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サンダーランド王国編

何かは変わったみたいです

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 無理な体勢で体をねじる。目の前を大剣が通過。風切り音が気持ち悪い。訓練用の刃引きでも当たればかなりどころか怪我をする。
 相変わらず容赦の無い剣だ。殺す気満々じゃないかと思う。
 体勢を整えながらボクは剣を打ち込む。

 ガチン!

 あっさりと剣は受け止められる。岩を叩いたような感触。そして手が痺れる。馬鹿力め!
  
「足さばきは随分と様になってきましたな!ですが打ち込みはまだまだ足りませんな!」

 言いながらジェフさんは激しく打ち込んでくる。
 くっ!
 力任せなんだけど速い。そして重い。
 やっぱり力では対抗できない。
 肩口への一撃は剣を挿しこんで防御したけど踏ん張れなかった。
 
 ぐが・・。

 そのまま地面に潰されてしまう。
 そして首筋に剣を当てられる。

「一本ですな」

 笑うその顔には汗一つ無い。
 余裕かよ。
 ボクはもうフラフラなんですけど。

「参りました」

 ジェフさんは手を差し伸べてくる。ボクをそれを掴み起こしてもらう。
 ・・今日も一本も取れなかった。やっぱりボクには大剣を扱う才能が無い。全くいい感触もなくボコボコにされただけだった。

 ブラックバックベアを討伐してから暫くたった。

 ボクを取り巻く環境は変わった。ちょっとだけかもしれないけど変わった。
 屋敷内の使用人、第一軍団の騎士達のボクを見る目が変わったんだ。敵意に似たような視線がなくなった。普通くらい?の対応になったんだろうか。それだけでも充分過ごしやすくなった。
 困ったのは一部の人達だ。特に第一軍の副団長であるジェフさんの態度だ。気持ち悪い位変わった。
 ブラックバックベア討伐をセシリア様が説明したら刀の腕前を見せろと言われたんだ。
 少しだけ刀を使ったら、目を輝かせて質問攻めにしてきた。その後で謝罪された。跪いてだよ。怖すぎる。
 今までの不敬な態度を反省していると言われた。騎士団はもともと余所者を排除する気質が高いみたい。国内では自分達が精鋭であるというプライドがあるみたい。・・実際強いし。
 と、いうかさ・・皆はセシリア様を敬愛しているんだ。だからボクは邪魔だったらしい。
 そんな所に説明もなくいきなり放り込まれたボク。思う所は結構・・かなり・・ある。けど、そういう思いは分からないでもない。過去をぐだぐた言うのも嫌だったので謝罪を受け入れました。
 フレーザー家の一員としての態度を取るようになってくれた。第一軍団の団長はじめ幹部クラスのボクに対する態度は変わったんだ。

 ・・・それは嬉しい事なんだけど。

 ジェフさんの稽古は全く容赦が無い。むしろ、きつくなった。今までは手加減していたんだって。嘘だろ。今も、それなりには手加減はしていると言う。・・手加減はして欲しい。体ヤバいっす。
 ま、まあ、そうだと思う。体の痣が滅茶苦茶増えているんだよ。
 稽古は大剣を使っているからボクはまともに戦えない。刀は禁止みたい。仕方ないから以前にチェスターさんから貰った稽古用の剣を使っている。少しはマシに動けるようになったけど。
 容赦はない稽古はきつい。実戦は稽古より厳しいに決まっている。ここで音をあげる訳にはいかないから頑張る。
 ボクが戦場に出る事は当分ないだろうけど。いざという時は来るだろう。ここはそういう世界だ。その気持ちで稽古を頑張るんだ。

 ボクも少しは・・変わったと思う。周囲を気にするようにしたんだ。これはセシリア様の影響かな。
 セシリア様は当主であるフレーザー侯爵の唯一の子供。後継者になるべき人なんだけど武力で優れている事を示せなかった。それで後継者に選択されなかったみたい。と、セシリア様の言。
 それでも諦めず別の武芸を磨き続けたとの事。いつはか認められるようにと日々努力してきたんだって。なのにボクが養子に入ると聞く。それまでの努力が全く認められなかったとショックを受けたらしい。
 ボクに負けられないと思ったようだ。だから必要以上に当たってしまったと謝罪を受けた。理由が分かれば納得できた。だから謝罪を受け入れた。
 セシリア様も今は態度を改めてくれている。ジャネットさんも少しは改めてくれている。でもセシリア様が大好き女子。まだ拗らせているみたい。でも態度は良い方向に変わりましたよ。

「今日も一本とれませんでした。こう・・上段からの袈裟斬りを上手く払うためには剣をどう扱えばいいんですか?」
「袈裟斬りですか?ふむ。がっちり受けるのが良いですな。受けた後に弾き返すか、鍔迫り合いから押し込むですかな?払い損ねたら体で受けなければならないのですぞ。普通に死にますが宜しいので?」
「あ~。やっぱりそうなりますか。アームストロング流に攻撃を避ける型はないのです?」
「ないですな。力で受け押し返す。まずはここから始まりますな」
「はぁ、そうですか。力ですね」
「そうです。そうです。筋肉は裏切りませんぞ」

