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1.あっくんさんと、三番ちゃん
移動販売の
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「ねぇ大野先生。アルンに移動販売のクレープ屋さんが来るの知ってます?」
昼休み。
校務員の北藤勇先生、給食補助員の平山知子先生とともに、職員室の先生方への給食の配膳を終えて。
二人とともに事務室の自分の席に戻って「いただきます」をしたところで、図書室から降りてきた司書の新川紗枝先生に声を掛けられた。
アルンは勤め先近くにあるスーパーの名前だ。
私の右隣の席に座りながら、給食ではなく持参の手作り弁当を広げる彼女をチラリと見遣りながら
「えっ。知らないですっ」
私がそう答えるのと同時、新川先生の正面に座る平山先生が「私知ってますよ。水色のバンに乗ったクレープ屋さんですよね」と話に乗っていらした。
女性陣三人が喋る中、大抵いつも黒一点の北藤先生は、名指しで話しかけられない限り静かに聞き役に徹している。
今日もそうだった。
「移動販売……」
小学校事務員をしている私は、基本的に職場と家を行ったり来たりするだけの毎日。
学校全体の事務全般を一人でこなさないといけない、地味だけど結構忙しい仕事だから、仕事を終えるといつもヘロヘロでなかなか寄り道をしようと言う気になれなくて。
会社で言うところの経理も総務も受付嬢も、全部一人でやっている感じ。
児童らの保護者はもちろんのこと、事務室は学校の窓口的な役割も果たす場所だから。
基本的に来校なさる全てのお客様の相手をしなければならない。
電話も殆ど事務室で受けるし――職員室でも電話は鳴るけれど先生方は事務室が取るものと思っておられるのかほぼノータッチ――、先生方の福利厚生や給与計算関係も学校事務員の仕事。
子供たちが給食の配膳の時に使う台拭きなどをクラス毎に準備して……回収した布巾を洗って干して、明日の配膳に備えるのも事務職員たる私の役目。
学校教務システムC4thで届いた書類を各先生方に配るのも私の仕事。
校長室に来客があればお茶も出さないといけない。
その隙間を縫うように銀行回りや様々な事務処理もこなさないといけないから……正直身体がいくつあっても足りないというのが本音なの。
学校の規模によっては数名の事務員で役割分担をするところもあるけれど、残念ながら私の配属校は事務員が一人体制。
因みに配属先の小学校は一学年二クラスの、全校児童五〇〇人に満たない学校だ。
昨今の少子化で、市内でも一学年三クラス以上あるような市立小学校は三五校中二校ほどしかない。
そんな中にあって、私の勤め先小学校はそこそこの規模の学校と言えた。
***
給食から立ち昇る湯気で眼鏡が曇ってしまう。
私は眼鏡を外してデスクに置くと、少しぼやける視界で隣の席の新川先生を見た。
「クレープ、大好きですっ。私が帰る頃にもいるでしょうか」
「いつも帰られるの、何時ごろですか?」
新川先生は二校兼務の五時間勤務。
月水金が小学校、火木が同校区内の中学校で働いていらして、毎日十五時には帰ってしまわれるから、私が何時頃まで残っているのかご存知ない。
「いつも大体十八時前後でしょうか。残業なしなら十六時半が定時なんですが」
そう言ったら、
「前にちょろっと聞いてみたんですけど、アルンのお惣菜コーナーのタイムセールが大体十七時半くらいからだから十八時ぐらいまではいるみたいです」
と嬉しい情報。
「それなら頑張ったら何とか行けそうです」
市内には実店舗を持ったクレープ屋さんがない。
昼休み。
校務員の北藤勇先生、給食補助員の平山知子先生とともに、職員室の先生方への給食の配膳を終えて。
二人とともに事務室の自分の席に戻って「いただきます」をしたところで、図書室から降りてきた司書の新川紗枝先生に声を掛けられた。
アルンは勤め先近くにあるスーパーの名前だ。
私の右隣の席に座りながら、給食ではなく持参の手作り弁当を広げる彼女をチラリと見遣りながら
「えっ。知らないですっ」
私がそう答えるのと同時、新川先生の正面に座る平山先生が「私知ってますよ。水色のバンに乗ったクレープ屋さんですよね」と話に乗っていらした。
女性陣三人が喋る中、大抵いつも黒一点の北藤先生は、名指しで話しかけられない限り静かに聞き役に徹している。
今日もそうだった。
「移動販売……」
小学校事務員をしている私は、基本的に職場と家を行ったり来たりするだけの毎日。
学校全体の事務全般を一人でこなさないといけない、地味だけど結構忙しい仕事だから、仕事を終えるといつもヘロヘロでなかなか寄り道をしようと言う気になれなくて。
会社で言うところの経理も総務も受付嬢も、全部一人でやっている感じ。
児童らの保護者はもちろんのこと、事務室は学校の窓口的な役割も果たす場所だから。
基本的に来校なさる全てのお客様の相手をしなければならない。
電話も殆ど事務室で受けるし――職員室でも電話は鳴るけれど先生方は事務室が取るものと思っておられるのかほぼノータッチ――、先生方の福利厚生や給与計算関係も学校事務員の仕事。
子供たちが給食の配膳の時に使う台拭きなどをクラス毎に準備して……回収した布巾を洗って干して、明日の配膳に備えるのも事務職員たる私の役目。
学校教務システムC4thで届いた書類を各先生方に配るのも私の仕事。
校長室に来客があればお茶も出さないといけない。
その隙間を縫うように銀行回りや様々な事務処理もこなさないといけないから……正直身体がいくつあっても足りないというのが本音なの。
学校の規模によっては数名の事務員で役割分担をするところもあるけれど、残念ながら私の配属校は事務員が一人体制。
因みに配属先の小学校は一学年二クラスの、全校児童五〇〇人に満たない学校だ。
昨今の少子化で、市内でも一学年三クラス以上あるような市立小学校は三五校中二校ほどしかない。
そんな中にあって、私の勤め先小学校はそこそこの規模の学校と言えた。
***
給食から立ち昇る湯気で眼鏡が曇ってしまう。
私は眼鏡を外してデスクに置くと、少しぼやける視界で隣の席の新川先生を見た。
「クレープ、大好きですっ。私が帰る頃にもいるでしょうか」
「いつも帰られるの、何時ごろですか?」
新川先生は二校兼務の五時間勤務。
月水金が小学校、火木が同校区内の中学校で働いていらして、毎日十五時には帰ってしまわれるから、私が何時頃まで残っているのかご存知ない。
「いつも大体十八時前後でしょうか。残業なしなら十六時半が定時なんですが」
そう言ったら、
「前にちょろっと聞いてみたんですけど、アルンのお惣菜コーナーのタイムセールが大体十七時半くらいからだから十八時ぐらいまではいるみたいです」
と嬉しい情報。
「それなら頑張ったら何とか行けそうです」
市内には実店舗を持ったクレープ屋さんがない。
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