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■番外編/『相性がいいみたいなのですっ』

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「……修太郎しゅうたろうさん、あの約束、覚えていらっしゃいますか?」

 水を口移しで飲ませてくださったあと、日織ひおりさんが僕の身体をそっとソファに横倒しにしていらして。


「ひ、おり……?」

 両肩を日織さんの細腕でそっと押さえつけられて、心臓が跳ね上がる。

 そのまま僕の上にちょこん、とまたがるように座っていらして、うっとりと僕を見下ろす日織さんに、心の中で「嘘だろ?」とつぶやいた。


 これって……日織さん、やっぱり酔っていらっしゃるんじゃ……?

 いつもなら考えられない日織さんの大胆な行動に、僕は彼女から目が離せない。

 そう言えば長いこと〝仲良し〟をしていないから今のご自分は〝危険人物〟なのだとおっしゃっていらしたのを思い出す。

 これってやはりそう言うのも影響して……?


 と、悠長にそんなことを考えていた僕に、もう一度催促するように「忘れてしまわれたわけじゃないですよね? ?」とたたみかけていらっしゃるとか。

 僕を〝呼び捨て〟になさるあたり、絶対そうだ。日織さんも、酔っておられる。


 だからといって、どうしたらいいかとか思い浮かばないまま――。

「約、束……」

 ぼんやりした頭で日織さんの言葉を復唱して……。


 過日日織さんが悪戯っ子のような笑顔を浮かべて仰った言葉を思い出した僕は、寸の間遅れてハッとした。


修太郎しゅうたろうさんが眠ってしまったら……私、何のイタズラしちゃいましょう!?〟


「あ、あの日織ひおりさん……僕はいま」

 眠っていませんよ?

 そう続けようとしたのだけれど、「しーっ」と唇に人差し指を添えられて、言葉を封じられてしまう。


「ね、お口開けてください……」

 言って、日織さんが僕の唇に添えていた手をツツッと滑らせるようにそっと合わせ目をなぞる。


「あ、の……」

 ヤバイ。
 日織さんを押し倒す妄想はいつもしているけれど、逆なんて考えたこともなかった――!

 こ、れはどうしたらいいんですかね?

 戸惑う僕に、日織さんの顔が近づいて来る。

「素直に開けないと、こじ開けちゃいますよ?」 


 ひーッ! 日織さんっ!

 ちょっと待って、ちょっと待って。
 これ、どうするのが正解ですか?

 僕の心臓は年甲斐もなく、破裂しそうにバクバクしてしまう。

 戸惑う僕を嬉しげに見下ろす日織さんが、そのまま僕の上に影を落としていらして。

 唇に這わされていた指先が、「ねぇ早く」と促すように、唇の隙間に差し込まれた。
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