上 下
63 / 233
健二さん?

4

しおりを挟む
 三人で連れ立って歩き始めたけれど、結局私は今もなお、修太郎しゅうたろうさんと手を繋いだまま。
 私のすぐ右隣に修太郎さん、左のほんの少し前方に健二けんじさん。

 歩きながら恐る恐るお二人のお顔を見比べてみたけれど、健二さんは戸惑う私を時折振り返り見ては笑われるばかり。修太郎さんはそんな健二さんとは対照的に、素知らぬ顔で澄ましていらして。でも決して私の手はお放しになられなくて。

 こちらを一向に見ようとしてくださらない修太郎さんにれて、私はそっと絡められたままの修太郎さんの手を引っ張る。

「あの……しゅ、塚田つかださん?」

 一応健二さんの前ではあるし、何となく職場モードで苗字をお呼びしたら、健二さんにクスクスと笑われてしまう。

 そんな健二さんを一瞬睨み付けると、修太郎さんが「日織ひおりさん、いつものように修太郎と……」とおっしゃって。

 確かにお二人とも私のことを先ほどから下の名前で呼んでおられるし、恐らく今はお仕事中ではないからそれでいいんだとは……思う。思うけれど、やはり高橋さんだとずっと思っていた方の前で――ましてや仮にも許婚いいなずけである健二さんの前で――その呼び方でいいのかな、とか考えてしまって、私は思い切れずに躊躇ちゅうちょする。

 さっき、修太郎さんに肩を叩かれたときは、咄嗟とっさのことで思わずお名前を口走ってしまったけれど、あの瞬間、私は健二さんの存在には気付いていなかったのだ。

 どうしていいか分からず、思わず立ち止まって、オロオロと視線をさまよわせたら、「日織ひおりさん。今更そんな鯱張しゃっちょこばらなくても大丈夫ですよ。俺、兄さんから聞いてお二人のことはおおむね知ってますし。その俺がいいって言ってるんですから堂々と呼んでやればいいんです。貴女がそんなだから兄さんだって俺に対して――」と続けようとしたところへ、修太郎さんが「健二、要らないことは言わなくていい」とさえぎっていらして。

(私がはっきりしないから、修太郎さんが健二さんに対して何かしてしまっているのでしょうか?)

 修太郎さんのお顔を下から見上げてみたけれど、修太郎さんは何もおっしゃらなかった。

 
***


「ほら、予約の時間が近いですし、あの人は待たせると後が怖いので、急ぎますよ?」

 腕時計をちらりと見られた健二さんが、膠着こうちゃくしたままの微妙な空気を断ち切るように、そうおっしゃった。

 言うなりさっさと歩き出してしまう彼の後に続いて、修太郎さんが「行きましょう」と手を引いてくださる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】私を乱す彼の指~お隣のイケメンマッサージ師くんに溺愛されています~【完結】

衣草 薫
恋愛
朋美が酔った勢いで注文した吸うタイプのアダルトグッズが、お隣の爽やかイケメン蓮の部屋に誤配されて大ピンチ。 でも蓮はそれを肩こり用のマッサージ器だと誤解して、マッサージ器を落として壊してしまったお詫びに朋美の肩をマッサージしたいと申し出る。 実は蓮は幼少期に朋美に恋して彼女を忘れられず、大人になって朋美を探し出してお隣に引っ越してきたのだった。 マッサージ師である蓮は大好きな朋美の体を施術と称して愛撫し、過去のトラウマから男性恐怖症であった朋美も蓮を相手に恐怖症を克服していくが……。 セックスシーンには※、 ハレンチなシーンには☆をつけています。

【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。 地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。 ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。 イラスト提供 千里さま

若妻シリーズ

笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。 気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。 乳首責め/クリ責め/潮吹き ※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様 ※使用画像/SplitShire様

【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」 「え、じゃあ結婚します!」 メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。 というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。 そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。 彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。 しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。 そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。 そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。 男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。 二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。 ◆hotランキング 10位ありがとうございます……! ―― ◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ

【R18】優しい嘘と甘い枷~もう一度あなたと~

イチニ
恋愛
高校三年生の冬。『お嬢様』だった波奈の日常は、両親の死により一変する。 幼なじみで婚約者の彩人と別れなければならなくなった波奈は、どうしても別れる前に、一度だけ想い出が欲しくて、嘘を吐き、彼を騙して一夜をともにする。 六年後、波奈は彩人と再会するのだが……。 ※別サイトに投稿していたものに性描写を入れ、ストーリーを少し改変したものになります。性描写のある話には◆マークをつけてます。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【完結】【R18短編】その腕の中でいっそ窒息したい

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
私立大学の三年生である辻 朱夏《つじ あやか》は大層な美女である。 しかし、彼女はどんな美形に言い寄られてもなびかない。そんなこともあり、男子学生たちは朱夏のことを『難攻不落』と呼んだ。 だけど、朱夏は実は――ただの初恋拗らせ女子だったのだ。 体育会系ストーカー予備軍男子×筋肉フェチの絶世の美女。両片想いなのにモダモダする二人が成り行きで結ばれるお話。 ◇hotランキング入りありがとうございます……! ―― ◇初の現代作品です。お手柔らかにお願いします。 ◇5~10話で完結する短いお話。 ◇掲載先→ムーンライトノベルズ、アルファポリス、エブリスタ

ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編

タニマリ
恋愛
野獣のような男と付き合い始めてから早5年。そんな彼からプロポーズをされ同棲生活を始めた。 私の仕事が忙しくて結婚式と入籍は保留になっていたのだが…… 予定にはなかった大問題が起こってしまった。 本作品はシリーズの第二弾の作品ですが、この作品だけでもお読み頂けます。 15分あれば読めると思います。 この作品の続編あります♪ 『ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編』

処理中です...