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5.今はまだ違うけど*
俺、結構子煩悩だぜ?
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***
「実迦ちゃんがアキ兄の奥さん?」
大きな目で興味津々といった様子で見上げられて、私はドギマギしてしまう。
「今はまだ違うけど、すぐにそうなるよ」
彰久さんがホットプレートを出してクレープの生地を焼きながら、サラリとそんな事を言うものだから、私はドキッとさせられてしまう。
付き合い始めて五ヶ月。彰久さんと出会って約九ヶ月。
同棲を始めて三ヶ月目になろうかと言う頃。
彰久さんの姪っ子の一穂ちゃんが、泊まりがけで遊びにやって来た。
今までは彼女が来る時は学校の事務の人だとバレるのが怖くて逃げ続けていた私だったけれど。
さすがに今は、そんな事を言っていられない立ち位置になってしまった。
彰久さんが「一穂はいつものチョコバナナでいいよな?」と声をかけて、ふっと彼女の視線がそちらに流れてホッとして。
私は左手をギュッと握りしめる。
「うん! 実迦ちゃんは?」
「ごめんね、お姉ちゃん、今ちょっとお腹いっぱいなの」
そう軽い嘘をついて誤魔化した私を、一穂ちゃんがじっと見上げてきて、ハッとしたように手を叩いた。
今日の私はコンタクトレンズで変装しているんだけど、もしかして気付かれた?
「あー! 一穂、実迦ちゃん知ってる! 事務の先生だぁ!」
やっぱり眼鏡がないくらいじゃ、児童の目を誤魔化す事は出来なかったみたい。
「バレちゃった?」
えへへって頭を掻いたら「ママで見慣れてるから!」って言われて、キョトンとさせられる。
「眼鏡のあるお顔とないお顔を見分けるの、一穂得意なのー!」
一穂ちゃんにニコッと笑われて、私は「ああ」と納得した。
「指輪、綺麗ねー!」
左手薬指のダイヤを指さされて、私は照れてしまう。
先のクリスマス、彰久さんからプロポーズをされた私は、謹んでこの指輪を受け取った。
一穂ちゃんと向き合わないと!って思ったのもそう言う経緯があったから。
年末年始でバタバタしていてまだだけど、一月の半ばにはお互いの家に挨拶する事になっている。
「一穂の父ちゃん帰ってきたらお姉さんと挨拶行くからな」
彰久さんがニッと笑って、一穂ちゃんが目をキラキラ輝かせる。
「うん! パパ、やっとこっちでのお仕事に戻れるんだってー!」
単身赴任で一人遠方で頑張っていらした彰久さんのお兄さんの晴久さんが、二月にはこちらに戻っていらっしゃるらしい。
前に私が何となく彰久さんの苗字に既視感を覚えたのは、一穂ちゃんの緊急連絡先カードを見たことがあったからだと後から気が付いた。
「兄貴が帰ってくるから俺、第三候補に降格」
そう言って事務室に緊急連絡先カードの訂正に来た彰久さんに、私はハッとしたのだ。
お兄さんは一人っ子の穂乃さんのお家へ養子に入っておられるとかで、苗字が「櫻井」さんになっていて。
櫻井一穂ちゃんの緊急連絡先カードは第一候補がお母さんの穂乃さん、第二候補が一羽ヶ瀬彰久さんだった所が、この二月からお父さんの晴久さんに変更になる。
事務の方では緊急連絡簿は余り必要ないからチラ見しただけで担任にお渡ししたからそんなに記憶に残っていなかったんだと納得した。
「ほい、お待ち遠さん」
彰久さんが差し出したクレープを、一穂ちゃんが嬉しそうに受け取って。
私は彰久さんが一穂ちゃんを喜ばせたくてクレープ作りを始めたと言う話を思い出していた。
「一穂が父親と離れるのを寂しがって毎日泣いてたからさ。兄貴が得意だったクレープを作って元気付けてやろうって思ったのがきっかけ」
最初はうまくいかなかったクレープ作りも、今は仕事に出来るまでに上達したらしい。
「俺、結構子煩悩だぜ?」
言われてお腹をスリスリされた私は、彼がプロポーズを急いだ理由に赤くなる。
「はい、期待してます」
避妊していても絶対なんてないんだと、この子がお腹にきたと分かった時、私は痛感させられた。
恐る恐る妊娠を切り出した私に、彰久さんは物凄く喜んでくれて。
それだけで私、産んでもいいんだってホッとしたのを覚えてる。
そんな私もいまは妊娠十週目。
絶賛悪阻の真っ只中な私は、大好きな彰久さんのクレープでさえも「うっ」ときてしまう始末。
彰久さんはそんな私に甲斐甲斐しく食べられそうなものを模索してくれて。
最近のお気に入りはたこ焼きです。
「夜はママも呼んでみんなでたこ焼きパーティーしような?」
一穂ちゃんにそう言って微笑む彰久さんを見つめながら、彰久さんはそのうちたこ焼き屋さんも始めてしまうんじゃないかと……そんな不安を覚えている今日この頃です。
END(2022/03/21~2022/04/10)
「実迦ちゃんがアキ兄の奥さん?」
大きな目で興味津々といった様子で見上げられて、私はドギマギしてしまう。
「今はまだ違うけど、すぐにそうなるよ」
彰久さんがホットプレートを出してクレープの生地を焼きながら、サラリとそんな事を言うものだから、私はドキッとさせられてしまう。
付き合い始めて五ヶ月。彰久さんと出会って約九ヶ月。
同棲を始めて三ヶ月目になろうかと言う頃。
彰久さんの姪っ子の一穂ちゃんが、泊まりがけで遊びにやって来た。
今までは彼女が来る時は学校の事務の人だとバレるのが怖くて逃げ続けていた私だったけれど。
さすがに今は、そんな事を言っていられない立ち位置になってしまった。
彰久さんが「一穂はいつものチョコバナナでいいよな?」と声をかけて、ふっと彼女の視線がそちらに流れてホッとして。
私は左手をギュッと握りしめる。
「うん! 実迦ちゃんは?」
「ごめんね、お姉ちゃん、今ちょっとお腹いっぱいなの」
そう軽い嘘をついて誤魔化した私を、一穂ちゃんがじっと見上げてきて、ハッとしたように手を叩いた。
今日の私はコンタクトレンズで変装しているんだけど、もしかして気付かれた?