 う~むと唸りながらジェフさんは答える。この筋肉大好きマンめ。この人時間があれば筋トレしているからな。最近やっと分かってきた。
 高い身長があり体重を増やす。それに長い手足があれば相手を圧倒できるという剣術だ。これって剣術というのかボクには分からない。剣の速度はあまり求められない。力が必須の剣だ。
 ボクと相性が悪いのがよく分かる。この剣は基本を学ぶ程度にする。自分なりに工夫するしかないか。
 ジェフさんもボクのメインは刀である事を認識してもらっているから、この剣を極めろとは言ってこない。アームストロング流は基本と受けをきちんと学ぶことに理解して貰っている。

 ・・でもさ。稽古の内容がひとつも変わっていない。相変わらずしごかれている。容赦が無い。
 ・・・ほんと理解して貰っているのかな?この剣術を伸ばそうとしていないかな?
 ・・疑問だ。

 今日もめでたく虐められて今日の稽古は終わりです。・・・しんどい。
 シゴキ足りないジェフさんは放置だ。部屋で少し休もう。と、思っていたら・・。
 
「稽古は終わったの?暇なら私に稽古をつけてよ!」

 あ・・・。
 セシリア様・・だ。
 う~ん、休みたいんだけど・・・。
 チラリと声の方を向くと。輝く笑顔がそこにある。手まで振っているし。

 セシリア様も変わられた。
 父親であるフレーザー侯爵に認めて貰いたくて武術の稽古をしていたそうだ。だけどアームストロング流を習熟するのは難しいと薄々察していたらしい。
 その代わりの武術として短剣と弓矢を磨いていたそうだ。力強い近接戦を主とするフレーザー家にはマッチしなかった。
 ブラックバックベア討伐時にボクが使っていた刀に興味があったらしい。大剣では通らない攻撃相手に通る攻撃手段を知る事になったと。
 大剣はダメなボクが刀を自在に扱い討伐できた事で可能性を感じたとか。
 ・・そう。だからボクがセシリア様に刀を教えてる事になったんだ。目をキラキラさせて刀の使い方を教えてくれと言われたら・・・断れないよ。
 結果、毎日、毎日、刀を教える事になったんだ。護衛のジャネットさんは学ぶ必要は無いと断ってきたけど。がっちり見学しているからね。なんだったら見まねで型をトレースしているからね。
 

 こんな日々が始まった。ボクの周りの環境は少し変わったんだ。
 
 そうなんだけど。
 余計に疲れる毎日になっている気がする。今も疲れた表情で挨拶だけして通り過ぎようとしたら・・あっさり確保された。
 ジャネットさんがダッシュして問答無用に羽交い絞めだ。
 こういう時には何故防具を身につけてないんだろう。背中に当たるモノがめちゃくちゃ当たってますが・・。ジャネットさん・・何故かドヤ顔。セシリア様は何故か悔しそう。・・細いもんな。
 突然に胸を隠し睨まれる。ええ~?それって・・・。ボクそんなに見ていました?・・いや・・すみません。この手の勘は鋭いな。・・ごめんなさい。
 ボクは捕獲されるまま連れていかれる。今日もいつになったら休憩できるんだろう。セシリア様達と交流できるからいいのだけど。体の疲れは限界っす。

 木を削って木刀を作って稽古をしている。本当は中に鉄の芯とか入れて重さの調整をしたいのだけど。それも違うような気がするし。結局木刀なんだなと木刀で続けている。
 セシリア様は刀の才能がありそうなんだよな。振りが鋭い。集中力は元々あるからボクと同じような事はすぐできるんじゃないだろうか。
 目下の懸案は刀でアームストロング流の大剣にどのように対処するかだ。これをジャネットさんにも手伝ってもらって探っている所なのだけど。前世の僕は剣術の師範ではなかった。そもそも体を動かせなかったし。
 思考錯誤でいい形を見つけていくしかない。それもまた稽古ではあるのだろうけど。

 う~んと唸りながら稽古を見たり検討をしているときに屋敷の執事さんが来る。
 
「セシリアお嬢様、フェリックス様。屋敷にお戻りください」

 セシリア様はピクリと反応して表情を変える。興を削がれたのか不機嫌そうに見えるぞ。

「見ての通り私達は稽古中だ。止める理由は何だ?」

 やはり言葉はとげとげしい。セシリア様は稽古に夢中になっていた所だ。確かに中断はしたくないだろう。執事さんはいつもの事なのか表情を変えないで続ける。

「先触れが来ました。ご当主様がお戻りになられます。あと少しかと。お二人にお話があるそうで、急ぎお戻りください」
「父上が戻られるのか。承知した。フェリックス殿稽古は中断だ。戻るぞ」

 ええ?中断なの?フレーザー侯爵との面談が終わったら再開するの?
 多分日没になりますよ。・・・休みましょうよ。

 生返事のボクの反応を確認しないで、セシリア様は颯爽と屋敷に向かって行く。
 滅茶苦茶元気だな~。

 ボクは休みたいんですけど・・。

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