ヴァレンはそっと額を押さえた。おそらく、エアイール付きの見習いたちと賭けていたのだろう。
 賭博なんて仕込んでしまったのが悪かったのだろうか。

「あ、お金は絡んでいないので大丈夫です。賭けたのは飴玉です」

「……そうかい……優秀な生徒で嬉しいよ……」

「生徒といえば、例のお客の予約が入ったんですよね。また、賭博と酒の授業ですか?」

「ああ、多分そうなるね」

 『男にしてくれ』と願ってきた客は、すでに数回通ってきている。ここ一週間くらいは間が空いているが、最初はかなり頻繁だった。
 謙虚な生徒で、ヴァレンがこうしたほうがよいと勧めたことには素直に従う。
 賭博師に向いているとはかけらも思わないが、カモにされない程度にはなってきている。

 酒はもともと、さほど弱くはないようだった。しかし、底なしのヴァレンと張り合えるほどではない。
 量を飲むよりも酒を楽しむことにしようと、ヴァレンはいろいろな種類の酒を用意した。それぞれの美味しい飲み方や、その酒にまつわる逸話などを教えている。

「ところで、あのお客の思いを叶えてさしあげる気はないのですか?」

「思い? 賭博と酒を教えているじゃないか」

「ヴァレン兄さん、気付いていないんですか?」

「何を?」

「あのお客のヴァレン兄さんを見る目……あれは、組み敷かれたいと思っている目ですよ。ヴァレン兄さんを抱くのではなく、抱かれたいんです……それも激しく」

 厳かに告げるアルンの声に、ヴァレンは肌が粟立つ。
 あの客は気が弱いとはいえ、さすがに身体は鍛えているようで逞しい。顔も悪いわけではないが、無骨だ。
 はっきり言って、欲情などしない。
 絶対に、無理だ。

「アルン君……きみは、こう……俺に何か恨みでもあるのかい?」

「いいえ、何も。ただ、ヴァレン兄さんが気付いていないなんて意外でした。ヴァレン兄さんって、自分が絡むと鈍くなりますよね。他はありえないくらい鋭いのに」

「……世の中には、知らないほうがいいっていうか、気付きたくないことがあるじゃないか。見て見ぬふりは大切なことだよ」
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