「あー! 一穂、実迦ちゃん知ってる! 事務の先生だぁ!」
やっぱり眼鏡がないくらいじゃ、児童の目を誤魔化す事は出来なかったみたい。
「バレちゃった?」
えへへって頭を掻いたら「ママで見慣れてるから!」って言われて、キョトンとさせられる。
「眼鏡のあるお顔とないお顔を見分けるの、一穂得意なのー!」
一穂ちゃんにニコッと笑われて、私は「ああ」と納得した。
「指輪、綺麗ねー!」
左手薬指のダイヤを指さされて、私は照れてしまう。
先のクリスマス、彰久さんからプロポーズをされた私は、謹んでこの指輪を受け取った。
一穂ちゃんと向き合わないと!って思ったのもそう言う経緯があったから。
年末年始でバタバタしていてまだだけど、一月の半ばにはお互いの家に挨拶する事になっている。
「一穂の父ちゃん帰ってきたらお姉さんと挨拶行くからな」
彰久さんがニッと笑って、一穂ちゃんが目をキラキラ輝かせる。
「うん! パパ、やっとこっちでのお仕事に戻れるんだってー!」
単身赴任で一人遠方で頑張っていらした彰久さんのお兄さんの晴久さんが、二月にはこちらに戻っていらっしゃるらしい。
前に私が何となく彰久さんの苗字に既視感を覚えたのは、一穂ちゃんの緊急連絡先カードを見たことがあったからだと後から気が付いた。
「兄貴が帰ってくるから俺、第三候補に降格」
そう言って事務室に緊急連絡先カードの訂正に来た彰久さんに、私はハッとしたのだ。
お兄さんは一人っ子の穂乃さんのお家へ養子に入っておられるとかで、苗字が「櫻井」さんになっていて。
櫻井一穂ちゃんの緊急連絡先カードは第一候補がお母さんの穂乃さん、第二候補が一羽ヶ瀬彰久さんだった所が、この二月からお父さんの晴久さんに変更になる。
事務の方では緊急連絡簿は余り必要ないからチラ見しただけで担任にお渡ししたからそんなに記憶に残っていなかったんだと納得した。
「ほい、お待ち遠さん」
彰久さんが差し出したクレープを、一穂ちゃんが嬉しそうに受け取って。
私は彰久さんが一穂ちゃんを喜ばせたくてクレープ作りを始めたと言う話を思い出していた。
「一穂が父親と離れるのを寂しがって毎日泣いてたからさ。兄貴が得意だったクレープを作って元気付けてやろうって思ったのがきっかけ」
最初はうまくいかなかったクレープ作りも、今は仕事に出来るまでに上達したらしい。
「俺、結構子煩悩だぜ?」
言われてお腹をスリスリされた私は、彼がプロポーズを急いだ理由に赤くなる。
「はい、期待してます」
避妊していても絶対なんてないんだと、この子がお腹にきたと分かった時、私は痛感させられた。
恐る恐る妊娠を切り出した私に、彰久さんは物凄く喜んでくれて。
それだけで私、産んでもいいんだってホッとしたのを覚えてる。
そんな私もいまは妊娠十週目。
絶賛悪阻の真っ只中な私は、大好きな彰久さんのクレープでさえも「うっ」ときてしまう始末。
彰久さんはそんな私に甲斐甲斐しく食べられそうなものを模索してくれて。
最近のお気に入りはたこ焼きです。
「夜はママも呼んでみんなでたこ焼きパーティーしような?」
一穂ちゃんにそう言って微笑む彰久さんを見つめながら、彰久さんはそのうちたこ焼き屋さんも始めてしまうんじゃないかと……そんな不安を覚えている今日この頃です。
END(2022/03/21~2022/04/10)
応援ありがとうございます!
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