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健二さん?

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 そんな私の手を、修太郎しゅうたろうさんがふいに優しく握ってくださった。

 私は彼の手の温もりに、思わず修太郎さんのお顔を見上げてから、彼が大丈夫、と言うふうにうなずいていらっしゃるのを見て、心が落ち着いてくる。

 それで、やっとのことで言葉を発することが出来るようになった。

「あ、あの……もう少し分かるように話していただけますか?」

 問えば、健二けんじさんがクスクスとお笑いになっていらして。真面目に話してるのに!と思いながらムッとして睨んだら、
「いえ。仮にも貴女はまだ俺の許婚いいなずけのはずなんですけど……見せつけてくれるな、と思いまして」

 言いながら、私と修太郎さんの繋いだ手に視線を送られる。

「あっ……」

 言われてみれば本当にその通りで。ビクッとして慌てて手を離そうとしたら、修太郎さんがそれをこばむかのようにギュッと力を込めていらした。ばかりか恋人つなぎのように指を絡めていらして――。

「健二、悪ふざけは大概たいがいにしろ。日織ひおりさんをだますような真似まねをして、められるべきは僕たちのほうだろう? 彼女をいじめるな」

 修太郎さんの牽制けんせいに、健二さんが「――ったく兄さんは冗談が通じなくて困る」と舌をお出しになられて。

「日織さん、すみません。兄との仲は俺も公認なんで気にしないでください」
 とおっしゃった。

 私にはその言葉の意味も分からなくて、ますます混乱する。

「まぁ、こんなところで話し込むのもなんですし、続きは移動してからにしませんか? 俺、上にんっすよ」

 とりあえず、健二さんのお名前で――で?――予約が入れてあるという、ホテル内のフレンチレストランへ移動しましょう、ということになった。

「あの、健二さん、いま何て……?」

 聞き間違いでなければ、彼は確かにレストランの予約は四名で、尚且なおかつどなたかをお待たせしておられる、とおっしゃった。

「ええ、もう一人増える予定なんで」

 ニッ、と笑顔になる健二さんを見て、私はキョトンとしてしまう。

 横に立っておられる修太郎さんのお顔を見つめたけれど、どうやら彼も初耳だったみたい。

「おい、健二そんな話……」

「ええ、兄さんにもしてませんでしたね。まぁ、会ってからのお楽しみってことで」

 悪びれた様子もなく健二さんがそうおっしゃるから、修太郎さんが溜め息をおつきになる。

「ホント、お前はいつも……」

 それっきり、修太郎さんはあきらめたようにその件については言及げんきゅうなさらなかった。

 代わりに、私の手をぎゅっと握っていらしたのが、下の子に手を焼くお兄さんの苦悩を物語っているようで、私は修太郎さんを困らせる健二さんのことが、何だか少しうらやましく思えてしまった。

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